「なにを?」
柊木が膝の上で頬杖をつきながら、片方の口角をあげる。
「胸キュンシーン、俺も一緒に考えてモデルにでもなろっか。そしたらスランプっての抜け出せるかもしれねーじゃん」
「い、いやいやいや! 柊木に手伝ってもらう理由ないし!」
慌てて俺は首を横にふる。手伝ってもらえるのは嬉しいけど、柊木に再現してもらうのは刺激が強すぎるだろ。
「ただでとは言わない」
なにか対価を求めていることを察して、生唾をのむ。柊木は目を細めると、細長い指先を俺の膝の上に伸ばす。
「その弁当」
「……弁当?」
「交換しよ」
口をぼかんと開けたまま、俺は無言で首を傾げた。なんで急に弁当を交換することになるんだ。
「それって、本当に柊木にメリットあるの?」
俺の弁当は毎朝家族の人数分を手作りしている。料理は得意な方なので、味は美味しいとは思うけど、共働きの両親のリクエストに応えておかずはほとんど肉を使っていて茶色づくしだ。正直栄養満点とはいえない。
「ある」
きっぱりと言い切る柊木は、横に置いてあった袋から黒色の弁当箱を取り出すと、「見ろよ」と蓋を開けた。そこはまるで、森林だった。
綺麗に並べられたブロッコリーとほうれん草や小松菜。そして隙間を埋める銀杏切りの人参と枝豆、かぼちゃ。
「……マイナスイオンが出ていそうな弁当だな」
「妹が毎朝これを俺に渡してくんだよ。でも残すわけにはいかねぇし」
中身がなんであれ、妹の弁当を残すのは気が引けるらしい。仲がいいんだか悪いんだかわからないな。
「他の具材入れてって言えばいいんじゃないの」
「夜に肉ばっか食ってるから野菜もとれってうるさいんだよ」
てっきり怒らせて嫌がらせでもされているのかと思ったけれど、兄の健康を心配しているいい妹みたいだ。それにしても、これは少しやりすぎではあるけど。
「三崎の弁当うまそうだなーって前から思ってたんだ。だからさ、俺と交換しよ」
俺の肉づくし弁当と交換するのは、兄の健康のために野菜弁当を作っている妹さんに悪気がする。それなら……とあることを思いついて、俺はニッと笑う。
「じゃあ、半分にするのは? 俺のおかずと、柊木のおかずを半分ずつしたらちょうどいいと思うんだ」
それなら栄養面の偏りも防げる。柊木は肉づくしがよかったのか、渋々といった様子で頷いた。
「でも漫画の手伝いとかはしなくていいよ」
「なんで?」
「俺が自分で考えるから大丈夫」
「ふーん」
漫画は俺自身の問題だし、家でゆっくりアイディアを捻り出せばいい。柊木の力を借りて巻き込むよりも、その方が気は楽だ。
弁当箱の蓋を開けると、柊木が身を乗り出して覗き込んでくる。
「やっぱうまそうだな」
「この肉団子と、こっちの生姜焼きは自信作」
お互いにおかずを半分ずつわけあう。俺が作ったおかずを柊木は「うまい」と呟きながら食べてくれる。それが嬉しくて頬が緩んだ。
高校では静かに地味に過ごしたいから、誰かと親しくなるつもりなんてなかった。だけど柊木と話していると、誰かと一緒に過ごす時間っていいなと感じる。
たまにはこういう日もいいかもしれない。
