その日、柊木は休み時間になるたびにひとりでどこかに消えてしまった。
いくら探しても見当たらない。本気で俺と以前のように親しくするつもりがないのだろう。
柊木が突然冷たくなったのは、間違いなく学校で流れている噂のせいだ。
噂話なんて気にしなそうなのに、どうして頑なに周囲と距離を置こうとしているのだろう。
俺が今まで見てきた柊木はどんな人物だった?
気だるげで、そっけなく見えるけれど、優しくて……そして妹を大事にしている。
「……そうか」
もしも本当のことを話せば、妹の芹菜ちゃんも事情を聞かれるかもしれない。
昨日警察に行った方がよかったけれど、昨日は警察に言わずに家に帰ることになった。理由は、芹菜ちゃんが下手に噂になって、学校で変な目で見られるのが怖いと言っていたからだ。
たまたま通りかかって、助けただけだと主張することもできるけれど、そうなるとラブホに連れ込まれそうになった女子高生の証言が必要になるだろう。
しかもあの写真を撮られている以上は、先生たちが信じてくれるかわからない。
もう一度、拡散された写真を確認する。
そこの端の方に写っているものを見て、俺は思わずスマホを握りしめた。
***
「柊木、ちょっといいか」
放課後、柊木を担任が呼び出した。柊木は抵抗することなく、担任について教室を出て行く。
その光景を見ていた生徒たちは、停学か退学じゃないかと噂しはじめる。
黙って流れに身を任せようとしている柊木に、無性に腹が立った。このままだと、本当に処罰を受けるはずだ。
『もう俺に話しかけんなよ』
そんなことを言いながら、柊木は手をきつく握りしめて微かに震えていた。
急いで柊木と担任の後を追っていく。二階の職員室を覗くと、ふたりの姿はない。どこに行ったのだろう。
前にクラスのやつが問題を起こして呼び出されたとき、進路指導室へ連れていかれたと言っていたので、柊木もそこに連れていかれたのかもしれない。
職員室のすぐ近くにある進路指導室のドアがひとつだけ閉まっていた。ドアの近くまで行き、耳を澄ませる。
「お前ここに出入りしていたんだろ」
聞こえてきたのは生活指導の先生の声だった。
「だったら、なんだよ」
反抗的に返しているのは、柊木で間違いない。
妹を守るために本当のことを言わないとしても、たまたま通りかかって助けたと言えばいいのに、本当のことを言って信じてもらおうともしない。
「ここに写っている女子生徒を連れ込もうとしてたんだろ? 普段からこういうことをしているのか?」
完全に疑っているのが話し方から伝わってくる。これでは柊木がたとえ真実を話しても、疑いは晴れなそうだ。
「おい! なんとか言え!」
「だいたいお前、自分がなにをしてるかわかってんのか?」
責め立てる教師たちの声を聞いて、俺は歯を食いしばる。
……たとえ鬱陶しがられたとしても、このまま黙っていたくない。
ドアに手をかけて、勢いよく開ける。
教師五人がパイプ椅子に座っていて、部屋の端の方に柊木が立っていた。
全員が驚いた様子で目を丸くして俺を見ている。
「俺が一緒にいました」
深く息を吸って、大きな声で先生たちに向かって証言をした。
「証拠なら、これです! ここに写っているのが俺です」
拡散されている画像の隅に、俺が写っている。見切れているけれど、よく見れば俺の横顔だとわかるはずだ。
先生たちは画像をまじまじと見ながら、「たしかに」とつぶやく。
「この黒い服を着ている男に、女子高生が連れ込まれそうになっていたので、柊木と助けるために声をかけたんです」
さっきまで柊木を責めていた教師たちは顔を見合わせる。
「それならどうして、そう言わないんだ」
自分たちが間違っていたのに、謝罪もせず柊木を責める言い方をしていて、俺は眉を寄せた。
「柊木が本当のことを言ったら、先生たちは信じてくれましたか?」
「……三崎、いいって」
止めようとしてくる柊木をキッと睨みつける。
「よくないだろ! なんで俺もいたって言わないんだよ!」
「それは、お前まで巻き込みたくなかったから……」
「巻き込めよ! 関係ないって突き放される方が俺は嫌だ!」
「俺のせいでお前まで停学になったらどうすんだよ!」
言い合いを始める俺らに困惑した先生たちが、「落ち着きなさい」と止めに入ってくる。
「俺らはなにも後ろめたいことはしていないですし、それでも罰したければ罰してください! その代わり、柊木に罰を与えるなら一緒にいた俺にも平等に与えてください!」
向かって堂々と言い放つと、先生たちは頭を抱えながらため息を漏らす。
「わかったから。とりあえず、事情をもう少し詳しく事情を聞かせてくれ」
