アニマルクレープの近くにたどり着くと、甘ったるい匂いが漂ってくる。ワゴンの前には人が溢れていた。女子高生や親子連れが列をなし、楽しげな声が聞こえてくる。正直、この中に男子ふたりで並ぶのは少し気が引ける。
それでも柊木は、迷いなく列の最後尾に立った。前にいた女子たちの視線が集まる。ひそひそとした声と、弾んだ空気。
やっぱり目立つ。俺は帽子のつばを下げて顔を隠した。
三十分ほど並んで、ようやく俺らの番が来た。柊木はひよこと猫でギリギリまで悩んだ結果、猫のクレープに決めたらしい。俺は元々気になっていたうさぎのクレープを選んだ。
出来上がったクレープを受け取って、近くにあるベンチに座る。
柊木は目を輝かせながら猫のクレープを見つめていて、その様子が子どもっぽくて笑ってしまう。
「写真撮る?」
俺の提案に柊木が頷く。スマホのカメラモードを起動すると、柊木が猫のクレープを大事そうに顔の近くに持ってこちらを見てくる。それだけで絵になり、見惚れてしまう。まるでモデルみたいだ。
何枚か色んな角度で撮っていると、柊木がふっと笑う。
「撮りすぎ」
時が止まったように目が逸らせない。性別とか関係なく、柊木侑李という人物は魅力的だ。
「俺も三崎のこと撮ってあげる」
「え、俺はいいよ」
柊木みたいに絵になるわけじゃないし、撮ったところで見返すこともない。
「漫画の参考になるかもしれないじゃん」
「……そっか、確かにそうだな」
すっかり漫画の参考にするという思考が抜けていた。俺よりも柊木の方がちゃんと考えてくれているかもしれない。
そうだ、これはただ放課後に遊んでいるわけじゃない。漫画の参考にするために、ふたりでクレープを買いに来たんだ。
柊木がスマホを俺に向けてくる。その姿も、キラキラと輝いて見えた。被写体より、撮影している側の方が絵になるって、どういうことだよ。
「撮るよ」
俺はうさぎのクレープを顔の横に置いて、ニッと笑ってみる。
……こんな感じでいいのか?
疑問を抱きながらも思いつく限りの表情やポーズを取ると、柊木が笑い出す。
「三崎って撮られるの苦手なんだな」
「え、そう?」
自分では上手く笑ったつもりだったが、どうやら笑えるほど酷い顔をしていたみたいだ。
「ほら」
柊木のスマホ画面には、うさぎのクレープを持ちながら、引き攣った顔をしている俺がいた。頑張って笑おうとしているけれど、怖い表情になっている。
「……俺って笑うの苦手だったんだ」
「カメラ向けられると構えちゃうのかもな。普段はそんなことないし」
「どうしたら柊木みたいに上手く写れんの?」
実は隠れてモデルでもやっていると打ち明けられても、柊木なら驚かない。なんなら入学当初、芸能人かと思っていたくらいだ。
「んー、妹が漫画家志望でさ。それでよく被写体をさせられてて」
「そうなの? 漫画家志望なんだ」
「小学生の頃から、ずっと漫画家になりたいって言ってたんだ。賞に応募してもまだ落選続きみたいだけど」
柊木の表情が柔らかくて、妹さんのことを本当に大切にしているのが伝わってくる。どうやら休日も妹に付き合って、漫画の参考になりそうな場所に一緒にいくこともあるらしい。いいお兄ちゃんなんだろうな。
「だから、俺の漫画の手伝いをしてくれるって言ったんだ」
妹で慣れているから、柊木にとっては俺の手伝いをすることにも抵抗はなかったのかもしれない。
すると、柊木は顔を横に振った。
「三崎は特別」
