満足そうに柊木が微笑むと「明日の放課後な」と言う。
これはあくまで漫画の参考にするために行くんだと心の中で自分に言い聞かせる。
柊木と関わって担当編集の岩井さんが言っていた色気の意味がなんとなくわかってきた気がする。
頬に影を落とす長いまつ毛に、ほんの僅かに上がった口角。気だるげに瞼を持ち上げてこちらを見つめる黒い双眸。ふとした仕草から色気が漂っていて、視線が奪われる。
特別な展開がなくても、キャラクターのふとした表情や仕草で魅力を引き出すということを、岩井さんは言いたいのかもしれない。
その夜、赤字を確認しながらコマ割りを見直して描き直していく。
今まで俺が描いていた漫画は、淡々と会話が進み、物語が進行していっている気がする。コマ割りも見返すと型にはまった描き方だ。
……もう少し自由に描いてもいいのかもしれない。
特に印象的にしたい部分は、あえてコマからはみ出させてみる。
そして主人公を見つめる眼差しや、表情を見せ方、そして手の動きも柊木の仕草を思い返しながら描き直す。
まだ悩む部分もあるけれど、岩井さんにメッセージを送ったところ、一旦修正した内容を確認したいと言われた。どんな反応をされるか不安で緊張しながらもデータを添付して送る。
久しぶりに漫画を描いていて心から楽しかったかもしれない。
商業だからきちんとしないととか、意外性よりも王道を意識しないといけないとか。
締め切りに合わせて描き上げることばかり考えて、心から楽しんで描くことを忘れていた。
疲れたけれど、充実していてその夜はぐっすりと眠れた。
