黒いキャップ帽を被り、顔が見えないようにして、空き教室から廊下を眺める。ほとんどの生徒たちは下校したものの、まだ掃除をしていて居残りしている生徒たちがちらほらいる。
「三崎、今から犯罪でもする気?」
廊下に立ち、俺のことを呆れた表情で眺めてくる柊木。その腕を俺は勢いよく引っ張った。
「そこにいたら目立つ!」
立っているだけで光を放つような存在なのだから、隠れてもらわないと困る。
「別に気にしなくていいと思うけど」
「俺らが一緒にいるところをクラスの人たちに見られたら、色々聞かれるだろ」
今まで接点のなかった俺と柊木がふたりで下校して、クレープを食べていたなんて知られたら、妙な噂の的になる気がする。それくらい柊木は男女から人気のある存在なのだ。
「友達になったって言えばいいじゃん」
「……それは、そうだけど。なにがきっかけでか聞かれたら困るし」
「んー、たまたま廊下でぶつかって、それ以来少しずつ話すようになったとかでよくね? そんな詳しく話す必要もないだろ」
その説明なら嘘はないし、確かに柊木の言うとおり、詳しく話す必要もないか。
問題なのは、俺が注目を浴びるのが苦手ということだ。
きっかけは中一のある出来事だ。
帰るタイミングで雨が降ってきてしまい、傘を持っていなかった俺をクラスの人気が高い女子が傘に入れてくれた。たったそれだけのことが、翌日には広まってしまったのだ。
仲が良かった友達も、照れて否定しているだけだと思って、俺の言っていることを信じてくれない。
それに教室にいるだけで、他クラスの生徒たちが俺のことを見にくる。
それ以来、注目を浴びることが苦手になり、俺はあまり積極的に人に関わらなくなった。
だから、あのときみたいになるのではないかと怖いのだ。
「三崎」
名前を呼ばれて顔を上げると、柊木が俺の腕を掴む。
「人いなくなったから、今のうちに行こ」
「え、あ……うん」
ぐいっと腕を引っ張られて廊下に出た。さっきまでいた生徒たちはみんないなくなっている。
