だから、恋を教えて



数秒無言の時間が続く。ひょっとしたら引かれたかもしれない。

冗談のつもりだったのに、本気に取られてドン引きされたら気まずい。


「あの、」
冗談だからと言おうとして柊木から離れると、至近距離で視線が交わる。


「俺も耳弱いかも」

柊木は照れくさそうに俺から目をそらす。揶揄われているのかと思ったけれど、柊木の耳も首筋も赤い。本気で照れているのだとわかり、俺まで恥ずかしくなってきた。


「……悪い」
「いーよ、俺も似たようなことしたし」

顔を見るのが恥ずかしくて、俺は柊木の隣に座りながら、極力正面を向く。くすぐったい感覚がなかなか抜けてくれない。


「三崎は帰ったらいつもなにしてんの。漫画?」

突然話題が変わり、俺は考えるように天井を見上げる。これといって面白い話は何もない。俺の日常は平凡だ。


「掃除と夕飯の支度して、あとは漫画描いてることが多い」

漫画家デビューが決まる前までは、バイトもしていたけど今は漫画に集中しているので、基本的にこのルーティーンだ。


「……柊木は?」
あまり自分のことを話さないので、聞いていいのか迷ったけれど、さりげなく話題を振ってみる。


「誘われたら遊んでから帰る。なにもなければ、家でダラダラして終わり。あとはバイトと家事を少しやるくらい。三崎に比べたら、俺の日常なんてつまらないものだと思うけど」
「いやいやいや、十分充実してるだろ。俺は友達と遊ぶとかないし」

中学の頃の友達も今は部活やバイトが忙しくて、ほとんど会えていない。

高校では漫画を描くことに夢中だったことや、BLを描いているのを知られたくなくて、周囲を深く関わらないようにしていたのだ。
だから、学校帰りに友達と遊んでいる柊木のことがちょっと羨ましい。


「俺と遊んでんじゃん」
「え?」
「三崎にとって俺は友達じゃないの?」