「なあ、リリ先生」
西日に照らされた放課後の教室で、俺はとんでもない男に捕まっていた。
学校の中で知らない人はいないというほどの美貌を持つ男、柊木侑李。普段の憂いを帯びた雰囲気はどこへいったのか、涼やかな双眸が今は獲物を狙う獣のように、鋭く俺を射抜く。
「……その名前で呼ぶのやめろって。誰かに聞かれたら困る」
「昨日の話、考えてくれた?」
俺の逃げ道を塞ぐようにドアに手をかけ、柊木が顔を近づけてくる。目元に前髪の影が落ちて、薄い唇がわずかに上がった。その姿に生唾をのむ。
……この表情めちゃくちゃ描きたい。
指先が動きそうになり、手をきつく握りしめた。ダメだダメだ。自分を必死に律して、柊木を睨む。流されるわけにはいかない。
「俺に恋を教えてよ」
そんなもの俺が知りたいくらいだ。現実の人間に恋なんてしたことない。ただ俺は、恋を描いているBL漫画家でしかないのだ。
「漫画の手伝いしてあげるからさ。俺と疑似恋愛ごっこしよ」
甘い誘惑は、一気に俺の心をかき乱す。
柊木が手伝ってくれたら、このスランプから抜け出せるかもしれない。
