シュレディンガーはたぶん猫。

やがて陽が落ちかけた頃、草刈り作業は終了した。
教室に戻って着替えて、荷物をまとめる。

俺はそのままひとりでさっさと帰るつもりでいたが、何でか、片山と「猫」までもが一緒についてきてしまった。
公共の場なので、一応「猫」には俺の通学かばんの中に大人しくしてもらっている。

道すがらの会話で、結局、「猫」は片山のアパートに居候することになった。
一人暮らしだし家族がいるお前よりも都合がいいだろうと片山が言うので、遠慮なく頼むことにした。

そして俺たちは「猫」のことを「シュレ」と呼ぶことにした。
「シュレディンガーの猫」から取った。
長いからもっと気軽に呼べるようにと考えた結果、三文字まで縮まった。

予定通り、薬屋に向かいつつ、「こうして見ると、意外と普通だな、片山」なんてことを、俺は考える。

片山は時間にルーズで素行が悪い。
実は喧嘩も強いらしいという噂は聞いていた。

ただ、今の片山は、服装は多少だらしないものの、態度は大人しい。
こちらも同じくらい「普通っぽい感じ」で話しかけてしまうくらいには。

「包帯って、やっぱり目立つか?」

俺はちょうど座って下の方の棚を漁っていたから、会話をしようとすると、すぐ横の片山の顔を見上げる形になる。

「だな。俺も厨二病みたいだな、って思っちまったし」
「厨二病って言うな……!!」

俺は目をすわらせてしまった。
ったく、どいつもこいつも……まさかこの片山にまで、厨二病と言われるなんて!!

しかしそこに文句を言っても仕方ないので、今は店の棚の方に視線を戻した。
ちょうど目の前、あらゆる種類の包帯やテープ類、ガーゼや脱脂綿、絆創膏なんかが並べられている。

「……今後もどこに何が混ざってくるか分からないなら、やっぱり広い範囲隠せる包帯はいるよな……」

絆創膏の大きさ程度では隠せない今回みたいな変異も、また発生するかもしれない。
自宅の救急箱常設用の包帯も必要だし、買うしかないな。
少し悔しいが、包帯の下のものがバレる方が、よっぽどヤバいに違いない。

色々考えたが、結局俺は、ガーゼとテープと包帯一式をしっかり買うことにした。
それらをかごに放って、レジに向かう途中のアイス売り場のゾーンにも寄ることにする。

「ああ、これも買おう」

どの商品を買うか迷ったが、そういえば、俺は今日、ひとりで来たわけではなかったと思い直す。

「お前も食うか?二個入りだから、分ければ半額で済む」

一袋に二個入り、ちょうどいいやつが目に入ったから、隣の片山にも一応意見を聞くことにした。
あまりにも、草刈り中が暑かったからだ。
そして、片山に対する詫びの気持ちと、同じくらい「借りを作りたくない」みたいな気持ちもあった。
すると、奴は一瞬、まごまごする。

「え、あ……」
「いらないのなら別にひとりで食うが」
「く、食う!!」

翻そうとすると、いやに焦った表情で引き止められた。

「おっ、おう……」

すごい勢いで食いついたな。
アイス好きなんだろうか。

などと考えながら俺はその商品をかごに入れ、会計を終わらせて薬屋の外に出た。

適当な場所に腰を落ち着け、俺は分けたアイスを片山に差し出す。
片山はおずおずとそれを受け取り、ぽつりと言った。

「こんなふうに、何かひとつのものをふたりで分けるってのは、初めてだ」
「え?」
「孤児だから、俺。親が離婚して以来、父親と妹とは会ってないし、母親は失踪したから一人暮らしだし」
「そう、だったのか」

素行最悪男なんて、と思っていたが。
片山にも事情があって、そういう状況になっていたのだ。

「施設でも、おやつもおもちゃも、早い者勝ちだったし。対等に分けよう、とか俺に言ってくる奴もいなかった。何かもらえるとしても、対価を払わないといけなかった」

その一口目を嬉し気に口にして、片山は笑っている。

「すげー美味い」

そんな無邪気な笑い方に、俺は「さして本質は悪い奴ってわけでもないんだな、コイツ……」とつい思ってしまった。