「きっとあれも、ニュースになるな……」
「夏の終わりの怪異、ってか」
俺たちは芝生に寝転がって、しばらく空の爪痕をぼんやりと眺め続ける。
ツクツクボウシが鳴き続けている。
「生きてるんだな……俺は、まだ」
ふいに、口をついて言葉が出てきた。
あちこち痛くて、実際傷だらけだし、頭も痛い。
けど、生きている。
「片山。俺な。素粒子のこと、勉強したいかもしれない」
俺は今考えられる未来について、隣にいる男に語ることにする。
今後のための道を、率直に考えてみる。
「シュレがたまに言ってた宇宙とかシュレたちの種族のこととか、半分以上分からなかったけど、勉強したら、ちょっとは俺にも分かるかもしれないし」
ここ数カ月の間に俺たちに起こったことを整理しようと思っても、知識がないとまとまらない。
まとめたい、のだ。
シュレや虫の謎の生態も、俺たちの戦いの軌跡も、素粒子体だけになったアキオさんのあの瞬間についても、一体何が起こってどうなっていたのか、まだ頭の中で何一つ整理が追い付いていない。
ちゃんと知りたい。
それは俺の一生かけてもいい、大事なことだと思うんだ。
「けど、そっちの進路に行くなら、全然理系の頭じゃないから、たぶん今年の大学受験は絶対間に合わない。それに、まだ勉強に身が入る気はしない……色々、時間が欲しい」
未来にしたいこと、は固まった。
でも、それを実現するためには、色々とハードルがある。
まずは親の説得からか。
片山は特に茶々を入れたりはせず、黙って俺の話を聞いていた。
最後まで聞いて、一言、「そうか」と応えた。
「俺は……俺も、もう少し、考えてぇな。けど、何か、人を守れるような仕事がしたい」
しばらく沈黙を保っていたが、ぽつりと、片山も未来について口走る。
出会って初めて、ちゃんと奴の口から具体性がある「進路の希望」についての発言を聞いたかもしれない。
「……いいんじゃないか。意外と向いている気がする」
「そうか?」
「ああ」
実際に向いてそうだな、と俺は思う。
それは決して適当な相槌ってわけでなく。
片山がこう見えて、とても優しい人間だからだ。
寝そべったままの俺たちだったが、そろそろシュレが残した黒の軌跡も霧散しかけていた。
木陰にいたはずが、いつのまにか太陽の位置が動いており、おかげで今はジリジリとした太陽が腕の皮膚を焼いている。
「くそ暑いな……」
「だな……日差しが痛い、けど、もう少し……」
そう文句を言いながらも、それでも俺たちは体をくっつけ合ったまま、芝生に身を預け続けている。
ふいに、片山のその手に頭を撫でられた。
まるできょうだいにするようなやり方で、撫でられていると感じた。
ここ数カ月分の働きを労うように、全ての暴力と喪失を宥めるように、未来に繋がるように、そしてどこか、勇気付けられているようにも感じた。
コイツだって頑張ったり失ったりしたし、未来がある……。
俺も、今された以上に片山を労ってやらなければ、と素直に思った。
そうじゃないと、対等じゃない。
そしてそういうことをこの人間にやってやれる男は、もう今のところこの世に俺だけしかいないんだろう。
既にその行く末を頼まれてもいる。
最期、微笑んで消えたあの人の顔が、脳裏を過ぎった。
とはいえ、今は疲れ果てているのか、体の方はピクリとも動かなかったが。
その手を振り払わないまま、俺は目を閉じて、与えられるままの感触をただ味わった。
そろそろ本格的に秋が来るんだな、と考えながら。
例え今はまだ暑くとも、いずれ蝉の季節は完全に終わるのだ。
ツクツクボウシも、もう鳴かなくなるに違いなかった。
【おわり】
「夏の終わりの怪異、ってか」
俺たちは芝生に寝転がって、しばらく空の爪痕をぼんやりと眺め続ける。
ツクツクボウシが鳴き続けている。
「生きてるんだな……俺は、まだ」
ふいに、口をついて言葉が出てきた。
あちこち痛くて、実際傷だらけだし、頭も痛い。
けど、生きている。
「片山。俺な。素粒子のこと、勉強したいかもしれない」
俺は今考えられる未来について、隣にいる男に語ることにする。
今後のための道を、率直に考えてみる。
「シュレがたまに言ってた宇宙とかシュレたちの種族のこととか、半分以上分からなかったけど、勉強したら、ちょっとは俺にも分かるかもしれないし」
ここ数カ月の間に俺たちに起こったことを整理しようと思っても、知識がないとまとまらない。
まとめたい、のだ。
シュレや虫の謎の生態も、俺たちの戦いの軌跡も、素粒子体だけになったアキオさんのあの瞬間についても、一体何が起こってどうなっていたのか、まだ頭の中で何一つ整理が追い付いていない。
ちゃんと知りたい。
それは俺の一生かけてもいい、大事なことだと思うんだ。
「けど、そっちの進路に行くなら、全然理系の頭じゃないから、たぶん今年の大学受験は絶対間に合わない。それに、まだ勉強に身が入る気はしない……色々、時間が欲しい」
未来にしたいこと、は固まった。
でも、それを実現するためには、色々とハードルがある。
まずは親の説得からか。
片山は特に茶々を入れたりはせず、黙って俺の話を聞いていた。
最後まで聞いて、一言、「そうか」と応えた。
「俺は……俺も、もう少し、考えてぇな。けど、何か、人を守れるような仕事がしたい」
しばらく沈黙を保っていたが、ぽつりと、片山も未来について口走る。
出会って初めて、ちゃんと奴の口から具体性がある「進路の希望」についての発言を聞いたかもしれない。
「……いいんじゃないか。意外と向いている気がする」
「そうか?」
「ああ」
実際に向いてそうだな、と俺は思う。
それは決して適当な相槌ってわけでなく。
片山がこう見えて、とても優しい人間だからだ。
寝そべったままの俺たちだったが、そろそろシュレが残した黒の軌跡も霧散しかけていた。
木陰にいたはずが、いつのまにか太陽の位置が動いており、おかげで今はジリジリとした太陽が腕の皮膚を焼いている。
「くそ暑いな……」
「だな……日差しが痛い、けど、もう少し……」
そう文句を言いながらも、それでも俺たちは体をくっつけ合ったまま、芝生に身を預け続けている。
ふいに、片山のその手に頭を撫でられた。
まるできょうだいにするようなやり方で、撫でられていると感じた。
ここ数カ月分の働きを労うように、全ての暴力と喪失を宥めるように、未来に繋がるように、そしてどこか、勇気付けられているようにも感じた。
コイツだって頑張ったり失ったりしたし、未来がある……。
俺も、今された以上に片山を労ってやらなければ、と素直に思った。
そうじゃないと、対等じゃない。
そしてそういうことをこの人間にやってやれる男は、もう今のところこの世に俺だけしかいないんだろう。
既にその行く末を頼まれてもいる。
最期、微笑んで消えたあの人の顔が、脳裏を過ぎった。
とはいえ、今は疲れ果てているのか、体の方はピクリとも動かなかったが。
その手を振り払わないまま、俺は目を閉じて、与えられるままの感触をただ味わった。
そろそろ本格的に秋が来るんだな、と考えながら。
例え今はまだ暑くとも、いずれ蝉の季節は完全に終わるのだ。
ツクツクボウシも、もう鳴かなくなるに違いなかった。
【おわり】
