今回も現場は閑静な住宅地。
学校や幼稚園・保育園などの教育関係の施設も多いこの落ち着いた街に、一体何が起こっているのか――。
などなど、次の日の報道はまたこの話題ばかりで、あれで終わりじゃなかったのか、という恐怖に街は支配されていく。
夏休み中だが、ちょうど登校日のタイミングだった。
「通報がさ、公衆電話から、まるでボイスチェンジャー使ったような声だった、って。男になったり女になったり、老人かと思ったら子供みたいな声だったり、って」
「ええ?だったらそいつが真犯人なんじゃない?めっちゃ怪しいよね」
「前回の犯行もそいつの仕業だったりして?」
想定通り、またしても世間様は好き勝手に大騒ぎになっていた。
今度はあの一軒家近辺がマスコミだらけらしい。
やはり現場はわが校の通学路の途中のため、「もう二学期が始まるというのに、夏休みを挟めば世間も事件を忘れてくれるはずだったのに」などと、一件目に引き続いて学校関係者はみんなピリついているようだ。
……などと、山瀬や松岡が、どこからかそういう教師側情報を仕入れてきていた。
放課後にたまたま四人で山瀬の家に溜まる(というか、俺がやった宿題をちょっとずつ間違えながら写すという)タイミングに合わせて。
さすが光属性だ。
夏休み中でもスマホのみでそれなりの情報を集められるほどに、コイツらはそれぞれ顔が広い。
このパターンだと次は一週間か二週間か、そのぐらいのタイミングで、また成熟期が「来る」に違いない。
学校が再開するタイミングと見事に被ってしまう。
しっかりと事前の準備が必要だ。
早いところ、逃げた虫の行方を追わなければ……そう、夏休みのうちに……。
結果的に、先に宿題を終わらせていたのは大助かりだった。
おかげで結構ガチな虫探しができた。
◇
そして先の約束通り、花火大会の日がやってきた。
実は、去年は松岡と山瀬と行っていて、今年も片山も一緒に四人でどうかと誘われたわけだが、断ってしまった。
「悪い。今回に限っては、片山と行きたいから……」
こう口走ると、「仕方ないな」「マジしょうがねぇな」と二人は納得してくれて、花火がいい感じに見られる穴場スポット情報や、デートに向いた周辺のお店情報を俺のスマホに送ってくれた。
いや、これは別にデートでは、ないはずなんだがな!?
しかし、改めてバイトのスケジュールを確認した時、片山がくしゃりと笑って「施設の大人に連れられて見に行った時以外で、誰かと花火や海に行くの、初めてだ」と言ってきたので、俺はたぶん、正しい判断をしたのだと思う……。
シュレも『ここらで一度しっかり息抜きしておけ。よっぽどのことがあれば呼ぶかもしれないが、これから数時間くらいはここを離れても大丈夫だ』と言ってくれた。今日は地域の猫たちと連携しつつ見回りを行ってくれるそうだ。
そういうわけで、俺と片山はみんなの優しさにすっかり甘えることにした。
花火が上がるのは夜だが、混むことと、少し観光したり海辺を歩いて散歩したりすることを前提に昼の電車に乗り、会場の海辺に向かうことになった。
「この時間だと、まだ浴衣の人は少ないな」
電車の中はそれなりに混んでいたけれど、花火目当ての浴衣の人はまだ少数だ。
早めに動いて正解だったかもしれない。
「俺、宮本の浴衣、見たかった。水着も」
すると、片山が俺をじっと見ながら言ってくる。
まるで拗ねたような口調で。
そして浴衣や水着を着ている俺を、もやもやとその頭の中で妄想しているような、遠い目をして。
「おい、何勝手に想像してる……」
恥ずかしくなってきて、俺は視線を片山からズラす。
今回は、浴衣は着ないし、水着も持っていかないし、泳ぎもしない。
一応は受験生でもあるし、あからさまに遊んでいると、うちの親の心証が悪い。
そもそも変異が発生した場合、上半身裸だと対応しきれないので服は脱げない、というのもある。
ただ、足元が海水で濡れる可能性と、暑くて汗をかく可能性と、変異を隠す際にも使えるようにと、一応大きめのバスタオルだけは二枚分、持参しているが。
「……別に、来年もまた一緒に来て、泳いだり花火見たりすればいいだろう?」
本当に残念そうに言うものだから、俺は何の気なしにそう返した。
すると、片山は驚いてその目を大きくする。
「え、来年も、一緒に来れんの……?」
「誘われたなら、普通に一緒に行くと思うが?」
正直、来年の自分と片山がどうなっているか、まだ俺たちには分からない。
けれども、今年は一部が色々と無理そうな分、来年は思いっきり楽しんでもいいと思う。
「じゃあ、もう予約しとく。指切り」
言うなり、片山はいきなり、自分の右手小指を、俺の左手小指に絡ませてきた。
久しぶりに、素粒子体に触れることなく、直接生身の肉体だけで、お互いの指先が触れ合っていた。
「……っ、外」
つい周囲を見回して呟いてしまう。
乗客のほとんどが、手持ちのスマホや本に集中していたり、窓の外の流れていく景色を眺めていたり、居眠りしていたり、友人らしい人と楽し気に小声で会話しているが……。
「誰も見てない。騒いだ方が見られる」
耳元、小声で囁きながら、片山は絡んだ小指にきゅっと力を込めてきた。
俺はそれを、止めさせられない。
本当に嫌なら、すぐに手を引っ込めればいいし、素粒子体を使って拒否することだって、本当はできるのに。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、飲ーますっ」
小さく歌い切ってから、片山は俺の小指を解放した。
……これで、俺たちはもう来年のことを約束したことになってしまった。
「逃げ切りは、ずるいぞ、片山……」
抗議したけれど、片山はまるでからかうような笑顔で俺を見つめてきていて。
虫と戦っている時はもっと厳しい目つきなのに、今はその視線もふわりと柔らかくて。
その顔を見ていると、不思議と「今の約束は無効だ!!」とは言えなかった。
学校や幼稚園・保育園などの教育関係の施設も多いこの落ち着いた街に、一体何が起こっているのか――。
などなど、次の日の報道はまたこの話題ばかりで、あれで終わりじゃなかったのか、という恐怖に街は支配されていく。
夏休み中だが、ちょうど登校日のタイミングだった。
「通報がさ、公衆電話から、まるでボイスチェンジャー使ったような声だった、って。男になったり女になったり、老人かと思ったら子供みたいな声だったり、って」
「ええ?だったらそいつが真犯人なんじゃない?めっちゃ怪しいよね」
「前回の犯行もそいつの仕業だったりして?」
想定通り、またしても世間様は好き勝手に大騒ぎになっていた。
今度はあの一軒家近辺がマスコミだらけらしい。
やはり現場はわが校の通学路の途中のため、「もう二学期が始まるというのに、夏休みを挟めば世間も事件を忘れてくれるはずだったのに」などと、一件目に引き続いて学校関係者はみんなピリついているようだ。
……などと、山瀬や松岡が、どこからかそういう教師側情報を仕入れてきていた。
放課後にたまたま四人で山瀬の家に溜まる(というか、俺がやった宿題をちょっとずつ間違えながら写すという)タイミングに合わせて。
さすが光属性だ。
夏休み中でもスマホのみでそれなりの情報を集められるほどに、コイツらはそれぞれ顔が広い。
このパターンだと次は一週間か二週間か、そのぐらいのタイミングで、また成熟期が「来る」に違いない。
学校が再開するタイミングと見事に被ってしまう。
しっかりと事前の準備が必要だ。
早いところ、逃げた虫の行方を追わなければ……そう、夏休みのうちに……。
結果的に、先に宿題を終わらせていたのは大助かりだった。
おかげで結構ガチな虫探しができた。
◇
そして先の約束通り、花火大会の日がやってきた。
実は、去年は松岡と山瀬と行っていて、今年も片山も一緒に四人でどうかと誘われたわけだが、断ってしまった。
「悪い。今回に限っては、片山と行きたいから……」
こう口走ると、「仕方ないな」「マジしょうがねぇな」と二人は納得してくれて、花火がいい感じに見られる穴場スポット情報や、デートに向いた周辺のお店情報を俺のスマホに送ってくれた。
いや、これは別にデートでは、ないはずなんだがな!?
しかし、改めてバイトのスケジュールを確認した時、片山がくしゃりと笑って「施設の大人に連れられて見に行った時以外で、誰かと花火や海に行くの、初めてだ」と言ってきたので、俺はたぶん、正しい判断をしたのだと思う……。
シュレも『ここらで一度しっかり息抜きしておけ。よっぽどのことがあれば呼ぶかもしれないが、これから数時間くらいはここを離れても大丈夫だ』と言ってくれた。今日は地域の猫たちと連携しつつ見回りを行ってくれるそうだ。
そういうわけで、俺と片山はみんなの優しさにすっかり甘えることにした。
花火が上がるのは夜だが、混むことと、少し観光したり海辺を歩いて散歩したりすることを前提に昼の電車に乗り、会場の海辺に向かうことになった。
「この時間だと、まだ浴衣の人は少ないな」
電車の中はそれなりに混んでいたけれど、花火目当ての浴衣の人はまだ少数だ。
早めに動いて正解だったかもしれない。
「俺、宮本の浴衣、見たかった。水着も」
すると、片山が俺をじっと見ながら言ってくる。
まるで拗ねたような口調で。
そして浴衣や水着を着ている俺を、もやもやとその頭の中で妄想しているような、遠い目をして。
「おい、何勝手に想像してる……」
恥ずかしくなってきて、俺は視線を片山からズラす。
今回は、浴衣は着ないし、水着も持っていかないし、泳ぎもしない。
一応は受験生でもあるし、あからさまに遊んでいると、うちの親の心証が悪い。
そもそも変異が発生した場合、上半身裸だと対応しきれないので服は脱げない、というのもある。
ただ、足元が海水で濡れる可能性と、暑くて汗をかく可能性と、変異を隠す際にも使えるようにと、一応大きめのバスタオルだけは二枚分、持参しているが。
「……別に、来年もまた一緒に来て、泳いだり花火見たりすればいいだろう?」
本当に残念そうに言うものだから、俺は何の気なしにそう返した。
すると、片山は驚いてその目を大きくする。
「え、来年も、一緒に来れんの……?」
「誘われたなら、普通に一緒に行くと思うが?」
正直、来年の自分と片山がどうなっているか、まだ俺たちには分からない。
けれども、今年は一部が色々と無理そうな分、来年は思いっきり楽しんでもいいと思う。
「じゃあ、もう予約しとく。指切り」
言うなり、片山はいきなり、自分の右手小指を、俺の左手小指に絡ませてきた。
久しぶりに、素粒子体に触れることなく、直接生身の肉体だけで、お互いの指先が触れ合っていた。
「……っ、外」
つい周囲を見回して呟いてしまう。
乗客のほとんどが、手持ちのスマホや本に集中していたり、窓の外の流れていく景色を眺めていたり、居眠りしていたり、友人らしい人と楽し気に小声で会話しているが……。
「誰も見てない。騒いだ方が見られる」
耳元、小声で囁きながら、片山は絡んだ小指にきゅっと力を込めてきた。
俺はそれを、止めさせられない。
本当に嫌なら、すぐに手を引っ込めればいいし、素粒子体を使って拒否することだって、本当はできるのに。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、飲ーますっ」
小さく歌い切ってから、片山は俺の小指を解放した。
……これで、俺たちはもう来年のことを約束したことになってしまった。
「逃げ切りは、ずるいぞ、片山……」
抗議したけれど、片山はまるでからかうような笑顔で俺を見つめてきていて。
虫と戦っている時はもっと厳しい目つきなのに、今はその視線もふわりと柔らかくて。
その顔を見ていると、不思議と「今の約束は無効だ!!」とは言えなかった。
