ぐにょり、とシュレの力で虫網が引かれる。
それはまるで魚を獲る漁師さんの網のようにも見える。
やがて網は立方体の形へと変化していった。
当の虫が大きくなった分、虫かごも少し大きめになったようだ。
中空に浮かぶ虫入り立方体。
グレー色を帯びたガラスのように見えるそれが、夕日の赤とオレンジに染まって光り輝いている。
中に存在しているはずの虫は、今は俺の目には全く見えない。
認識できない。
どうやら、この種最大の特徴とも言えるステルス性がいかんなく発揮されているらしい。
『ミヤモト、カタヤマ。我々も方針を大きく変更する必要が出てきたかもしれない。こいつら、地球上の素粒子を食い続けたことで、宇宙にいた頃とは大きく特性が変異したようだ』
心底残念だ、という口調でシュレは語った。
俺も「今までとは違ってきた」という現実を、肌感覚として理解した。
山瀬から詳しく聞いた元々の虫の噂が「現場近くで手のひらくらいの変な赤い虫が発生していたらしい、妊婦さん発見時に管理人が警察とドアの鍵を開けて踏み込んだら、外に飛び去って行った」というやつだった。
シュレが付近の捕獲機を調べてみたところ、実際に今捕らえたものと同型の虫が捕まえられていた、ということだった。
始祖と同じ形の虫は今のところ一匹も捕まっていない、という紛れもない事実。
つまり「完全に丸っと次世代に入れ替わった」ということがこれで示されたらしい。
そしてそこまで判明したタイミングで、俺が実際に虫、それも新世代のものに襲われた、ということだった。
第二世代の特徴は、その大きさと、始祖とは異なる少し赤みを帯びた体。
構造色で透けているという、その透明性自体は変わらないのだが、どこか血の色を思わせる赤みがある。
『宇宙を漂っている時にはあまり周辺に餌がないから、よりコンパクトな形だった。しかし地球には比べ物にならないほどの豊富な餌があるし、このサイズの方が天敵たる我々を攻撃しやすい、という理に適った進化だろうな』
虫側も有効な策をしっかり練った上で、自らの天敵を排除しようという強い意思を持って襲ってきている、ということのようだ。
たまたま俺たちがそこにいたから、とかでなく。
「宮本。俺はこのクソ虫を殺したい。変異率を上げてでも」
黙って聞いていたはずの片山が、意思を完全に固めた声色で伝えてくる。
奴は俺を助けて以降、背後から俺を羽交い絞めにする形のまま、ずっとぴったりと離れずにいた。
「少しでも離れたらその隙に虫がやってきて俺が消されてしまう」とでも考えてしまっているようだった。
まるで「怖い夢を見た直後に親にくっついて泣く子供」でも見ているような気分になる。
「お前は?どうする?」
口調は「俺はもう決めたんだぞ、例えお前に反対されたとしても、ひとりででもやるんだからな」と強気に言いたげだった。
そして実際にそうするんだろう。
しかし、決して背中から離れていくことはなかったので、言外で強めに助力を求められていることは確実だった。
「俺は最初から、虫について調べると言っていただろう」
俺も覚悟を決めることにする。
どの道、このままだと無策にただ殺されて消されるばかりなのだ。
「じゃあ、いいんだな?」
その問いは、変異が進むことも含めての確認だと、すぐに分かった。
リスクはあるとしても、対策を怠る気はない。
「ああ。シュレ、頼んだ」
俺らは揃って傍らのシュレに視線を移し、促す。
顔がないシュレの感情は、やはり人間の俺たちにはよく分からない。
『……後戻りはできんぞ?』
けれど、しぶしぶ、といったその響きに、人間たちへのいくらかの心配の色や仲間意識らしきものを感じる。
そうでなければ、俺たちも絶対に謎のシュレディンガー的存在なんかに、こんなわけがわからない交渉なんてしなかっただろう。
それはまるで魚を獲る漁師さんの網のようにも見える。
やがて網は立方体の形へと変化していった。
当の虫が大きくなった分、虫かごも少し大きめになったようだ。
中空に浮かぶ虫入り立方体。
グレー色を帯びたガラスのように見えるそれが、夕日の赤とオレンジに染まって光り輝いている。
中に存在しているはずの虫は、今は俺の目には全く見えない。
認識できない。
どうやら、この種最大の特徴とも言えるステルス性がいかんなく発揮されているらしい。
『ミヤモト、カタヤマ。我々も方針を大きく変更する必要が出てきたかもしれない。こいつら、地球上の素粒子を食い続けたことで、宇宙にいた頃とは大きく特性が変異したようだ』
心底残念だ、という口調でシュレは語った。
俺も「今までとは違ってきた」という現実を、肌感覚として理解した。
山瀬から詳しく聞いた元々の虫の噂が「現場近くで手のひらくらいの変な赤い虫が発生していたらしい、妊婦さん発見時に管理人が警察とドアの鍵を開けて踏み込んだら、外に飛び去って行った」というやつだった。
シュレが付近の捕獲機を調べてみたところ、実際に今捕らえたものと同型の虫が捕まえられていた、ということだった。
始祖と同じ形の虫は今のところ一匹も捕まっていない、という紛れもない事実。
つまり「完全に丸っと次世代に入れ替わった」ということがこれで示されたらしい。
そしてそこまで判明したタイミングで、俺が実際に虫、それも新世代のものに襲われた、ということだった。
第二世代の特徴は、その大きさと、始祖とは異なる少し赤みを帯びた体。
構造色で透けているという、その透明性自体は変わらないのだが、どこか血の色を思わせる赤みがある。
『宇宙を漂っている時にはあまり周辺に餌がないから、よりコンパクトな形だった。しかし地球には比べ物にならないほどの豊富な餌があるし、このサイズの方が天敵たる我々を攻撃しやすい、という理に適った進化だろうな』
虫側も有効な策をしっかり練った上で、自らの天敵を排除しようという強い意思を持って襲ってきている、ということのようだ。
たまたま俺たちがそこにいたから、とかでなく。
「宮本。俺はこのクソ虫を殺したい。変異率を上げてでも」
黙って聞いていたはずの片山が、意思を完全に固めた声色で伝えてくる。
奴は俺を助けて以降、背後から俺を羽交い絞めにする形のまま、ずっとぴったりと離れずにいた。
「少しでも離れたらその隙に虫がやってきて俺が消されてしまう」とでも考えてしまっているようだった。
まるで「怖い夢を見た直後に親にくっついて泣く子供」でも見ているような気分になる。
「お前は?どうする?」
口調は「俺はもう決めたんだぞ、例えお前に反対されたとしても、ひとりででもやるんだからな」と強気に言いたげだった。
そして実際にそうするんだろう。
しかし、決して背中から離れていくことはなかったので、言外で強めに助力を求められていることは確実だった。
「俺は最初から、虫について調べると言っていただろう」
俺も覚悟を決めることにする。
どの道、このままだと無策にただ殺されて消されるばかりなのだ。
「じゃあ、いいんだな?」
その問いは、変異が進むことも含めての確認だと、すぐに分かった。
リスクはあるとしても、対策を怠る気はない。
「ああ。シュレ、頼んだ」
俺らは揃って傍らのシュレに視線を移し、促す。
顔がないシュレの感情は、やはり人間の俺たちにはよく分からない。
『……後戻りはできんぞ?』
けれど、しぶしぶ、といったその響きに、人間たちへのいくらかの心配の色や仲間意識らしきものを感じる。
そうでなければ、俺たちも絶対に謎のシュレディンガー的存在なんかに、こんなわけがわからない交渉なんてしなかっただろう。
