浜田にて

20年とはいかないまでも、それぐらいの年月が経った。浜田駅でのあの一声を私は忘れない。海上自衛隊を伊丹基地で受験し、仮合格していた私はそれを蹴った。担当広報官の反応は思い出せない。その後、浜田市の大学院に進学した。大学院では入試の前に事前に研究室訪問という暗黙のルールがある。私は文芸批評がやりたかったので、大学に相談したところ、飯田泰三先生を紹介してもらった。先生は文芸批評ではなく、文明批評に関心を有していることを知ったのは後になってからだ。研究室でそれなりに話した私は浜田駅でモジモジしていた。まだ帰宅したくなかったからだ。「君は酒が飲めるかい?」。背後から先生が声をかけた。すべてを肯定してくれたようで、そして私の心境を察してくれて少し涙が出た。その後は駅前の交番の路地を入った居酒屋で歓談した。話の内容は覚えていない。退店後、先生の自宅に泊めてもらった。翌朝に出勤する先生と別れた。