ラプラスの悪魔はサイコロを振らない


 ──事故現場から立ち去る時も、和泉はずっとトラックの運転手の安否を気にかけていた。
「大丈夫かな……」と本当に心配そうな声で呟くから、いい子ぶってるとかじゃなく、本心から気になるんだろう。
 和泉のこの気がかりが、また一つ、計算をする上でノイズになるかもしれない。
 そう思って、近くにいた野次馬の一人に訊ねることにした。
「運転手さん、どうなったかわかりますか」
「意識はあったみたいだよ、足が折れてるって言われてた」
 教えてくれた男性に頭を下げてから、隣の和泉を見る。和泉は「よかった……」とホッと息を吐いた。
「計算上は、ここが一番ヤバかった。でかい危険は回避できたかもしれないけど、油断すんなよ」
 俺の言葉に和泉は頷き、それから小さな声でぽつりと溢す。
「……俺のせいで、事故が起こったのかな」
 しくじった、と思った。
 あれだけの事故が目の前で起きたのに、「お前の危険は回避できたかも」なんて言われれば、「俺が回避したせいで事故を誘発したかもしれない」と思ってもおかしくない。
 だが、ここは俺が冷静にならなければ、と思い直す。
「違えよ。それは絶対違う」
「でも……」
「よく考えてみろよ。お前が横断歩道で立ち止まらずに、信号無視したわけじゃねえだろ。お前はちゃんと止まった。後ろから押されたけど、飛び出さない位置に下がってた」
 和泉は真剣な眼差しで俺を見上げた。
「トラックは完全に法定速度以上出してた。あのスピードじゃ、少しハンドルを切り損ねただけでバランス失うだろ。お前が回避したせい、なんてのはただのこじつけだ」
 わざと強く断言した。和泉はほんの少し口元を緩めて、「ありがとう」と口にする。
「とにかく、今夜八時までは一緒にいるぞ」
「八時?」
「そこまでの死亡確率がいつもより段違いで高いんだよ。そこを乗り越えてからもっかい計算して、普段通りまで下がれば解散な」
 和泉は納得したのかしていないのか、よくわからない曖昧な笑みを浮かべて、「わかった」と言った。
 夜八時まで、まだ数時間ある。危険なものから和泉を遠ざけるにはどうするべきか。
 考えた末、気は乗らないけれど家に誘うことにした。
「今から俺のとこ来いよ」
「黒崎くん家?」
「俺の部屋で八時まで過ごす。それが一番安全だろ」
「お邪魔していいの?」
「背に腹は代えられねえから」
 渋々だということを強調したのに、和泉は何だか嬉しそうに眉尻を下げている。
(変わってんな、コイツ……)
 とてもじゃないけれど、今日死ぬと言われた人間がする表情じゃない。
 少なくとも、俺の記憶にある三年前の「あの時」の反応とは真逆だった。
 かぶりを振って記憶を払う。今考えることじゃない。
 電車に乗り込んで、自宅に向かった。駅に着いた時、和泉が「手土産を持っていきたい」と言ったのを聞いて、あまりにもズレたことを言うのでずっこけそうになった。
 遊びに来いって誘ったわけじゃねえんだぞ。
「いらねえよ、手土産なんて……」
「でも、お邪魔するのに手ぶらなんて……」
「いいから。自販機で自分の飲み物でも買っとけ」
 俺が言うと和泉は閃いたようにハッとした顔をして、リュックから財布を取り出す。
 一本買うと取り出し、また一本買う。「黒崎くん、何人家族?」と訊ねてきた。
「四人だけど」
「きょうだい、いるの?」
「姉貴」
 簡潔に答えると、和泉はジュースを五本も買い込み、それをリュックに詰めていく。
「まさかそれ、手土産じゃねえだろうな」
「だって手ぶらは無理だよ……せめてと思って」
 何を言っても無駄だと悟った。仕方なく、和泉からジュースを三本奪って自分のカバンに突っ込む。
 コイツに五本も持たせたら、間違いなく転ぶだろう。
 和泉がリュックを閉めたところで、隣の自販機で同じように飲み物を取り出そうとしていた男性とぶつかった。
 咄嗟に片手で和泉の頭をガードする。自販機と和泉の頭に手が挟まれた。
「ごめん、ありがとう」
「……いや、別に礼なんていらねえよ」
 言いながら、やっぱり不穏さが途切れないことをはっきり感じた。
 ぶつかった男性は、和泉のことなんて気にも留めていない様子で立ち去っていく。
(コイツを取り巻く嫌な引っ掛かりみたいなのって、マジで全然消えねえな……)
 だが落ち着かないのは俺だけのようだ。
 和泉は慣れているからなのか、それとも自分の身に起こるさまざまな事象に気づいていないのか、俺とは裏腹に穏やかな雰囲気を纏っている。
(……気にすんのはやめよう。和泉がどんなに鈍感でも、俺は俺のすべきことをやるだけだ)
 ふっと息を吐き、気持ちを立て直した。
 交差点の危険度は70%を超えていたが、そこを脱した今は40%前後まで下がっている。それでも、家に着くまで気は抜けなかった。
 玄関のドアを開け、和泉を家に招き入れる。和泉はおどおどしながら靴を脱いだ。
 先にリビングに顔を出す。母親は「遙斗おかえり」と言ったそのすぐ後、俺の後ろに隠れるように立っている和泉を見つけて、パァッと明るい笑顔を見せた。
「お友達?」
「クラスメイト」
「クラスメイトってことはお友達ってことじゃない。初めまして、遙斗の母です」
 にこにこ笑って話しかける母親に、和泉は一瞬だけたじろいだ。
「和泉、……刹那です。初めまして」
「これ、和泉から手土産」
 和泉の挨拶の言葉を聞きながら、カバンに入れたジュースを三本取り出す。母親は大袈裟なくらい「あらあら、気を遣ってもらっちゃって」と感嘆の声を上げた。
「今日の晩飯、部屋に持ってきて。コイツの分も」
「いいけど……お泊まり?」
 晩飯の話が出たからか、和泉がギョッとした顔で俺を見たのがわかった。
「泊まんねえよ、とにかくそういうわけだからよろしく」
「待って、遙斗。刹那くん、お腹空いてるでしょ。待ってね、今おやつ用意するから」
 母親はいそいそとキッチンの戸棚を漁り、スナック菓子と菓子パンをいくつか俺に寄越す。
「足りなかったら後で取りに来なさいね。刹那くん、好き嫌いはない? アレルギーとか」
「……ないです」
「そう。夕飯、楽しみにしててね。ごゆっくり」
 和泉は戸惑った顔でぺこりと頭を下げた。リビングを出て、二階へと上がる。
 念のため、先に和泉を上らせることにした。後ろからついてこられて、途中で転ばれでもしたら助けられない。
 部屋に入り、和泉にはクッションを渡した。ベッドのすぐ近くに座って、リュックから飲み物を取り出す。
「これ、黒崎くんの分」
 サンキューな、と言って受け取った。二人でペットボトルの蓋を開け、一口飲む。飲み終えた後、自然と息を吐いた。二人共だ。
「あの……、本当に夕飯までいいのかな。ご迷惑なんじゃ……」
「いいって。さっきの見たろ、張り切ってんだから遠慮なく食って帰れ」
 和泉と向かい合う形で、腰を落ち着ける。ありがとう、と溢した和泉の視線が、遠慮がちに部屋を見渡しているのがわかった。
「……本がいっぱい」
 壁には天井の高さまである本棚がある。父親と一緒に作ったものだ。
「数学の本ってこんなにあるんだ……。黒崎くんってどうして数学が好きなの?」
「どうしてって……、考えたことねえな。小学校に入る前には六歳上の姉貴の算数の教科書、解いてたし」
 教科書に載っている数式で解いていたわけじゃない。勝手に自分で編み出した計算式を用いて、答えを導き出していた。
 一次方程式を理解してからは、速さ、時間、距離を現実の出来事と結びつけて考える癖がついた。
 例えば、通学路ですれ違う近所のじいさんと、何秒後にどれくらいのスピードで歩けば出くわすのか、ほぼ完璧に予測できた。
 これを繰り返すうちに、俺はある法則に辿り着く。
 それはこの世に存在する全てのものは、一定のリズムで、一つの周期に従って動いている、ということだ。
 このリズムと周期を完全に理解し、数式に落とし込めば、この世界で起こる出来事は予測できる。俺はそう思っている。
 ただ、この考えを周囲が受け入れられないこともわかっていた。
 未来がわからないから、人は生きていける。
 だから和泉にしたような死の宣告は、本来ならするべきじゃない。
 気味悪がられる上に、最悪な場合はその予測を覆せないからだ。
(ここまでわかってても、コイツに関わっちまったんだもんな……)
 何度目かわからないため息を溢しそうになった。
「黒崎くん、お姉さんと歳離れてるんだね」
「……まあ、そこそこ。和泉は? 一人っ子か?」
「うん、一人っ子。お姉さんってもう社会人?」
「美容師やってる」
 俺の答えに和泉は少し目を丸くした。
「じゃあ、その髪、お姉さんが?」
 その髪、と言われ、俺は指先で自分の髪を摘んだ。金色が視界に入る。二ヶ月前に染めたから根本は黒が目立つようになったけれど、毛先は金髪のままだ。
「まあな」
 和泉は俺の返事の後、ふっと表情を和らげる。
「黒崎くんって、イメージと違うね」
「何だよ、イメージって」
「もっと怖い人かと思ってた」
「なんで」
「だって金髪だし。いつも一人だし」
「いつも一人なのはお前もだろ。俺だってお前がこんなに喋るタイプだとは思ってなかったし」
 和泉のこのマイペースっぷりに引っ張られそうになる。
 家の中は外よりは遥かに安全だろう、という気持ちはあるものの、和泉ののんびりさに釣られて警戒を解いてはならない、と思った。
「どうして金髪にしたの?」
「どうしてって……」
 ふと思い出した。従姉妹の子どももこんな感じで、何でもかんでも「なんで」「どうして」と訊いてくる。
 従姉妹の子どもは五歳だからしょうがないとしても、俺の目の前にいるのは十六歳の和泉だ。
 だが、何となく誤魔化す気にはなれなかった。和泉の目が真っ直ぐに俺を見つめていたからだ。
「……誰も近寄ってこないように金髪にした。不良と思われりゃ、距離置かれると思って」
 何で距離置かれたいの? と聞かれるんじゃないか、と身構えた。だが、和泉はそれ以上は聞いてこなかった。
「そうだ、連絡しなきゃ」
 思い出したように和泉が呟く。
「連絡?」
「うん。夕飯、ご馳走になるって父さんに」
「父親?」
「俺、父子家庭なんだ」
 和泉はスマホをリュックから取り出し、操作を始める。指の動きから、メッセージを送っているらしいことがわかった。
 和泉のスマホケースはよく見ると傷だらけだ。覗き込むと、ケースだけじゃなくて画面の端が割れていた。
「修理しねえの?」
「ダメなんだ、俺。直しても直してもすぐ割っちゃって……転んだり、踏まれたり、落としたり」
 自慢じゃないが俺は今まで一度も、スマホの画面を割ったことはない。
 こうやって比べると、和泉を取り巻く一見したら「不注意」が引き起こしそうなさまざまな事象は、やっぱり頻回すぎる、と考えた。
 カバンからノートを引っ張り出して、ローテーブルの上に広げる。
 P_death(t) = 1 − π(1 − pᵢ(t) × kᵢ × ε)……いつものように数式を書き込む。
 さらに、時間経過による危険の増幅を補正した。
 Λ(t) = Σ (wᵢ × pᵢ(t) × kᵢ) × e^{αt}……小さな事故の積み重ねじゃない。
『避けられなかった回数』そのものが、確率を押し上げている──カリカリというシャープペンシルの音が部屋に響く。
 その時、和泉が俺の手元を見つめながら口を開いた。
「……ひとつ、訊いてもいい?」
「なんだよ」
 手を動かしながら相槌を打つ。意識は完全に計算に向かっていた。だから、反応が一瞬遅れた。
「どうして黒崎くんは、俺がいつ死ぬのか計算したの?」
 ピタリ、と手を止めた。邪気のない和泉の声と、セリフが噛み合っていない。そのズレが、俺には居心地が悪かった。
 シャープペンシルを置き、髪を掻き混ぜる。本人には話すべきだ、と腹を括った。
「お前、よく怪我するだろ」
「あ、うん。俺、ドジだから」
「違う」
「え?」
「ドジだから、じゃ説明つかねえんだよ、お前の怪我の多さは」
 俺は和泉にあの話をすることにした。
 高校に入学してしばらく経った頃、和泉の怪我が多いと感じたこと。
 それに伴ってつい計算をしてしまったこと。
 何と何を掛け合わせ、何を引き、何を足せば解が出るのか、説明したけれど和泉はわかってなさそうだった。
 別にそれは構わない。計算の中身を理解させることは、俺の目的じゃない。
「常人の13.4倍。これは理論上、あり得ない確率なんだよ。でもお前はそのあり得ない数値を叩き出した。そっからだよ、お前のこの異常さはどこからくるのか、毎日計算し始めたのは」
「13.4倍……それってすごいの?」
 ここまで言っても自分の異常さがわからないのか、と肩を落としそうになった。
 計算の中身をわからせようとは思わないけれど、13.4倍がいかに異常かくらいは一発で理解して欲しい。
「いいか? 普通の人間が一年に一度、怪我をする、と考えた場合、お前は月に一度どころじゃない。俺は数学好きとして、『偶然』には否定的な立場だけど、仮に偶然があったとして、それが続いていいのは二回までだ。一回はあり得る。二回目もまあ、ないわけじゃない。だけどそれが十回続く。しかも原因は全て違う。これはドジでも事故でもない、現象の『偏り』だ」
「かた、より」
 何で片言なんだよ、と言いたいところだが、俺の話を真剣に訊いているのは伝わってくる。
「怪我っていうのは、ある程度避けられる瞬間がある。計算でそれを導くこともできる。でもお前は避けられるはずの瞬間を、ことごとく外してんだ。毎回、必ず、ひとつの狂いもなく、全て」
 強調するように告げた。和泉はこくりと唾を呑み、「……ちょっとだけど、わかったかも」と言った。
「つまり、人の13.4倍、ドジってこと?」
「全っ然わかってないじゃねえか」
 今度こそ本気で項垂れる。どう説明したらこの数値の不自然さが伝わるんだ。
「……でも、その怪我をしやすいっていうのと、死ぬのは今日っていうのは、どう繋がるの?」
 ハッとした。そうだ、こっちの説明の方が大事だ。気を取り直して顔を上げた。
「最初はな、怪我の確率が高いことが気になったんだよ。で、そっから毎日、お前がどのタイミングで怪我すんのか、その傷はどれくらいか、数式作って当てはめてたんだ」
「……俺が言うのもなんだけど、結構悪趣味なことするね、黒崎くん」
「うるせえな、お前こそ案外はっきり物言うタイプだったんだな。つか、黙って聞け。話が脱線する」
 いつも下を向いて、誰とも目を合わさないようにしている和泉が、まさかこんなに喋って、しかもこんなに掴みどころがない人間だったとは。
(コイツと話してると、話があっちこっちに飛ぶな……)
 人との会話で、芯を掴めないなんて初めての経験だ。
「怪我の確率を計算していくうちに、もしかしたらお前のフラグは怪我だけじゃないんじゃないかって気づいた」
「フラグ?」
「死亡フラグってヤツだ。この世のありとあらゆるものを完璧に数値化して、ひとつのミスもなく計算できたら、世界の全ては予測できるって言っただろ。その中でも人の生死はかなり計算しやすいと俺は考えてる」
 そこで一度、言葉を切った。この先を言うべきか、それとも黙っているべきか、ほんの数秒迷った末に、口に出していた。
「俺は数学を使って、人がいつ死ぬのか計算できる」
 和泉が息を呑んだのがわかる。きゅっと口を真一文字に結んだ後、「すごい……」と呟いた。
「すごいってお前……」
「だって俺にはできないよ。きっと他の人たちだってできないと思う」
「できないんじゃねえよ、やらないってだけだ。俺だって二度とやらねえって決めてたからな」
「二度と?」
 首を傾げる和泉に、何でもねえよ、と誤魔化した。和泉は特に何も言わず、それ以上は踏み込んでこない。
(……さっき、髪の話した時も思ったけど……)
 和泉は案外、距離をきちんと測っている。
 当たり障りのないことは喋るのに、こちらが少しだけ見せた線引きを敏感に察し、絶対に越えてこない。
 培ったものなのか、天性のものなのかはわからないけれど、コイツが孤立している理由のひとつがここにある気がした。
(ま、俺も人のこと言えねえけどな)
 中二の夏、誰かと深く関わるのはもうやめようと思った。
 髪を染めたのも、和泉に話した通り、派手にしてれば敬遠されると考えたからだ。進学校だから尚更で、俺の予想通り周りを俺を避けてくれて、友達と呼べる人間は一人もいない。
 それでいいと思っていた。それなのに。
(なのに、コイツをこうやって家に招くことになったんだよな……)
 全ては計算のせいだ。和泉刹那の死の確率が、あんな数値を弾き出さなければ、俺はコイツに話しかけたりしなかった。
「一般的な、……そうだな、例えばさっきの野球部のヤツらの死を予測したとする。通常はほぼ0%に近い。10%もあればちょっと警戒する。それくらい低いもんなんだよ」
 俺たちくらいの年齢だと、計算すると大体その程度の数値が出る。死の確率を抑えるためには、若さもかなり重要だ。
「じゃあ……おじいさんおばあさんは確率が高いの?」
「そういうこと。持病、老化、こういうのも全部計算に入れるわけだから、当然高い。それでもよほど重病でもない限りは30%くらいだ。だけど、お前は違う」
 和泉が少し身構えるのがわかった。
「お前は平常時で死亡確率30%前後を維持してんだよ。高い日は50%以上になることもある。そういう日はとりあえず目を離さないようにしようと思っちまって、お前のこと、監視じゃねえけど……割と見てた」
 ドン引きされてもおかしくない、と思ったのに、和泉は眉尻を下げると「見守ってくれてたんだ」と零す。こういう反応は、俺の予想にはないものだ。
「だけど、……今日はマジで異常だったんだよ」
 バツが悪くて、はーっと息を吐いてから頭を抱えた。
「午前中は40%前後だった。昼過ぎた辺りで50%を超えて、今日は警戒日だなって思った。そっからは一時間置きに計算したんだよ。そしたら六時間目を終える頃には、95%を叩き出してた」
 和泉が小さく唾を呑む。さすがに数値の高さが伝わったようだ。
「……今は?」
「今は、大体35%ってとこだな。普通の人間ならかなり警戒するとこだけど、お前の場合はこれが通常運転とも言える」
 ノートの数式を見せた。和泉は計算は理解できないなりにちゃんと覗き込む。
 その目にはやっぱり、『死』に対する怯えみたいなものが、どこにもなかった。