ラプラスの悪魔はサイコロを振らない


 和泉とは高校一年生の時に同じクラスになった。二年になった今もクラスメイトだが、口を聞いたことはなかった。
 猫背で姿勢が悪いので、目が合うことも稀だ。前髪も横髪も長くて、後ろ髪は上半分だけをまとめようとして結びきれなかった毛先が、首筋にかかっていた。
 俯いているせいでほとんど顔も見えない。
 なんてことない、クラスメイトの一人。俺にとって和泉はそういう立ち位置の男だった。
 そんな和泉のことが妙に気になり出したのは、入学して一ヶ月が経った頃だ。
(……アイツ、また怪我してるな)
 和泉は傷の絶えない男だった。毎日どこかしらに新しい傷を作って登校してくる。
 体育の授業でもしょっちゅう怪我をしていたし、休み時間でさえ壁にぶつかったり、段差に躓いたりしていた。
 ドジなんだろう。最初はそう思った。
 だがあまりにも怪我の頻度が高い。その確率を計算したくなった。これが運の尽きだった。
 ノートを広げ、和泉の怪我の回数、日にち、傷の大きさ、天候、ありとあらゆるものを数字に変換し、数式に当てはめていく。
 P = 1 − π(1 − pᵢ)……R = Σ (wᵢ × rᵢ)……小さな「事故確率」を全て掛け合わせ、更にそれを独立した確率ではなく、「積み重なる危険要素」として解を導く。
 計算を終えて愕然とした。
(……高すぎる)
 和泉が怪我をする確率は、普通の人間のおよそ13.4倍。
 運が悪い、では片付けられない、本来なら弾き出されるべきではない数値。
(この世に偶然なんか存在しねえんだよ……)
 つまり、和泉刹那は何らかの理由によって、この異常とも呼べる数値を叩き出していることになる。
 気になる。
 気になって気になって、仕方がない。
 これが自分の首を絞めることになるとは、この時の俺はまだ気づいていなかった。