「……はあ、何言って」
「じょう……だんだよな」
「はあ……二人とも、生きて帰りたくないのか。タイムリミットが存在する。死にたくないのなら、必死でミッションをこなすんだね」
佐伯が当たり前のように、二人の前に顔を出した。我に返ったのか、大声で怒鳴り出した。
佐伯は無機質な一定のトーンで、残酷な真実を告げる。二人の顔は、みるみるうちに真っ青になった。
涼太は泣きそうになっている幼なじみを見つめ、唇を噛み締めた。拳を血が滲むほどに、握り締めた。
陽向は俯き、体を小刻みに震わせていた。無意識に、彼の制服の裾を力強く掴んでいた。
その様子を見ながら、佐伯は薄気味悪い笑みを浮かべている。それが返って二人には、ここが異世界だということを改めて実感させたのだ。
「で? ミッションって」
「陽向、大丈夫か。顔、真っ青だぞ」
「そういうお前こそ、青白いぞ。俺は運動しているから、日焼けしているが」
「それは関係ないだろ……まあ、元気ならいいけど」
「何か言ったか?」
「別に〜さてと……なんだ、簡単じゃないか。身構えて、損した」
陽向は深呼吸をし、冷静を装いつつも声を出した。声が震えており、一見普段通りに見えた。
涼太ではなければ、分からないぐらいに怯えている。陽向は複雑そうな表情を浮かべ、憎まれ口を叩いた。
涼太はその様子を見つめ、ボソッと呟いた。陽向は興味がなさそうに、涼太に聞き返した。
――こいつはどうして、そんな簡単に優しい言葉を吐けるんだよっ!
彼には、涼太の言葉はしっかりと聞こえていた。しかし顔から火が出そうになったため、聞こえないふりをした。
ミッションの紙には、【廊下の真ん中での、三十秒の全力ハグ】と書かれていた。涼太は余裕綽々だったが、陽向は顔を真っ赤に染めていた。
ミッションの紙の最後には、【観察する影、より】と書かれていた。涼太は首を傾げたが、気にしないことにした。
佐伯は二人が、ミッションの紙を手に取ると満足そうにその場を後にした。
「早く終わらせようぜ」
「ふざけんな!」
「はいはい、大人しくしようなっ! 大丈夫だ! お兄ちゃんがついているぞっ!」
「……だから余計に、困るんだろうが」
「酷いっ! そんな子に育てた覚えは、ないぞっ!」
涼太は陽向の手を握り、廊下に出ることにした。涼太は爽やかな笑みを浮かべ、両手を広げていた。
効率よくミッションをクリアして、この狂った場所から陽向を連れて帰るぞ。と意気込んでいた。
陽向は顔を顰め、睨みつけていた。涼太はそんな彼の様子に気がつかずに、追い打ちをかけている。
彼は一瞬、悲しそうに顔を歪ませていた。涼太はその表情の意味が、理解できずにした。
陽向が悪態をつくと、涼太は大袈裟に悲しんでいた。そんな彼を陽向は、めんどくさそうに見つめる。
「抱擁……抱擁」
「ひゃっ! なんだ、こいつらっ!」
「あはは、元気だなっ!」
「てめーは、どこまで呑気なんだよっ!」
「なんだよ、兄弟同士で照れんなよ」
「……そうだな」
さっきまで静かにしていた周囲の生徒たちが、無表情で二人を囲み出した。拍手をし始め、陽向は思わず涼太に抱きついた。
頬を紅潮させ、瞳を潤ませていた。涼太の胸に抱きつき、必死で顔を見つめている。
柔軟剤の香りの奥に、涼太自身の香りを感じて頭がくらくらした。
そんな彼を抱きしめ、頭と腰を支える。生唾を飲み込み、怖がる彼を揶揄った。
陽向は顔を真っ赤にしながら、涼太に怒っている。しかし涼太は気にせずに、残酷な一言を浴びせる。
彼は一瞬、酷く冷めた目を涼太に向けた。涼太は彼が冷たくなった理由が分からずに、胸の奥がチクリと痛んだ。
昔は陽向の方が、涼太よりも背が大きかった。陽向は背の順だといつも前にいたが、中学に入ると一気に周りが大きくなった。
それは涼太も例外ではなく、声変わりや成長痛もあった。女の子みたいに声が高かった涼太は、かなり低い声に変わってしまった。
今では、頭半分ほどの身長差ができてしまった。涼太に見下ろされるたび、陽向は自分が子供扱いされているような気分になる。
「お前、意外と肩幅あるな」
「涼太の心音、うるせーよ」
「暑いからな」
「汗……くせーよ」
「お前は、いい香りすんな」
涼太は陽向を抱きしめ、冷静に思っていることを告げる。心臓は、今にも爆発しそうになっていた。
陽向は頭一つ分高い涼太の胸板に、顔を押し付けられる形になった。涼太が腕を回すと、陽向の頭が彼の肩口にすっぽりと収まってしまう。
ーーこいつ、俺がビビってるのを笑ってやがる。心臓の音もうるせーし、きっと俺をバカにして楽しんでんだ。
陽向は文句を言いつつも、涼太の香りを嗅いだ。汗の香りはするが、不思議と気持ちが落ち着いた。
涼太はその様子を見て、静かに涙を流している。明日から、強い消臭剤を使おうと心に決めたのだ。
それとは別に、陽向が顔を赤くしている。その様子を見つめ、自分のおでこと陽向のおでこの温度を比べる。
陽向の香りを嗅ぎ、少しだけ微笑んでいた。陽向は顔を真っ赤にして、より一層抱きついていた。
その間も、二人を多数の生徒たちが取り囲んでいた。二人は怖いため、目を逸らしていた。
「はあ………マジで、なんの拷問だよ」
ミッションを終えて、陽向はトイレへと向かった。用を足す事が目的ではなく、一人になりたかった。
涼太が、当たり前のように付き合っていた彼女。陽向は誰と付き合っていたのか、全てを把握している。
涼太は中学の時、遊び人として有名だった。普通のように数人の女子をはべらせ、ハーレムを形成していた。
他の男子はその光景を羨ましいと、妬んでいた。その多くは、嫉妬と渇望の眼差しだった。
しかし陽向にとっては、涼太でなく女子が羨ましいと感じていた。当たり前のように、涼太に想いを寄せていたからだ。
――俺の気持ちなんて、微塵も気がついていないんだろうな。兄弟って、俺はそんなの嫌なのに。
トイレの鏡で、自分の顔を見つめる。瞳は充血しており、目の下は腫れている。
涼太にとっては、自分はその他大勢の中の一人。そんなことは、端から分かっていた。
もういっそ、疎遠になりたい。幾度となく思ってきたが、無理だったのだ。
涼太は陽向を見つけると、嬉しそうに走ってきた。サッカーを応援してくれて、勉強も教えてくれる。
「じょう……だんだよな」
「はあ……二人とも、生きて帰りたくないのか。タイムリミットが存在する。死にたくないのなら、必死でミッションをこなすんだね」
佐伯が当たり前のように、二人の前に顔を出した。我に返ったのか、大声で怒鳴り出した。
佐伯は無機質な一定のトーンで、残酷な真実を告げる。二人の顔は、みるみるうちに真っ青になった。
涼太は泣きそうになっている幼なじみを見つめ、唇を噛み締めた。拳を血が滲むほどに、握り締めた。
陽向は俯き、体を小刻みに震わせていた。無意識に、彼の制服の裾を力強く掴んでいた。
その様子を見ながら、佐伯は薄気味悪い笑みを浮かべている。それが返って二人には、ここが異世界だということを改めて実感させたのだ。
「で? ミッションって」
「陽向、大丈夫か。顔、真っ青だぞ」
「そういうお前こそ、青白いぞ。俺は運動しているから、日焼けしているが」
「それは関係ないだろ……まあ、元気ならいいけど」
「何か言ったか?」
「別に〜さてと……なんだ、簡単じゃないか。身構えて、損した」
陽向は深呼吸をし、冷静を装いつつも声を出した。声が震えており、一見普段通りに見えた。
涼太ではなければ、分からないぐらいに怯えている。陽向は複雑そうな表情を浮かべ、憎まれ口を叩いた。
涼太はその様子を見つめ、ボソッと呟いた。陽向は興味がなさそうに、涼太に聞き返した。
――こいつはどうして、そんな簡単に優しい言葉を吐けるんだよっ!
彼には、涼太の言葉はしっかりと聞こえていた。しかし顔から火が出そうになったため、聞こえないふりをした。
ミッションの紙には、【廊下の真ん中での、三十秒の全力ハグ】と書かれていた。涼太は余裕綽々だったが、陽向は顔を真っ赤に染めていた。
ミッションの紙の最後には、【観察する影、より】と書かれていた。涼太は首を傾げたが、気にしないことにした。
佐伯は二人が、ミッションの紙を手に取ると満足そうにその場を後にした。
「早く終わらせようぜ」
「ふざけんな!」
「はいはい、大人しくしようなっ! 大丈夫だ! お兄ちゃんがついているぞっ!」
「……だから余計に、困るんだろうが」
「酷いっ! そんな子に育てた覚えは、ないぞっ!」
涼太は陽向の手を握り、廊下に出ることにした。涼太は爽やかな笑みを浮かべ、両手を広げていた。
効率よくミッションをクリアして、この狂った場所から陽向を連れて帰るぞ。と意気込んでいた。
陽向は顔を顰め、睨みつけていた。涼太はそんな彼の様子に気がつかずに、追い打ちをかけている。
彼は一瞬、悲しそうに顔を歪ませていた。涼太はその表情の意味が、理解できずにした。
陽向が悪態をつくと、涼太は大袈裟に悲しんでいた。そんな彼を陽向は、めんどくさそうに見つめる。
「抱擁……抱擁」
「ひゃっ! なんだ、こいつらっ!」
「あはは、元気だなっ!」
「てめーは、どこまで呑気なんだよっ!」
「なんだよ、兄弟同士で照れんなよ」
「……そうだな」
さっきまで静かにしていた周囲の生徒たちが、無表情で二人を囲み出した。拍手をし始め、陽向は思わず涼太に抱きついた。
頬を紅潮させ、瞳を潤ませていた。涼太の胸に抱きつき、必死で顔を見つめている。
柔軟剤の香りの奥に、涼太自身の香りを感じて頭がくらくらした。
そんな彼を抱きしめ、頭と腰を支える。生唾を飲み込み、怖がる彼を揶揄った。
陽向は顔を真っ赤にしながら、涼太に怒っている。しかし涼太は気にせずに、残酷な一言を浴びせる。
彼は一瞬、酷く冷めた目を涼太に向けた。涼太は彼が冷たくなった理由が分からずに、胸の奥がチクリと痛んだ。
昔は陽向の方が、涼太よりも背が大きかった。陽向は背の順だといつも前にいたが、中学に入ると一気に周りが大きくなった。
それは涼太も例外ではなく、声変わりや成長痛もあった。女の子みたいに声が高かった涼太は、かなり低い声に変わってしまった。
今では、頭半分ほどの身長差ができてしまった。涼太に見下ろされるたび、陽向は自分が子供扱いされているような気分になる。
「お前、意外と肩幅あるな」
「涼太の心音、うるせーよ」
「暑いからな」
「汗……くせーよ」
「お前は、いい香りすんな」
涼太は陽向を抱きしめ、冷静に思っていることを告げる。心臓は、今にも爆発しそうになっていた。
陽向は頭一つ分高い涼太の胸板に、顔を押し付けられる形になった。涼太が腕を回すと、陽向の頭が彼の肩口にすっぽりと収まってしまう。
ーーこいつ、俺がビビってるのを笑ってやがる。心臓の音もうるせーし、きっと俺をバカにして楽しんでんだ。
陽向は文句を言いつつも、涼太の香りを嗅いだ。汗の香りはするが、不思議と気持ちが落ち着いた。
涼太はその様子を見て、静かに涙を流している。明日から、強い消臭剤を使おうと心に決めたのだ。
それとは別に、陽向が顔を赤くしている。その様子を見つめ、自分のおでこと陽向のおでこの温度を比べる。
陽向の香りを嗅ぎ、少しだけ微笑んでいた。陽向は顔を真っ赤にして、より一層抱きついていた。
その間も、二人を多数の生徒たちが取り囲んでいた。二人は怖いため、目を逸らしていた。
「はあ………マジで、なんの拷問だよ」
ミッションを終えて、陽向はトイレへと向かった。用を足す事が目的ではなく、一人になりたかった。
涼太が、当たり前のように付き合っていた彼女。陽向は誰と付き合っていたのか、全てを把握している。
涼太は中学の時、遊び人として有名だった。普通のように数人の女子をはべらせ、ハーレムを形成していた。
他の男子はその光景を羨ましいと、妬んでいた。その多くは、嫉妬と渇望の眼差しだった。
しかし陽向にとっては、涼太でなく女子が羨ましいと感じていた。当たり前のように、涼太に想いを寄せていたからだ。
――俺の気持ちなんて、微塵も気がついていないんだろうな。兄弟って、俺はそんなの嫌なのに。
トイレの鏡で、自分の顔を見つめる。瞳は充血しており、目の下は腫れている。
涼太にとっては、自分はその他大勢の中の一人。そんなことは、端から分かっていた。
もういっそ、疎遠になりたい。幾度となく思ってきたが、無理だったのだ。
涼太は陽向を見つけると、嬉しそうに走ってきた。サッカーを応援してくれて、勉強も教えてくれる。

