ラブ・ミッション・デッドライン〜祠を壊した俺たちが、男同士で愛を誓うまで〜

「りょ……だ、大丈夫だ」
「顔が赤いが……」
「そ……それよりも、なんかおかしくないか」
「えっ……どういうことだっ!」

 視界がボヤける中、陽向が目を覚ました。涼太に抱き抱えられており、一気に目が覚めた。
 頭と腰を支えられており、体が密着していた。お互いの吐息を、感じられる距離だった。

 陽向の顔は一気に真っ赤に染まり、涼太の胸を両手で押した。こいつ……近いんだが!
 頭の中がパニックになりながらも、周りの様子がおかしい事に気がついた。涼太は横たわっていた陽向のことが気がかりで、言われるまで気がつかなかった。

「さっきまで、夜だったよな」
「ああ……今って西暦何年だっけ」
「はあ? 2026年だろ」
「これ、見てみろ」
「はあ? ……んだよ! これっ! 俺の誕生日はどうなんだよっ!」
「心配するとこは、そこじゃねーだろっ」

 確かに夜だったはずだが、今は昼間になっていた。涼太はスマホを見つめ、半信半疑のまま陽向に声をかけた。
 顔を顰め、何を言ってんだと睨んだ。しかしスマホを見せられ、思わず手に取った。

 その日付は、去年の四月二十日だったからだ。つまりは一年以上前に、タイムスリップしたということである。
 スマホは圏外になっており、外部との通信手段はないようだった。そのことに気がつき、涼太は一人固唾を飲み込んだ。

「昔はここで、ただの探検ごっこをしてたのに。……まさか、本物の地獄がここにあるなんてな」
「ちっ……意味分かんね」
「とにかく、行こうぜ」
「はあ! 危険だろっ」
「大丈夫、俺がいるから。今までだって、なんとかなっただろ! お兄ちゃんに、任せとけっ」
「仕方ねーな。まあ、ここにいても埒が空かないしな」
「意外だな……お前が、そんな難しい言葉知ってるとはな」
「……うっせ」

 涼太は神妙な面持ちで、壊れた祠を見つめている。陽向の顔を見つめ、拳をギュッと握り締めた。
 当の本人は、気がつかない。涼太は陽向の肩に腕を回し、子供のような笑みを浮かべた。

 陽向は不安そうに、涼太の顔を見つめる。そんな彼が怖がらないように、涼太は満面の笑みを浮かべる。
 その笑顔を見つめ、陽向は頬を赤く染めた。俯き、心の中でため息をついた。

 ――マジで、人の気も知らないで……お兄ちゃんか……はあ。

 お兄ちゃんと言う言葉は、自分たちの間に引かれた。決して越えられない境界線のようだった。 
 落ち込んでいる様に見えたため、揶揄って遊んでいた。陽向の不貞腐れたような表情を見て、優しく微笑んでいた。

「なあ、やっぱり……おかしくないか」
「だな……男っ! 男同士でっ……!」
「まあ、時代は多様性? だからな」
「お前って、肝が据わっているよな」

 校舎の中に入ると、違和感を覚えた。男子校なのだから、教師を除き男性しかいない。
 それは通常のことだが、その女性の教師たちも実在しないかのように消えている。

 男同士で、当たり前のようにイチャついている。肩を組んだりするのは、通常のことだろう。
 しかしキスをしたり、抱きしめ合ったりしている。生徒たちは、皆機械のように動いている。

 それだけでなく、壁には無数の張り紙が貼られている。「BL最強!」「それこそが、世界の真理」などだ。
 涼太は、余裕綽々な様子だった。欠伸をし、その様子を俯瞰して見ている。

 陽向は顔を真っ赤にし、狼狽えていた。涼太の制服を掴み、辺りを見渡している。

「んっ……」
秀俊(ひでとし)、可愛いな」
「お前は、カッコいいぞ」
「だろうな」

 二人は教室を見つけ、中に入ってみた。二人の幼稚園からの友人である佐伯(さえき)秀俊(ひでとし)が、他の男とイチャつきキスをしていた。

 佐伯は、黒髪マッシュ。アニメキャラに多いからと、涼太に自慢していたほどである。
 かなりのアニメオタクで、バイトのお金のほとんどを趣味に使っている。

 目が大きく、パッチリ二重である。メガネをかけており、黙っていればカワイイ系だ。
 そんな佐伯だったが、自他ともに認める腐男子である。しかし中学の時に体験した出来事により、二次元肯定派になった。

 三次元で恋愛する意味がないと、本気で思っている。そんな佐伯が、白昼堂々と男とイチャついていた。
 二人は目を見開き、目配せした。そんな二人を見ても、佐伯と彼氏はお互いのことしか見えていなかった。

「えっと、佐伯」
「なんだい、今僕は彼氏とラブラブの最中なんだが」
「えっと……お前、彼氏って」
「何か、問題でも? 当たり前のことじゃん。というか、君たちもっと仲良くしなよ。不自然だよ」

 涼太は恐る恐るいつもとは違う友人に、声をかけてみる。陽向は服から手を離し、呆然と立ち尽くしている。
 佐伯は虚ろな目で、二人を見ている。その瞳の奥には、可哀想なものを見る哀愁が漂っていた。

 佐伯は立ち上がり、二人の元に歩み寄った。二人の距離が離れているため、無機質な笑顔で肩を組ませてきた。
 体温を感じさせないほど冷たい手で、瞬きを一切していない。

 佐伯のメガネの奥の瞳には、親友としての心配など微塵もなかった。ただ、決められたタイムテーブルをこなそうとする事務的な光だけが宿っている。
 そんな友人を見つめ、二人は小刻みに体を震わせていた。陽向は何も言わずに、静かに涼太の制服を掴んでいた。

「男同士で、彼氏って……何の設定だよ、それ」
「は? 男同士がおかしいって? おかしいのは、お前だろ? この世界は、男しかいないだろ? 男同士が結ばれるのは自然の摂理だろ」
「はあ……いや、佐伯。お前、中学の時にあんなに泣きながら叫んでただろ。『僕は、あの子の頭の中にある薄い本の登場人物(パーツ)じゃねえ!』って」

 陽向が怯えている様子を見つめ、涼太は拳を握りしめた。涼太は彼の頭を撫で、優しい表情を浮かべる。
 彼は少しだけ、嬉しそうに頬を染めた。そんな二人を見て、佐伯は無機質な笑みを浮かべていた。

 涼太は佐伯を見つめ、声を震わせながら質問する。そんな涼太を見つめ、冷ややかに言い放った。
 二人は顔を見合わせ、呆れたような表情を浮かべる。涼太はため息をつきつつも、中学の時のことを思い出していた。

 あれは中学二年の夏のこと、佐伯は好きな女子に告白をした。同じクラスで、いつも話しかけてくれた優しい女子だった。
 一世一代の、清水の舞台から飛び降りる覚悟だった。しかし相手から、伝えられたのは残酷な現実だった。

「佐伯くんは可愛いから受け。涼太くんみたいなハイスペック攻めとセットなら推せるけど、私と付き合うのは解釈違い」