日が暮れる前に、俺と矢橋先輩は黒渕先生の車に乗り込み廃屋に向かうことにした。町田先生は何かあった時は助けに行くからと、学校で待機してくれることになった。
後部座席で緊張気味に座る俺は、フロントガラスを見つめて目的地へ近付くのを見守っていた。街を抜けると、両側が田んぼの一本道を走る。遠くまで見通しのいい道のはじに、視線が止まった。そこには空き瓶に入ったヤマユリが置かれている。
「黒渕先生、ほらあれ!」
通り過ぎてしまわないように、俺はあわてて体を起こして運転席に寄ると、窓の外を指差した。
「なんですか千羽くん、突然びっくりするからやめてください」
驚いた顔をして、黒渕先生はハンドルを握り返す。その手が震えている気がする。
「あ、すみません。ちょっとゆっくり走ってもらってもいいですか? そろそろ着くので」
乗り出した体を背もたれに戻しながら、俺はゆっくり話す。
徐々にアオイのいる川へ続く畦道の入り口に近づく。俺に見えているんだから、当然黒渕先生にも見えていると思った。
「……なにが、あるんですか?」
不審そうにさっき俺が指差した方向を見ながらゆっくり車を進める先生。
俺から見てもあと数メートル。答えを言う頃には通り過ぎてしまうまでの距離にきても、気がついていないように感じる。
「ほら、すぐそこです! もう通り過ぎちゃいますよ」
今にも止まりそうなスピードでノロノロと走っているのに、先生は気がついていないようで、ついには全然違う方向を向いてしまった。
「黒渕先生には見えないのかもな」
ポツリと矢橋先輩が呟く。
「え、それじゃあ、このまま廃屋まで行っても意味ないんじゃないですか」
もちろん、レンと話をするのは矢橋先輩を介してだ。レン自身の姿は俺にもまだ視えたことはない。だから、黒渕先生にも視えないのは当たり前なのかも知れないけど、ヤマユリまで見えないなんて。
「友達だったんだよ。そんな、にわかに受け入れたくないんだろうな」
寂しげな目で黒渕先生の後ろ姿を見つめる矢橋先輩。15年経っていたとしても、記憶は残っている。むしろ、受け入れたくないことなら、なおさらに強く残ってしまっているのかも知れない。忘れた気になっていても、忘れるなんて出来ないんだろう。
「この辺りに止めてもらっていいですか」
矢橋先輩が黒渕先生に言うと、すぐに車は止まった。廃屋の手前の更地。古いタイヤや使われていない簡易洗い場、車1台分くらいのスペースはあるから、そこにバックで停めてすぐに出られるようにした。
車から降りる前に、黒渕先生が助手席に手を伸ばしてなにかを取り出している。模造紙みたいな丸まった紙。それを、フロントガラスにサンシェードのように広げ始めた。外の明かりが少し弱くなる。白の模造紙には、また不可解な模様と文字。今だに俺には読み取ることは出来ない。黒渕先生オリジナル祓い紙の特大版だ。
1度目の奇跡はなんだったのか分からないけど、まぁ、これも無いよりはマシかもしれない。気持ち的にも。
「黒渕先生、大丈夫ですか?」
矢橋先輩が心配そうに聞く。すると、深呼吸をしてから、先生は頷いた。
遊びに来ただけなら、こんなに清々しく晴れた空は最高だ。風も穏やかで新緑の香りに包まれて気持ちがいい。今から霊と話し合いをしに行くなんて、誰が考えるだろうか。そして、上手くいく保証なんてどこにも無い。
「霊の対処法は僕には分からないけど、僕の友達だった蓮くんなら、きっと僕とは話が通じるはずだ。15年前、いったい何があったのか、聞き出してみる」
決意を固めるように黒渕先生が強く頷くと、矢橋先輩も「お願いします」と頷いた。
そして、俺の方を向いた先輩が目で「行こう」と合図する。
車から降りて、あたりを確認するように見回しながら、矢橋先輩を先頭に俺は二人の後ろを着いて行く。
自分が踏んだ小枝の音にまで怯えながら進む黒渕先生。髪を切ってもらったことで視界が広くなったからか、何かが見えるたびにビビりすぎている。
いつも、矢橋先輩が霊に憑かれるのは突然だった。だからだろう、今回もその時が来るのは突然だった。
後部座席で緊張気味に座る俺は、フロントガラスを見つめて目的地へ近付くのを見守っていた。街を抜けると、両側が田んぼの一本道を走る。遠くまで見通しのいい道のはじに、視線が止まった。そこには空き瓶に入ったヤマユリが置かれている。
「黒渕先生、ほらあれ!」
通り過ぎてしまわないように、俺はあわてて体を起こして運転席に寄ると、窓の外を指差した。
「なんですか千羽くん、突然びっくりするからやめてください」
驚いた顔をして、黒渕先生はハンドルを握り返す。その手が震えている気がする。
「あ、すみません。ちょっとゆっくり走ってもらってもいいですか? そろそろ着くので」
乗り出した体を背もたれに戻しながら、俺はゆっくり話す。
徐々にアオイのいる川へ続く畦道の入り口に近づく。俺に見えているんだから、当然黒渕先生にも見えていると思った。
「……なにが、あるんですか?」
不審そうにさっき俺が指差した方向を見ながらゆっくり車を進める先生。
俺から見てもあと数メートル。答えを言う頃には通り過ぎてしまうまでの距離にきても、気がついていないように感じる。
「ほら、すぐそこです! もう通り過ぎちゃいますよ」
今にも止まりそうなスピードでノロノロと走っているのに、先生は気がついていないようで、ついには全然違う方向を向いてしまった。
「黒渕先生には見えないのかもな」
ポツリと矢橋先輩が呟く。
「え、それじゃあ、このまま廃屋まで行っても意味ないんじゃないですか」
もちろん、レンと話をするのは矢橋先輩を介してだ。レン自身の姿は俺にもまだ視えたことはない。だから、黒渕先生にも視えないのは当たり前なのかも知れないけど、ヤマユリまで見えないなんて。
「友達だったんだよ。そんな、にわかに受け入れたくないんだろうな」
寂しげな目で黒渕先生の後ろ姿を見つめる矢橋先輩。15年経っていたとしても、記憶は残っている。むしろ、受け入れたくないことなら、なおさらに強く残ってしまっているのかも知れない。忘れた気になっていても、忘れるなんて出来ないんだろう。
「この辺りに止めてもらっていいですか」
矢橋先輩が黒渕先生に言うと、すぐに車は止まった。廃屋の手前の更地。古いタイヤや使われていない簡易洗い場、車1台分くらいのスペースはあるから、そこにバックで停めてすぐに出られるようにした。
車から降りる前に、黒渕先生が助手席に手を伸ばしてなにかを取り出している。模造紙みたいな丸まった紙。それを、フロントガラスにサンシェードのように広げ始めた。外の明かりが少し弱くなる。白の模造紙には、また不可解な模様と文字。今だに俺には読み取ることは出来ない。黒渕先生オリジナル祓い紙の特大版だ。
1度目の奇跡はなんだったのか分からないけど、まぁ、これも無いよりはマシかもしれない。気持ち的にも。
「黒渕先生、大丈夫ですか?」
矢橋先輩が心配そうに聞く。すると、深呼吸をしてから、先生は頷いた。
遊びに来ただけなら、こんなに清々しく晴れた空は最高だ。風も穏やかで新緑の香りに包まれて気持ちがいい。今から霊と話し合いをしに行くなんて、誰が考えるだろうか。そして、上手くいく保証なんてどこにも無い。
「霊の対処法は僕には分からないけど、僕の友達だった蓮くんなら、きっと僕とは話が通じるはずだ。15年前、いったい何があったのか、聞き出してみる」
決意を固めるように黒渕先生が強く頷くと、矢橋先輩も「お願いします」と頷いた。
そして、俺の方を向いた先輩が目で「行こう」と合図する。
車から降りて、あたりを確認するように見回しながら、矢橋先輩を先頭に俺は二人の後ろを着いて行く。
自分が踏んだ小枝の音にまで怯えながら進む黒渕先生。髪を切ってもらったことで視界が広くなったからか、何かが見えるたびにビビりすぎている。
いつも、矢橋先輩が霊に憑かれるのは突然だった。だからだろう、今回もその時が来るのは突然だった。



