「……っくん、千羽くんっ!!」
何度も呼びかけられているけど、頭ん中ぼうっとして、身体も上手く動かせない。上手く息ができているかも分からない。胸が苦しい。酸素がうまく吸い込めない。
俺は、どうなったんだ?
「千羽くん!!」
必死にも聞こえる声に、俺は一気に目が覚める。視界に映り込んできたのは、黒渕先生の泣き顔だ。
「……先、せい?」
ようやく喉の奥から絞りでた言葉。
身体はまだ重苦しくて動けそうにないけど、視界はよく見えている。ここは、さっきまでいた山の中じゃない。
白い天井に消毒の匂い。爽やかな空気と明るい空間に、目を見開いた。
「ここ、は?」
矢橋先輩は!?
起きあがろうとするけど、全身が筋肉痛のような痛みを感じる。
「急に起きてはいけません」
「矢橋、先輩は? 先生、矢橋先輩、どこですか!?」
俺がここにいるなら、先輩だってそばにいるはずだ。なのに、見渡す部屋の中は俺一人だけの個室のようだ。
「矢橋くんはまだICUにいるよ。大丈夫。命に別状はない。それに、目が覚めてすぐにこんなことを聞くのも酷だけど、一体何があったんだ」
心配するように聞いてくる黒渕先生に、俺はついさっきあったことを思い出す。
頭がズキリと痛む。
「……話せる範囲でいいから」
ゆっくり起き上がって窓を見れば、明るく空は晴れている。どんよりとした雲はなくて、あれから夜を超えて俺は黒渕先生に連れられて病院に運ばれて、今まで眠り続けていたようだ。
「君に電話をした時、様子がおかしかったから、すぐにペーパーチャームに付いている位置情報を元に向かったんだ。そしたら、矢橋くんと二人でひとけのない山奥で倒れているのを見つけて……意識がないからあわてて二人を運んだんだけど」
「……来て、くれたんですか」
黒渕先生は絶対に来ないと思っていたから、驚く。
「……まぁ、出来れば行きたくなかったよ? 怖いし」
本音を漏らすから、つい、笑ってしまう。
そして、ようやくホッとできる気がした。もうあの霊は近くに居ないんだと安心する。
「ってか、あの紙で位置情報が分かるとか、怖いんですが」
不気味な紙がさらに不穏なものだったなんて。霊も怖いけど先生も怖いよ。
「矢橋くんになにかあったら、気が気じゃないんだよ」
だとしてもやりすぎだ。今回も助かってはいるけど、スッキリしない。
「千羽くん、あの時電話でレンって名前を言っていなかったかい?」
「……あー、はい。あの廃屋にいる矢橋先輩に憑いていた霊の名前です」
「矢橋くんに……」
「俺、そのレンって霊と出来もしない約束をしちゃって。それで、怒らせちゃって……このまま殺されるって思ったから、あの時先生から着信が来て助けてって、それしか言えなくて……」
思い出すと震えてくる。両手が小刻みに揺れ出すから。手首を押さえて動きを封じる。
あのまま、どうなっていたのかもわからない。
「……その首のあざ、霊の仕業なのかい?」
「え……」
先生に聞かれて、そっと首元に触れた。入り口横にある洗面台の鏡に写った自分の姿を見て、ゾッとした。
首が真っ赤に鬱血しているように見える。しかも、くっきりと指の跡が残っている。
首を絞められた時の感覚が一瞬にして蘇ってきて、咳き込んだ。
息苦しくなる呼吸に嗚咽が出る。
「大丈夫かっ、千羽くん」
先生が椅子から立ち上がって、俺の背中をさすってくれた。
夢なんかじゃない。あれは、現実だった。俺は、殺されかけた。
「顔が真っ青だ。無理はさせたくない。まずはゆっくり休みなさい」
俺をそっと横にして寝せてくれた黒渕先生が、部屋から出て行こうとするから、俺は引き留めた。
「あの……」
まだ、矢橋先輩に憑いた霊、レンの悲しみは拭いきれていない。また先輩のところへ来て連れて行かれでもしたら、今度こそ先輩の命に関わる。
「あの廃屋、15年前の小学生行方不明事件と関係があるんです。同じくあそこであった水難事故も。調べて、行方不明になっている子を見つけて欲しいんです。きっと、彼はひとりぼっちでいることがさみしくて、辛いんだと思うので」
だから、優しい矢橋先輩に憑いてきて、気がついて欲しいとあんなことをしているんだと思う。
「確か、レン……と、言っていましたよね?」
「そうです。小林葵さんと高橋蓮くん」
「心当たりがあります。調べてみます」
黒渕先生は静かにそう答えると、病室から出ていった。
何度も呼びかけられているけど、頭ん中ぼうっとして、身体も上手く動かせない。上手く息ができているかも分からない。胸が苦しい。酸素がうまく吸い込めない。
俺は、どうなったんだ?
「千羽くん!!」
必死にも聞こえる声に、俺は一気に目が覚める。視界に映り込んできたのは、黒渕先生の泣き顔だ。
「……先、せい?」
ようやく喉の奥から絞りでた言葉。
身体はまだ重苦しくて動けそうにないけど、視界はよく見えている。ここは、さっきまでいた山の中じゃない。
白い天井に消毒の匂い。爽やかな空気と明るい空間に、目を見開いた。
「ここ、は?」
矢橋先輩は!?
起きあがろうとするけど、全身が筋肉痛のような痛みを感じる。
「急に起きてはいけません」
「矢橋、先輩は? 先生、矢橋先輩、どこですか!?」
俺がここにいるなら、先輩だってそばにいるはずだ。なのに、見渡す部屋の中は俺一人だけの個室のようだ。
「矢橋くんはまだICUにいるよ。大丈夫。命に別状はない。それに、目が覚めてすぐにこんなことを聞くのも酷だけど、一体何があったんだ」
心配するように聞いてくる黒渕先生に、俺はついさっきあったことを思い出す。
頭がズキリと痛む。
「……話せる範囲でいいから」
ゆっくり起き上がって窓を見れば、明るく空は晴れている。どんよりとした雲はなくて、あれから夜を超えて俺は黒渕先生に連れられて病院に運ばれて、今まで眠り続けていたようだ。
「君に電話をした時、様子がおかしかったから、すぐにペーパーチャームに付いている位置情報を元に向かったんだ。そしたら、矢橋くんと二人でひとけのない山奥で倒れているのを見つけて……意識がないからあわてて二人を運んだんだけど」
「……来て、くれたんですか」
黒渕先生は絶対に来ないと思っていたから、驚く。
「……まぁ、出来れば行きたくなかったよ? 怖いし」
本音を漏らすから、つい、笑ってしまう。
そして、ようやくホッとできる気がした。もうあの霊は近くに居ないんだと安心する。
「ってか、あの紙で位置情報が分かるとか、怖いんですが」
不気味な紙がさらに不穏なものだったなんて。霊も怖いけど先生も怖いよ。
「矢橋くんになにかあったら、気が気じゃないんだよ」
だとしてもやりすぎだ。今回も助かってはいるけど、スッキリしない。
「千羽くん、あの時電話でレンって名前を言っていなかったかい?」
「……あー、はい。あの廃屋にいる矢橋先輩に憑いていた霊の名前です」
「矢橋くんに……」
「俺、そのレンって霊と出来もしない約束をしちゃって。それで、怒らせちゃって……このまま殺されるって思ったから、あの時先生から着信が来て助けてって、それしか言えなくて……」
思い出すと震えてくる。両手が小刻みに揺れ出すから。手首を押さえて動きを封じる。
あのまま、どうなっていたのかもわからない。
「……その首のあざ、霊の仕業なのかい?」
「え……」
先生に聞かれて、そっと首元に触れた。入り口横にある洗面台の鏡に写った自分の姿を見て、ゾッとした。
首が真っ赤に鬱血しているように見える。しかも、くっきりと指の跡が残っている。
首を絞められた時の感覚が一瞬にして蘇ってきて、咳き込んだ。
息苦しくなる呼吸に嗚咽が出る。
「大丈夫かっ、千羽くん」
先生が椅子から立ち上がって、俺の背中をさすってくれた。
夢なんかじゃない。あれは、現実だった。俺は、殺されかけた。
「顔が真っ青だ。無理はさせたくない。まずはゆっくり休みなさい」
俺をそっと横にして寝せてくれた黒渕先生が、部屋から出て行こうとするから、俺は引き留めた。
「あの……」
まだ、矢橋先輩に憑いた霊、レンの悲しみは拭いきれていない。また先輩のところへ来て連れて行かれでもしたら、今度こそ先輩の命に関わる。
「あの廃屋、15年前の小学生行方不明事件と関係があるんです。同じくあそこであった水難事故も。調べて、行方不明になっている子を見つけて欲しいんです。きっと、彼はひとりぼっちでいることがさみしくて、辛いんだと思うので」
だから、優しい矢橋先輩に憑いてきて、気がついて欲しいとあんなことをしているんだと思う。
「確か、レン……と、言っていましたよね?」
「そうです。小林葵さんと高橋蓮くん」
「心当たりがあります。調べてみます」
黒渕先生は静かにそう答えると、病室から出ていった。



