「ありがとね、千羽くん」
矢橋先輩が耳元で囁くように言うから、途端に力が抜ける。
危なく空き瓶を落っことしそうになって、あわててしっかり抱え直した。
「矢橋先輩! ありがとうは全部終わってからにしてください!」
じゃないと、俺、嬉しくて今すぐ泣きそうだからー!!
「あ、ごめんね。つい、千羽くんが頼もしすぎちゃって」
いや、だから、そう言う言葉は全部終わった後にしてほしい。デレて決心緩んじゃうから。
「あ、でさ、俺遠くで見ているだけでもいい?」
「……え?」
「あの霊、ほんと憑かれると疲れるんだよね。今こっち終わったばっかで体力消耗し過ぎたから、見ていてもいい?」
何を突然訳のわからないことを。
疲労困ぱいの目で見つめられたって、それは俺には通じない相談だ。
「いや、矢橋先輩。先輩がいなくて、俺どうやって霊と話すんです?」
この人、俺が一人で廃屋に空き瓶の山百合持って立っているっていう、一番ホラーになりかねない状況を作ろうとしている。
やめてほしい。ほんと。
一人放り込むなら、全身に黒渕先生の作った……えっと、なんだっけ、ペーパーなんちゃらっていう、お札型祓い紙を貼りまくって欲しい。いや、それもまたホラーだな。いや、なんかそれだともはや怖いを通り越してコントか? いやいやいや、笑えない。絶対に笑えないから。
「……あ、そっか。ヤバい。俺全然頭回ってなかった」
あんなにアオイと楽しそうに話していたのに、もしかしてそれが原因? あまりにも霊に深入りし過ぎちゃって精神的にも肉体的にも疲労困ぱいなの?
「大丈夫ですか? 少し休んでからにします?」
午後になっているけど、まだ時間的には余裕がある。話し合いがどうなるのかは見当もつかないけど、長期戦になるなら、先輩の身体が心配だ。でも、夕方までには終わらせたい。こっちの都合でそう上手くいくかはわからないけど、出来れば暗くなる前に帰りたい。絶対に。
「眠いけど、たぶん今寝たら明日まで寝れる自信しかない」
もはやまぶたが閉じかけているから、先輩の耳元で「わー! ダメです! 先輩!起きてー!」と叫ぶしかない。
なんとか会話を途絶えさせずに、俺は畦道の入り口まで先輩と一緒に戻ってきた。
山中から見えた空が頭上に広がる。さっき飛んで見えていたトンビの距離が少し近くなったように感じる。
真上にいた太陽も少し傾いてあたたかい。
「先輩、俺急いであの霊のこと説得するから、だから、頑張ってください。先輩は、誰よりも頑張れる人だって、俺知ってますから!」
「えー、またバドの話? バドはねぇ、もう諦め……」
「バドに限らずです! 憑かれやすい体質にだって頑張って向き合っているし、黒渕先生ともあんな態度してたけど、ちゃんと考えてる。俺のことだって、まだ会って間もないのに頼ってくれて、かっこいいって言ってくれているし、矢橋先輩はみんなに優しくすることを日々頑張り過ぎているんですよ! だから、もうひと頑張りしてください! 終わったら、今度は俺がご飯ごちそうします!」
先輩の言葉を遮って、勢いのまましゃべった。
息が上がるくらいに気持ちが高ぶって、自分が何言っているのかも分からなくなったけど、それでも、俺は先輩に伝えたいから。
寄りかかっていた先輩の体重がフッと軽くなる。
そして、しっかりと立ち上がりこちらを向いた矢橋先輩は、俺の肩に置いていた手を頭に乗せてわしゃわしゃと撫でてきた。
「久しぶりに一人じゃない夕飯めちゃくちゃ美味かった。また千羽くんと一緒に夕飯食べられるなら、いっちょ頑張りますか!」
「……矢橋先輩っ!」
さっきまでのぐったりした顔などどこへやら。矢橋先輩は首鳴らし、手首を回して準備体操をするみたいに身体を整え始めた。
頼もしい背中に、俺は気持ちが高まってきて、軽い足取りで前に進んだ。
矢橋先輩が耳元で囁くように言うから、途端に力が抜ける。
危なく空き瓶を落っことしそうになって、あわててしっかり抱え直した。
「矢橋先輩! ありがとうは全部終わってからにしてください!」
じゃないと、俺、嬉しくて今すぐ泣きそうだからー!!
「あ、ごめんね。つい、千羽くんが頼もしすぎちゃって」
いや、だから、そう言う言葉は全部終わった後にしてほしい。デレて決心緩んじゃうから。
「あ、でさ、俺遠くで見ているだけでもいい?」
「……え?」
「あの霊、ほんと憑かれると疲れるんだよね。今こっち終わったばっかで体力消耗し過ぎたから、見ていてもいい?」
何を突然訳のわからないことを。
疲労困ぱいの目で見つめられたって、それは俺には通じない相談だ。
「いや、矢橋先輩。先輩がいなくて、俺どうやって霊と話すんです?」
この人、俺が一人で廃屋に空き瓶の山百合持って立っているっていう、一番ホラーになりかねない状況を作ろうとしている。
やめてほしい。ほんと。
一人放り込むなら、全身に黒渕先生の作った……えっと、なんだっけ、ペーパーなんちゃらっていう、お札型祓い紙を貼りまくって欲しい。いや、それもまたホラーだな。いや、なんかそれだともはや怖いを通り越してコントか? いやいやいや、笑えない。絶対に笑えないから。
「……あ、そっか。ヤバい。俺全然頭回ってなかった」
あんなにアオイと楽しそうに話していたのに、もしかしてそれが原因? あまりにも霊に深入りし過ぎちゃって精神的にも肉体的にも疲労困ぱいなの?
「大丈夫ですか? 少し休んでからにします?」
午後になっているけど、まだ時間的には余裕がある。話し合いがどうなるのかは見当もつかないけど、長期戦になるなら、先輩の身体が心配だ。でも、夕方までには終わらせたい。こっちの都合でそう上手くいくかはわからないけど、出来れば暗くなる前に帰りたい。絶対に。
「眠いけど、たぶん今寝たら明日まで寝れる自信しかない」
もはやまぶたが閉じかけているから、先輩の耳元で「わー! ダメです! 先輩!起きてー!」と叫ぶしかない。
なんとか会話を途絶えさせずに、俺は畦道の入り口まで先輩と一緒に戻ってきた。
山中から見えた空が頭上に広がる。さっき飛んで見えていたトンビの距離が少し近くなったように感じる。
真上にいた太陽も少し傾いてあたたかい。
「先輩、俺急いであの霊のこと説得するから、だから、頑張ってください。先輩は、誰よりも頑張れる人だって、俺知ってますから!」
「えー、またバドの話? バドはねぇ、もう諦め……」
「バドに限らずです! 憑かれやすい体質にだって頑張って向き合っているし、黒渕先生ともあんな態度してたけど、ちゃんと考えてる。俺のことだって、まだ会って間もないのに頼ってくれて、かっこいいって言ってくれているし、矢橋先輩はみんなに優しくすることを日々頑張り過ぎているんですよ! だから、もうひと頑張りしてください! 終わったら、今度は俺がご飯ごちそうします!」
先輩の言葉を遮って、勢いのまましゃべった。
息が上がるくらいに気持ちが高ぶって、自分が何言っているのかも分からなくなったけど、それでも、俺は先輩に伝えたいから。
寄りかかっていた先輩の体重がフッと軽くなる。
そして、しっかりと立ち上がりこちらを向いた矢橋先輩は、俺の肩に置いていた手を頭に乗せてわしゃわしゃと撫でてきた。
「久しぶりに一人じゃない夕飯めちゃくちゃ美味かった。また千羽くんと一緒に夕飯食べられるなら、いっちょ頑張りますか!」
「……矢橋先輩っ!」
さっきまでのぐったりした顔などどこへやら。矢橋先輩は首鳴らし、手首を回して準備体操をするみたいに身体を整え始めた。
頼もしい背中に、俺は気持ちが高まってきて、軽い足取りで前に進んだ。



