ショッピングモールから外に出れば、空はうっすらと夜色。夕陽もすでに落ちていて、たぶん五分くらい歩けば辺りは真っ暗になるだろう。
それなのに、明るかった街からどんどん先輩はひと気のない山の方に向かって歩いて行く。街灯もポツポツと間隔が広くなって、ついに辺りは暗闇になってしまった。
スマホの明かり一つを頼りに、一寸先もよく見えない道をひたすらに歩く。
ホラー映画を見てきた後だから、余計に胸がざわざわする。後ろから何かに襲われるんじゃないかとか、いきなり脇から何かが現れるんじゃないかとか、とにかく俺は恐怖でしかない。
なのに、前を行く先輩にいたっては、鼻歌混じりに陽気だ。しかも、その鼻歌ってさっき見た映画の主題歌でしょ。思い出すからやめてほしい。楽しそうに聞こえるのがせめてもの救いだけども。
「千羽くん」
「ぎゃ!?」
いきなり先輩が振り返るから、思わず叫んでしまった。口元に手を当てて視線を上げると、スマホの画面を顎下に置いてぼんやりと自分の顔を照らして俺を見下ろしている。
ほんっと、マジでやめてほしい。
「ははは、やっぱ苦手だった? 帰る?」
「え」
「帰る」と言う選択肢を与えてくれるのか? と、急に先輩が明るく見えた。と、思ったのも束の間、顔に明かりを当てたまま、目を細めて俺に顔を近づけてくる。
「ここ、よく出るって噂の心霊スポットなんだよね」
「……はっ……?」
「ほんとヤバいかも。見て、すっげぇ鳥肌」
そう言ってシャツの袖を捲って見せてくる。先輩の無駄のない引き締まった筋肉があらわになって不謹慎ながらドキドキしてしまう。だけど、その腕をよく見ると、先輩の言うように鳥肌が立っているのが分かった。
「さっむ……」
震えている先輩の顔色を見上げてみれば、ぼんやりとしたあかりではあるけれど、蒼白な気がする。
「ちょっと、大丈夫ですか? 矢橋先輩」
不安になってそう言った直後、ふらりと先輩が俺に向かって倒れ込んできた。
「え、う、うわっ!?」
受け止めようと両手を広げたけれど、俺はそのまま草の茂った道路脇に先輩と一緒に倒れ込んでしまった。
柔らかい草とアスファルトではない土の上だったから、衝撃の割に痛みはそれほどない。だけど、重たくのしかかる先輩の体が覆い被さってきていて、動けない。
「せんぱーい、大丈夫ですかぁ」
スマホの明かりも消えてしまって、もう何も見えない。仰向けになった俺は、飲まれそうなほど真っ黒い空しか視界に入らなくなった。
せめて、月明かりでもあればもっと明るいのだろうけど、あいにく今日の空は晴れていても月のない夜らしい。
しばらく押し倒された状態でいると、なんだか変な気持ちになってくる。これは、どさくさに紛れて、先輩のこと抱きしめてもいいのだろうか? うん、不可抗力だ。こんなチャンス、もう二度とないかもしれないし。
決意し、そっと先輩のことを抱きしめようと腕を背中に回した瞬間、むくりと先輩が起き上がるから、心臓が飛び出るかと思った。
自分のやましさに謝ろうとあわてて俺も起き上がると、目の前にいる先輩の様子が、おかしい。
「……矢橋、先輩?」
ずっと無言のまま、目を閉じてピクリとも動かずに立っている。
何かがおかしい。そう感じた時には、もう遅かった。
それなのに、明るかった街からどんどん先輩はひと気のない山の方に向かって歩いて行く。街灯もポツポツと間隔が広くなって、ついに辺りは暗闇になってしまった。
スマホの明かり一つを頼りに、一寸先もよく見えない道をひたすらに歩く。
ホラー映画を見てきた後だから、余計に胸がざわざわする。後ろから何かに襲われるんじゃないかとか、いきなり脇から何かが現れるんじゃないかとか、とにかく俺は恐怖でしかない。
なのに、前を行く先輩にいたっては、鼻歌混じりに陽気だ。しかも、その鼻歌ってさっき見た映画の主題歌でしょ。思い出すからやめてほしい。楽しそうに聞こえるのがせめてもの救いだけども。
「千羽くん」
「ぎゃ!?」
いきなり先輩が振り返るから、思わず叫んでしまった。口元に手を当てて視線を上げると、スマホの画面を顎下に置いてぼんやりと自分の顔を照らして俺を見下ろしている。
ほんっと、マジでやめてほしい。
「ははは、やっぱ苦手だった? 帰る?」
「え」
「帰る」と言う選択肢を与えてくれるのか? と、急に先輩が明るく見えた。と、思ったのも束の間、顔に明かりを当てたまま、目を細めて俺に顔を近づけてくる。
「ここ、よく出るって噂の心霊スポットなんだよね」
「……はっ……?」
「ほんとヤバいかも。見て、すっげぇ鳥肌」
そう言ってシャツの袖を捲って見せてくる。先輩の無駄のない引き締まった筋肉があらわになって不謹慎ながらドキドキしてしまう。だけど、その腕をよく見ると、先輩の言うように鳥肌が立っているのが分かった。
「さっむ……」
震えている先輩の顔色を見上げてみれば、ぼんやりとしたあかりではあるけれど、蒼白な気がする。
「ちょっと、大丈夫ですか? 矢橋先輩」
不安になってそう言った直後、ふらりと先輩が俺に向かって倒れ込んできた。
「え、う、うわっ!?」
受け止めようと両手を広げたけれど、俺はそのまま草の茂った道路脇に先輩と一緒に倒れ込んでしまった。
柔らかい草とアスファルトではない土の上だったから、衝撃の割に痛みはそれほどない。だけど、重たくのしかかる先輩の体が覆い被さってきていて、動けない。
「せんぱーい、大丈夫ですかぁ」
スマホの明かりも消えてしまって、もう何も見えない。仰向けになった俺は、飲まれそうなほど真っ黒い空しか視界に入らなくなった。
せめて、月明かりでもあればもっと明るいのだろうけど、あいにく今日の空は晴れていても月のない夜らしい。
しばらく押し倒された状態でいると、なんだか変な気持ちになってくる。これは、どさくさに紛れて、先輩のこと抱きしめてもいいのだろうか? うん、不可抗力だ。こんなチャンス、もう二度とないかもしれないし。
決意し、そっと先輩のことを抱きしめようと腕を背中に回した瞬間、むくりと先輩が起き上がるから、心臓が飛び出るかと思った。
自分のやましさに謝ろうとあわてて俺も起き上がると、目の前にいる先輩の様子が、おかしい。
「……矢橋、先輩?」
ずっと無言のまま、目を閉じてピクリとも動かずに立っている。
何かがおかしい。そう感じた時には、もう遅かった。



