そうと決まれば、さっそくリュックの中身を再度確認してから外へ出た。
玄関外の壁に立てかけておいたさっき使った傘の下には水たまりができている。太陽がそこに反射して眩しさに目を細めた。
「もう雨は降らないことを祈ろう」
本日二度目の着替え。何があってもいいようにか、Tシャツにジャージのゆるコーデ。それでも矢橋先輩はやっぱりかっこいい。何を着ても似合っちゃうのが羨ましいまである。
「一応カッパは持ちましたから」
「……カッパ? え、レインコート?」
「え?」
「レインコートのことでしょ?」
再度聞き直されて、俺は頭の中でカッパ=レインコートと結びつける。
「え、いや、カッパはカッパでしょう!?」
小さい頃から俺はそれで育ってきている。
『拓ちゃん、ほら雨降ったら濡れっからカッパ着てけ』
ばあちゃんがよくそう言って小学校まで歩くのに着せてくれた。
「まぁ、どっちでもいいけど。カッパって池にいるやつじゃないの?」
ブツブツと文句のように呟きながら矢橋先輩は前を行く。
え、俺の方が年下だよな? 基本ばあちゃんに育てられたから、もしかして時代遅れてるのか?
しょうがないだろ、両親は共働きで普段は「おはよう」と「おやすみ」くらいしか会話なかったし、学校のこともばあちゃんに話聞いてもらってたから不便はなかった。でも、言葉が通じないってなに? レインコートってなんだよ。おしゃれか! ってか先輩はオシャレだよ。なんか都会的なスタイルに服のセンスもいいし、俺なんか着られるならなんだっていいって思っちゃうからいつも決まったブランドのTシャツとズボンだしな。
まぁ、高校生になったんだし、少しはオシャレもしないといけないのかも。
顎に手を当て悩む。
いや、矢橋先輩は憧れの人だ。俺から見て光り輝いていて当たり前。手の届かない高嶺の花。それなのに、存在しない霊のおかげで先輩との距離は急接近。ありがたいと思うべきかどうしてこんなことにと悲しむべきか。
「なぁ、千羽くん」
歩き始めて5分ほど。ずっと一歩前を歩いていた矢橋先輩が振り返った。
「上手く行く保証なんて全然ないんだから、帰るなら今だよ? 君が俺の特異体質にここまで付き合う義理もないんだからさ」
いきなり何を言い出すかと思えば。
俺は先輩の突き放すような言動に唖然とする。
何度も言ってきたはずだけどな、とは思いつつ、俺は先輩に笑顔を向ける。
「俺が行きたいから行くんです! だから、帰るとか全く考えてませんから。ご安心を」
頼りにされているかもとは思っても、なかなか信用まではされていないんだなぁなんて、心の隅で思っちゃうけど、たぶんそうじゃない。
矢橋先輩は優しいんだ。
だから、俺が何度だってついて行くって決めても、何度でもそうやって逃げ道を作ってくれる。怖いなら逃げてもいいって。
そりゃ、怖いのは怖いけど。でも、先輩と一緒なら俺は大丈夫って思える。
不思議だけど、心が少し強くなれるような気がするんだ。
「俺は矢橋先輩に憑いた霊と向き合いたいです」
はっきりと断言した俺に、矢橋先輩は目を見開き、太陽を背に満面の笑みを浮かべる。
「あはは、頼もしいじゃん」
先輩の笑う顔が見れることが嬉しい。
「人間と向き合うより、霊と話してた方が気が楽だよ」
「え?」
「だって人間って表で笑っていても裏では何考えてるかわかんないじゃん。その点、霊は感情はっきりしてるから。怨み辛み、悲しみ後悔、一色しかない。でも、話せばその裏に隠された感情も出てくる。だから、あの二人の心だけは、救ってあげよう」
向き合ってこちらを見つめる先輩の瞳が潤んでいる。霊の気持ちを考えるだけで、きっと精神的に傷みを伴っているのかもしれない。
一番怖いと思っているのは、きっと矢橋先輩だ。
誰よりも悲しみも辛さも後悔も汲み取れてしまう優しさを持っているんだろうから。
霊の姿は俺には見えない。先輩に霊が憑いて初めて話ができる。
まずは、ヤマユリの少女、アオイのいる場所に向かう。
玄関外の壁に立てかけておいたさっき使った傘の下には水たまりができている。太陽がそこに反射して眩しさに目を細めた。
「もう雨は降らないことを祈ろう」
本日二度目の着替え。何があってもいいようにか、Tシャツにジャージのゆるコーデ。それでも矢橋先輩はやっぱりかっこいい。何を着ても似合っちゃうのが羨ましいまである。
「一応カッパは持ちましたから」
「……カッパ? え、レインコート?」
「え?」
「レインコートのことでしょ?」
再度聞き直されて、俺は頭の中でカッパ=レインコートと結びつける。
「え、いや、カッパはカッパでしょう!?」
小さい頃から俺はそれで育ってきている。
『拓ちゃん、ほら雨降ったら濡れっからカッパ着てけ』
ばあちゃんがよくそう言って小学校まで歩くのに着せてくれた。
「まぁ、どっちでもいいけど。カッパって池にいるやつじゃないの?」
ブツブツと文句のように呟きながら矢橋先輩は前を行く。
え、俺の方が年下だよな? 基本ばあちゃんに育てられたから、もしかして時代遅れてるのか?
しょうがないだろ、両親は共働きで普段は「おはよう」と「おやすみ」くらいしか会話なかったし、学校のこともばあちゃんに話聞いてもらってたから不便はなかった。でも、言葉が通じないってなに? レインコートってなんだよ。おしゃれか! ってか先輩はオシャレだよ。なんか都会的なスタイルに服のセンスもいいし、俺なんか着られるならなんだっていいって思っちゃうからいつも決まったブランドのTシャツとズボンだしな。
まぁ、高校生になったんだし、少しはオシャレもしないといけないのかも。
顎に手を当て悩む。
いや、矢橋先輩は憧れの人だ。俺から見て光り輝いていて当たり前。手の届かない高嶺の花。それなのに、存在しない霊のおかげで先輩との距離は急接近。ありがたいと思うべきかどうしてこんなことにと悲しむべきか。
「なぁ、千羽くん」
歩き始めて5分ほど。ずっと一歩前を歩いていた矢橋先輩が振り返った。
「上手く行く保証なんて全然ないんだから、帰るなら今だよ? 君が俺の特異体質にここまで付き合う義理もないんだからさ」
いきなり何を言い出すかと思えば。
俺は先輩の突き放すような言動に唖然とする。
何度も言ってきたはずだけどな、とは思いつつ、俺は先輩に笑顔を向ける。
「俺が行きたいから行くんです! だから、帰るとか全く考えてませんから。ご安心を」
頼りにされているかもとは思っても、なかなか信用まではされていないんだなぁなんて、心の隅で思っちゃうけど、たぶんそうじゃない。
矢橋先輩は優しいんだ。
だから、俺が何度だってついて行くって決めても、何度でもそうやって逃げ道を作ってくれる。怖いなら逃げてもいいって。
そりゃ、怖いのは怖いけど。でも、先輩と一緒なら俺は大丈夫って思える。
不思議だけど、心が少し強くなれるような気がするんだ。
「俺は矢橋先輩に憑いた霊と向き合いたいです」
はっきりと断言した俺に、矢橋先輩は目を見開き、太陽を背に満面の笑みを浮かべる。
「あはは、頼もしいじゃん」
先輩の笑う顔が見れることが嬉しい。
「人間と向き合うより、霊と話してた方が気が楽だよ」
「え?」
「だって人間って表で笑っていても裏では何考えてるかわかんないじゃん。その点、霊は感情はっきりしてるから。怨み辛み、悲しみ後悔、一色しかない。でも、話せばその裏に隠された感情も出てくる。だから、あの二人の心だけは、救ってあげよう」
向き合ってこちらを見つめる先輩の瞳が潤んでいる。霊の気持ちを考えるだけで、きっと精神的に傷みを伴っているのかもしれない。
一番怖いと思っているのは、きっと矢橋先輩だ。
誰よりも悲しみも辛さも後悔も汲み取れてしまう優しさを持っているんだろうから。
霊の姿は俺には見えない。先輩に霊が憑いて初めて話ができる。
まずは、ヤマユリの少女、アオイのいる場所に向かう。



