「おはよう、矢橋くん。相変わらずいい男だねぇ」
パッと悩んだ顔から嬉しそうにデレた声に変わる黒渕先生。笑顔こそ見えないけど、あの前髪の下は絶対にニヤけていると思う。
まさか、黒渕先生も矢橋先輩のことを!?
二人のことを交互に見て、俺はジッと疑惑の目を向ける。
「昨日はどこに行っていたんだい? 心配でアパートに来てみればもぬけの殻だし。探すあてもないから帰ったのだけど。僕の掛け軸が部屋から無くなっていたようだけど、あれ、効果あったのかな?」
「ありません」
はっきり、きっぱりと矢橋先輩は断言する。
もしかして、俺と車ですれ違ったあと、先生はここへ来て勝手に生徒の家に上がり込んで、部屋の中を物色したってこと? それってヤバいじゃん。って言うか、よく考えれば俺も昨日同じことしたな。いや、あれはちゃんと理由があってのことで。でも、先生のことばかりは責められない気もする。
「また勝手に上がり込んだんですか? 警察呼びますよ?」
「いや、勝手にと言うか、鍵が開いていたぞ。泥棒にでも入られたら物騒だろう」
「先生の方が物騒です。取られて困るもん別にないんで、泥棒の方がまだマシです」
またしてもはっきり言い切る先輩には驚いてしまう。
いや、泥棒の方がマシとか霊より苦手とか、どんだけ黒渕先生のこと嫌ってんの?
「矢橋くーん、僕はただただ君のことが心配なんだよ。また色々書いてきたから、これ貼ってガッチガチに家の中ガードしておきなさい。あ、玄関前の塩、直して足しといたからね」
黒渕先生の言葉に、俺は玄関前に視線を落とした。ひっくり返って散らばっていた盛り塩は綺麗に元通りになって置かれていた。
「塩とか意味ないですから」
「今回は0.571グラム足しといたよ」
「なんですか、その微妙な数字」
呆れた視線を送る矢橋先輩に、黒渕先生はニヤリと笑う。
「霊、こ、な、い」
俺は先生の言葉に頭の中で数字を当てはめていく。
霊=0、こ=5、な=7、い=1。
え!? 当て字? ギャグ? 笑わせようとしてる? いや、黒渕先生の顔は笑ってはいるが真面目だ。先生本気なの? ふざけてるの? わかんないよ俺。
「ふざけてますよね?」
「気持ち的に来なそうでしょ」
「いや、ふざけてます。もういいですから。俺には千羽くんって頼れる後輩ができましたので。先生の訳わかんない紙切れとか掛け軸とか塩とか全部もう要りませんので」
「……え、もう、要らない……?」
黒渕先生は落ち込み、一瞬にして丸めた背中に影を纏う。
「ご心配ありがとうございました。千羽くん、朝ごはん食べよう」
「え! あ、はい!」
矢橋先輩が黒渕先生に頭を下げると、俺の方を見て中に入れと誘ってくれる。嬉しくて、俺はすぐに先輩の元へ戻ろうとするけど、黒渕先生に腕を掴まれた。
「何かあったらここに」
それだけ言うと、先生は悲しそうに俯いて行ってしまった。
手に握らせられたのは、紙切れ。
また、なにかよく分からない文字が書いてあるのかと思ってそっと開いてみれば、綺麗な字で【黒渕携帯 090-×××-○○○】と書かれていた。
……連絡先?
「まぁ、一応入れといたら? もしもの時はなにか役に立ってもらえるかもだし。厄介ごとは任せられるかもしれないし、大人だからね」
紙切れに視線を落としていると、矢橋先輩が笑いながらそう言ってくる。
黒渕先生をいいように使おうと言う計算がありそうに聞こえてくるが、一人暮らしの身には大人の存在はありがたい気もするから、素直にスマホに番号を入れておくことにした。
パッと悩んだ顔から嬉しそうにデレた声に変わる黒渕先生。笑顔こそ見えないけど、あの前髪の下は絶対にニヤけていると思う。
まさか、黒渕先生も矢橋先輩のことを!?
二人のことを交互に見て、俺はジッと疑惑の目を向ける。
「昨日はどこに行っていたんだい? 心配でアパートに来てみればもぬけの殻だし。探すあてもないから帰ったのだけど。僕の掛け軸が部屋から無くなっていたようだけど、あれ、効果あったのかな?」
「ありません」
はっきり、きっぱりと矢橋先輩は断言する。
もしかして、俺と車ですれ違ったあと、先生はここへ来て勝手に生徒の家に上がり込んで、部屋の中を物色したってこと? それってヤバいじゃん。って言うか、よく考えれば俺も昨日同じことしたな。いや、あれはちゃんと理由があってのことで。でも、先生のことばかりは責められない気もする。
「また勝手に上がり込んだんですか? 警察呼びますよ?」
「いや、勝手にと言うか、鍵が開いていたぞ。泥棒にでも入られたら物騒だろう」
「先生の方が物騒です。取られて困るもん別にないんで、泥棒の方がまだマシです」
またしてもはっきり言い切る先輩には驚いてしまう。
いや、泥棒の方がマシとか霊より苦手とか、どんだけ黒渕先生のこと嫌ってんの?
「矢橋くーん、僕はただただ君のことが心配なんだよ。また色々書いてきたから、これ貼ってガッチガチに家の中ガードしておきなさい。あ、玄関前の塩、直して足しといたからね」
黒渕先生の言葉に、俺は玄関前に視線を落とした。ひっくり返って散らばっていた盛り塩は綺麗に元通りになって置かれていた。
「塩とか意味ないですから」
「今回は0.571グラム足しといたよ」
「なんですか、その微妙な数字」
呆れた視線を送る矢橋先輩に、黒渕先生はニヤリと笑う。
「霊、こ、な、い」
俺は先生の言葉に頭の中で数字を当てはめていく。
霊=0、こ=5、な=7、い=1。
え!? 当て字? ギャグ? 笑わせようとしてる? いや、黒渕先生の顔は笑ってはいるが真面目だ。先生本気なの? ふざけてるの? わかんないよ俺。
「ふざけてますよね?」
「気持ち的に来なそうでしょ」
「いや、ふざけてます。もういいですから。俺には千羽くんって頼れる後輩ができましたので。先生の訳わかんない紙切れとか掛け軸とか塩とか全部もう要りませんので」
「……え、もう、要らない……?」
黒渕先生は落ち込み、一瞬にして丸めた背中に影を纏う。
「ご心配ありがとうございました。千羽くん、朝ごはん食べよう」
「え! あ、はい!」
矢橋先輩が黒渕先生に頭を下げると、俺の方を見て中に入れと誘ってくれる。嬉しくて、俺はすぐに先輩の元へ戻ろうとするけど、黒渕先生に腕を掴まれた。
「何かあったらここに」
それだけ言うと、先生は悲しそうに俯いて行ってしまった。
手に握らせられたのは、紙切れ。
また、なにかよく分からない文字が書いてあるのかと思ってそっと開いてみれば、綺麗な字で【黒渕携帯 090-×××-○○○】と書かれていた。
……連絡先?
「まぁ、一応入れといたら? もしもの時はなにか役に立ってもらえるかもだし。厄介ごとは任せられるかもしれないし、大人だからね」
紙切れに視線を落としていると、矢橋先輩が笑いながらそう言ってくる。
黒渕先生をいいように使おうと言う計算がありそうに聞こえてくるが、一人暮らしの身には大人の存在はありがたい気もするから、素直にスマホに番号を入れておくことにした。



