矢橋先輩は、憑かれやすい。

 意識を取り戻した先輩に、俺は泣きながらことの経緯を話した。

「また無茶してんじゃん、千羽くんー」
「……ははは」
「でも、ほんと無事でよかった」

 まだ恐怖で震えていた俺を、先輩は強く抱きしめてくれた。先輩の大きな胸がすごく安心する。

「で? 霊ととんでもない約束をしたわけだね? 千羽くんは」

 呆れ顔の先輩の顔を、世界を明るく照らし始めた朝日がスッキリと爽やかに見せてくれる。
 とんでもない約束。はい、しました。

「先輩のことをもちろん助けたかったし、それに……」
「俺みたいに霊に同情でもした?」
「……そう、かもしれないです」

 俺の場合は、可哀想と言うよりも、なんで? って疑問。すぐそこに答えはあるのに、どうして気がつけないでいるのか。誰かが教えてあげれば済むんじゃないかと。

「あの霊は、たぶんあそこに供えられている花を持ってきている人に、自分のことを見つけてほしいんだと思うんです」
「ああ、あの花」

 俺の指さす先を、先輩も見て頷いている。

「え? あれを持ってきている人を探すってこと?」
「そうです」
「そんなの誰かなんて分かるわけないでしょ。ここに張り込むつもりかよ?」
「そのつもりです!」
「んなアホな。俺はとりあえず帰るぞ! 昨日風呂に入ろうとしたところに奴に襲われたんだ。風呂入ってないから気持ち悪くてこのままでなんて居られないからな。それに学校だってあるだろ」

 急に真面目になる先輩に、俺はスマホの画面を見せた。

「今日は土曜日です。学校は休みなので、捜索する時間は二日間あります。まだ午前四時なので、さすがにこんな早朝に花を持ってくる人もいないと思うし、とりあえず帰って朝ごはん食べてからまた来ましょう」
 無駄をなくして計画的にいきたい。それに、別々に見張る方が効率は良い気もするけど、出来ることなら先輩とは一分一秒たりとも離れていたくない。
 真剣な俺の瞳に全てを悟ってくれたのか、矢橋先輩は小さなため息を吐き出してから歩き出す。