明治あやかし恋綺譚 ~式神に愛された男装令嬢~

 「……また制服が小さくなったな……」

 私室で道蓮が制服の胸元を留めようとして、弾けそうになっているのをみたマキリ。
 マキリが道蓮の太腿を叩く。

 「どーれん、筋肉でムチムチだもんな! 腹筋も割れてるし! 太腿もムチムチだしな!」
 「五月蠅い!」

 怒る道蓮に、鬼壱はベッドに腰掛けたまま、自分の太腿と胸板を触りながら答える。

 「そうだよね……。道蓮君、訓練量が半端じゃないから、筋肉の上に脂肪がのって、すごいムチムチしてるよね……。ぼくも訓練してるのに、細いままだからなぁ……」

 そこで鬼壱が、隣りに座っていた燈次郎を振り返った。

 「お兄様! でもね、ぼくも訓練のお陰で腹筋が割れたんだ! ほら!」

 見せようとすると、燈次郎は顔を真っ赤にして目を逸らしながらブンブン頷いている。
 そして燈次郎の式神が彼の口を使って喋りだした。

 『フン! 筋肉自慢なぞ、脳筋のする事じゃ! 儂の燈次郎はムダに筋肉をつけずとも、うぬらより強いぞ!』

 その言葉にマキリが片腕をブンブン回す。

 「お? ショーブか! ショーブするか?」
 『小童が! 返り討ちにしてくれるわ!』

 燈次郎に憑いた式神が日月剣を持って立ち上がり、マキリは準備運動をする。
 それを見た鬼壱が止めに入った。

 「止めなよ、式神様もマキリ君も! お兄様が困ってるじゃないか!」

 こうして一旦は落ち着いた面々だったが、マキリは飛び跳ねて自慢する。

 「おれのとーちゃんも、胸板すげーぞ! 普通の服じゃ胸元留まらなくて、大きめの制服にしてるって、言ってたからな!」

 それを聞いた道蓮も頷いた。

 「……確かに将雪は凄かったな。子供の頃、マキリと将雪と風呂に入ったことがあるが、胴回りまでガッシリしていた。俺もあれだけ鍛えておきたい」

 道蓮の言葉に鬼壱は遠い目をする。

 「教官と一緒にお風呂とか、緊張しちゃいそうだね……って、お兄様、どうしたの? 顔が赤いけど、お熱でもあるの?」
 「お、お熱はないよ……ただ、想像しちゃって……」

 燈次郎は指をつつきあわせ、ごにょごにょと語る。
 その燈次郎の口から式神が吐き捨てるように告げた。

 『さっきから男の裸の話ばかりで破廉恥な! 儂の燈次郎が困っておるではないか! もっと知的な話は出来んのか! 痴的な話ばかりしおって!』

 「燈次郎も男だろ」と道蓮。
 式神はハッとしたように口元を押さえていた。

 『……ぐぬぬ。ぬかったわ。こんな小僧の策に嵌ろうとは……ッ!』

 特に何の策も仕掛けていない道蓮は不思議がっていた。
 そして制服をめくって傷だらけの胸板を晒す。

 「……やはり以前より大きくなっている。制服の再注文が必要だな……」

 そこでマキリが道蓮の太腿をバシバシ叩いた。

 「おい、どーれん! ズボンも要るぞ! パンパンに育ってるからな!」
 「やめろ! わかっていても、あえて言わなかったことを!」

 道蓮が顔を赤くしているのは新鮮だった。

 しかし道蓮が無理に胸元を閉じようとして、制服がミチミチ音をたてている。
 縫い目が、ほつれそうだった。

 燈次郎は、このままでは胸元から弾けかねないと思ったのか「もう止めたほうがいいよ! 色んな意味で限界だよ!」と自分の両目を隠している。
 すかさず鬼壱が立ち上がった。

 「お兄様が限界なら、ぼくも限界だよ! 道蓮君、止めなよ!」
 『小僧! そんなに見せたいのか! 破廉恥な奴じゃ!』
 「どーれん、止めろって皆言ってるぞ~(道蓮の太腿を叩きつつ)」
 「俺が悪いのか!?」

 道蓮は納得がいかないまま、制服の胸元を開いたまま過ごすのだった。