終点からはいつもよりかなり遅めの帰宅になった。
父はチラリと俺を見て、リビングで母親との会話を聞いているのかいないのか分からない。
「おかえり、遅かったわね。ご飯は?」
「夕飯は食べて来たからいいや」
「あらそう。そういえばお姉ちゃんから手紙来てたわよ」
「わざわざ手紙? この時代に?」
「お姉ちゃんらしいでしょ。ほら、そこにあるわよ」
以前、姉に瑛の話をしたことがある。
あれは数か月前に姉が帰国して俺に絡んで来たときだ。
親しい友人が出来たことを話すと、何とも言えないニヤニヤ顔で見てきたっけ。
でも、瑛となかなか連絡が取れないと言っていたので心配されていた。
自室のベットでエアメールを開封する。
中には綺麗な夕日のポストカードと一枚の手紙。
「姉ちゃんらしいや」
手紙にはどんな恋でも応援するという内容だけが書いてあった。
「告白の前から振られてるようなものだけどな」
でも、その言葉が俺の背中を押してくれた。
朝に送ったメールの既読はもちろんつかない。
もはやストーカーのような自分に苦笑いしながら、瑛のアイコンを眺めていた。
何度見返しても以前のメールではいつも通りの会話だった。
「今日は座席が揺れてたね」
「窓の外の雲、きれいだったよ」
このやり取りは誰も知らない。
秘密だからこそ、心が近づいているように感じていたけれど、それはきっと勘違いだったのかもしれない。
孤独だった俺の世界は、瑛が光を差してくれていた。
嫌われててもいい、とにかくもう一度瑛と話してみたい。
そして……気持ちを伝えたい。
◇◇◇◇
放課後、学校の前に着いた。
ここは青葉学園。
俺は瑛に何としても会いたい一心で勇気を出して青葉学園に来た。
こんな進学校の前に、違う制服、しかも普通の公立の男子が居たら目立つのは分かっていた。
それに、俺を避けているとしたら……もうこの方法しか思いつかなかった。
「あ、あの少し時間いいですか」
「え?」
大人しそうな二人組の女子生徒に声をかける。
「な、なんですか」
値踏みしているかのような視線に絶えながらも、蓮は勇気を出して尋ねてみる。
「さ、三年の橘瑛君についてなんですが」
その瞬間女生徒たちの息を飲む声が聞こえる。
「……」
「あの……瑛は?」
「知らないんですか?」
「え?」
「橘君は……行方不明です」
「ゆ、くえふめい?」
頭に衝撃を感じるが、そこからの言葉はもっと衝撃だった。
「半年前に自らいなくなって……」
「家族も、もう諦めてるって」
「そんな……何かの冗談」
「嘘じゃないです。調べたら出てきます!」
「もう行こっ」
「ちょっ……」
女性たちの声を呆然と聞いていた。
信じられない。
瑛が行方不明だって、そんなの信じられなかった。
俺はどうやってここにたどり着いたか分からないが、気付けば青葉学園の近くの喫茶店に入っていた。
震える手でスマホを持ち、青葉、行方不明と検索する。
― そこには俺の知っている瑛の姿があった。
「噓だ……だって、俺は瑛に会ってる」
あれからどうやって自宅にたどり着いたのか覚えていない。
ベッドに寝転がり何度もそのページに書かれていたことが頭の中を駆け巡る。
橘瑛という人物は自ら行方不明になった。ネットニュースでは瑛は大企業の社長令息の次男で、長男の様に期待されていたプレッシャーからの失踪と見られているようだ。もちろん足取りは分かっていない。
自宅からいなくなったのは半年前。
書き置きがあり「人生に疲れたので、しばらく家を出ます。探さないで」と自筆で書かれていたらしい。
家出ということで、家族も早々に捜索を諦めているとのことだった。
とにかく何か手がかりを探そうと思ったが、途方にくれていた。
情報提供者として警察に連絡をしたとしても果たして取り合ってくれるはずもないだろうし、作り話に感じるだろう。
それに、瑛はもうこの世にいないのかもしれない……俺が見たのは幽霊ってことになる。
それなら全ての辻褄が合う。
俺は絶望にさいなまれながら、目を瞑ると夜は簡単に更けていった。
