持久走の嘘代表「一緒にゴールしようぜ」と言ってきた男子が、そのまま私の人生全部の隣にいた話

 あの日以来、速水はやたらと私を見つけては話しかけてくるようになった。
 廊下でも、購買でも、たまに校門でも。
 最初は「なんなのコイツ」としか思ってなかったけど、気づけばその声を探してる自分がいた。

 意識している――と言われれば否定はできない。
 理由は……なんだろ、足が速いから?
 いや、足速くてカッコイイなんて思うのは小学生までって言いがちじゃん?
 でもさ、逆に考えると足速くてカッコ悪い瞬間なんてないからな。
 
 それに何より――気になる、と言われたからだろう。

「一緒にゴールしようぜ!!」

 昼休み――廊下から「高橋~」と大声を上げながら走ってきて、そのまま私の机の前で速水はそう言った。
 手に持っていた大学のパンフレットを見せながら、いつものようにニコニコで。

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「ゴール? ってなにこれ、私の志望校じゃん。なんで知ってるの?」
「担任に聞いた!」

 勝手に聞くなよ。
 担任も勝手に教えるなよ。
 別にいいけどさ。

「……ていうか、なに。なんでそれ持ってきたの」
「ん? 一緒に行こうと思って」

 あまりにも軽い。
 コンビニ行くくらいのノリで言うな。
 って、「一緒にゴールしようぜ」ってそういう意味かよ。

「そりゃ速水が目指すのは勝手だけど、ここ偏差値どんだけだと思ってんの」
「知らん! でも高橋行くんだろ?」
「いや私だって行けたらいいなってくらいなんだから。あんたの名前なんてテストの点数張り出しでも見たことないし、無理でしょ」
「じゃあ勉強する! 教えてくれよ!」

 ぐ……それが人にものを頼むときの態度か。
 私だって自分の勉強で手一杯なんですけど。

 けど、まぁいいかって思う自分もいて、なんか悔しい。
 それに、持久走で一緒に走ってくれた借りもあるし……いや、あれは借りなのだろうか? しかも受験勉強とは釣り合ってない気もするけど。

「……わかった。私が見てあげるわよ」
「え、マジ!? ラッキー!」
「ちゃんとやるならだからね!?」
「やるやる! 毎日やる! 高橋と一緒にゴールするし!」

 ……またそれ。

「……受験はマラソンじゃないんだけど」
「でもゴールはあるだろ?」

 ああもう。
 なんか、こういうところ。

「……はぁ。まぁいいけど、落ちても知らないからね」
「落ちねーよ。だって高橋いるし。お前と一緒に居たいし!」

 なんだ……?
 持久走の時もそうだったけど、天然で言ってやがるのか?

 そういうの、ほんとずるい。
 意味わかんない。

「……じゃあ今日からね。放課後、図書室で」
「おっけー!」

 なんで私は、こんな簡単に巻き込まれてるんだろ。

 でも――たぶん。
 あの日、あの持久走大会の日から、とっくに巻き込まれていたんだ。