ソメイヨシノは勝手に増えない



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「結婚する?」大学を卒業後、社会人になって数年経っても定期的に会っている友人の菜絵と休日ランチをしている最中、菜絵は恥ずかしそうにそう切り出した。
「うん彼氏からプロポーズ、された。婚約指輪は一緒に選びに行こうって言ってくれててまだ手元にないんだけど」頬をほんのりと紅潮させて、事の顛末を教えてくれる友人はお世辞抜きにキラキラ輝いて見えて綺麗だ。
「おめでとう」するっとお祝いの言葉が出てきてほっとした。友人相手に嫉妬するのは良くないことだと自然と自分を律して判断出来たのを我ながらに褒めたい。
「ありがとう。結婚式に泉も呼びたいから、また招待状送らせて」
「もちろんだよ。楽しみにしてる。菜絵はふわっとしたウェディングドレス、似合いそうだね」その私の言葉に菜絵は自分のドレス姿を想像したのか、更に顔を赤くしている。
 羨ましい。咄嗟に浮かんだその言葉を否定出来る程、私には余裕がなかった。昔から結婚願望は強かったように思える。綺麗なドレスを着てステンドグラスのある教会で結婚式を挙げ、平凡でも幸せな家庭を作る。子供は二人は欲しい。それが現実的にどんなに難しいことか、二十八歳にもなればちゃんと理解出来ている。伊達に第二次結婚ラッシュを経験していないのだ。
 受験も就職活動も、自分が努力をすればするだけ目に見える結果として返ってきた。勉強を頑張れば志望した高校や大学に合格出来たし、自己分析や業界研究に励めば希望した先へ就職することが出来た。一人で頑張ることが私は割と得意なのかもしれない。だけど、恋愛は一人では出来ない。ましてや結婚なんて夢のまた夢だ。相手がいて成立するものなのだから。私は過去に一人としか恋愛をしたことがなくて、それがコンプレックスだった。しかもそれは高校生の頃で短期間の話だから余計に。共学の高校と大学で出会いはあったはずだったし、見た目や体型にも気を遣っているつもりだ。だけど、何故か女子同士ではうまく会話が弾むのに男子、男性相手だと途端に何を話したら良いのか分からなくなってしまう傾向にあった。恋愛経験が豊富な菜絵を始め、友人達には「私達に話すように喋り始めたら良いんだよ」とけしかけられたりしたが、一向に改善されない。今だって同期の男の子相手にだって会話の糸口を見つけられずにいる。そうこうしているうちにどんどんと彼氏いない歴を更新し続けているという負のループから抜け出せないのだ。


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 菜絵から幸せな報告を受けた夜、家に帰ってから私は「恋愛 難しい」とか「恋愛 始めるには」といった単語を検索エンジンにかけていた。そしてヒットしたサイトを片っ端から眺めているのだが、最近ではマッチングアプリで出会って結婚するカップルが多い、という情報が沢山見受けられた。アプリ婚なんて言葉もあるらしい。
「マッチングアプリかぁ」ベッドにごろんと横になって考えてみるけれど、少し怖じ気づく気持ちが強い。
「うーん」枕に顔を押し付けてうなりながら、私は自分の好きな男性のタイプを掘り起こしてみることにした。見た目は清潔感のある人で、性格は穏やかな人。あまりに気性が荒かったりする人は苦手。浮気や派手なギャンブルとかももちろん嫌だ。意外と自分が思っているより私の理想は高いんじゃなかってことに気付いて落ち込んでいると、ふと気付いた。
 俗に言われている草食系男子が良いんだよなぁ。
 けど、草食系は出会いを求めてマッチングアプリ始めたりしないか、と一人で押し問答を続けながら「草食系 出会い」や「大人しい人 マッチングアプリ」といった単語を検索していく。
 すると、面白いサイトを見つけて思わずタップしてしまう。
 
 
 「人見知りの方限定マッチングアプリ」