少女は廻る星を憶う

目が覚めたのは、強いタバコの匂いのせいだった。

嗅覚が刺激された直後、聴覚が騒音に支配された。

「うるさ……どこここ? 誰!?」

「私の家です。昨日はお疲れさまでした。」

音は、私が普段聴かないジャンルの音楽だった。

こたつ机から身体を起こすと、目の前に私の趣味とは真逆の女が座っていた。

黒いバンTに、ウルフカット。紫のインナーカラーが光を吸い込んでいる。

Tシャツには、棘のようなロゴ。

「えっと……どこかでお会いしましたっけ?」
私は、まず最も無難な言葉を選んで口にした。

「ん、ああ、会ったことはないですけど……音、大きいですね。すみません。」
全部答えるから黙ってろ。そんな圧を感じた。

「私の名前は木場澪といいます。何か飲みますか?コーヒーか水しかないですけど。」 「あ、水……お願いします。」
眠気から覚めるうちに私のどもりは強くなっていく。

「腕、大丈夫ですか?」
そうだ。私の腕はあの異形に千切られた。咄嗟に袖をまくる。

「え……」
そこには、何事もなかったように“私の腕”があった。皮膚の継ぎ目も、傷跡もない。

夢だったのか…?それとも、これが夢の続きなのか。

「良かったです。昨日だけでも、あなたの力はかなり安定してきています。」

「にゅん~」
机の上には、ハムスターのような、けれどどこか人間的な目をした生き物がいた。

宙に浮かび、私の肩にふわりと乗る。その感触は、驚くほど柔らかく、私好みでフワフワしていて。

「……可愛い」
思わずつぶやき、その背を撫でた。指先に伝わるぬくもりが、心を落ち着かせた。

澪は、こちらを見ずに続けた。

「あ、そうですよね。説明が必要ですね」
一拍置いて、静かに口元をゆるめる。

「──とりあえず、あなたは“私”です」
ああ、夢か。

「あなたは幼少期、怪物に襲われたことがありますね」
澪の声は静かで、まるで記録を読み上げるようだった。

「あの世界では、あの時点で人類はすでに滅びています。あなた一人だけが、この世界に“移された”。この現実を維持するために」
一拍おいて、彼女は淡々と続けた。

「私とあなたの両親──名前も姿も異なりますが、魂の構造は同一です」
「すみません、よくわかりません」
澪の話し方に引っ張られて、私の声まで機械的になっていく。

「まぁ分かんなくても大丈夫です。あなたはあなたの役割を果たせばいい。また出現する怪物の処理にあたっていただけたら。」

「その、まだ出るんですか?」

「はい、この世界では昨日初めて出現したのですが、あなたが生まれた世界同様に今後また現れることが予想されます。彼らはあなたの世界からゲートをたどってこちらの世界へ来るんです。」

何を言っているのかさっぱり分からない。
「えっと、…」

何を質問すればいいのかも分からないままダウナーな彼女は話を続ける。

「怪物をほったらかしておくとゲートはより開かれやすくなり、いずれあなたの世界と同じ結末をたどります。こちらの物理法則とは異なるので現代兵器は通用しないんです。なのであなたが対処しなければなりません。」

「なんで怪物は襲ってくるんですか?」

「さあ。暇つぶしとか?そもそも意思があるのかもよくわかりませんが、世界は理不尽なものなんで、そんなもんです。」

「そう、ですね…」

私の人生はもう戻らないんだろうなと、なんとなく悟った。