少女は廻る星を憶う

「ねえ聞いてる?ホ別3出すからさ。ね。怖いことはしないからさ」

中年男性の声が、粘着質に耳元で囁いている。私はただ黙って俯いていた。

視線を合わせてはいけない。

二十二歳になった今でも、人と目を合わせることが怖い。

喋らなければ生きていけない世界に適応しただけで本質の私は何も変わっていなかった。

言葉を発することが、まるで鋭利な刃物で喉を切り裂かれるような恐怖を伴った。

小学生の頃、授業での読み聞かせの時間。

句点で区切られた交代制読書で、席順が自分に近づくたびに、心臓が激しい早鐘を打った。

胸の奥で暴れる鼓動が、教室中に響き渡ってしまうのではないかと恐れた。

自分の番は容赦なくやってくる。焦燥しながら席を立った時には、もうどこを読めばいいのか分からなかった。

前後の文脈が、パニックで真っ白になった頭の中で霧散していた。
私はずっと俯いていた。教卓から向けられる表情の奥に透けて見える失望が、胸に突き刺さった。周りの空気感─────
ああ、またか。いや、そんなことすら思われていない。

私という存在は、彼らにとってただの、ちょっとした休憩時間に過ぎない。

声を振り絞っても蚊の鳴くように小さくて、何度も読み直しを命じられる。

私の声は細くなる一方で、教室の後ろの方では友達同士が談笑し始めている。

誰も気にしてないのは理解している。私の苦痛など、彼らの日常にとってはノイズ以下の存在価値しかない。

今すぐここから消えてなくなりたい。蒸発したい。存在そのものを無に帰したい。

そう切望しながら、それでも声を振り絞らなければ、私の番は永遠に終わらない。この苦痛は継続し、教室という密室での公開処刑は続いている。

「友達……待ってるだけなので……」
私の声は掠れて、ほとんど空気に消えてしまった。

男性は私の言葉を無視するように、さらに距離を詰めてくる。彼の息が肌に触れそうで、吐き気が込み上げた。

パパ活─────そう呼ばれる行為を始めたのは、自分が“社会の中で生きられない”という現実に気づいた後だった。

続けることが、どうしてもできなかった。何を始めても、途中で呼吸が止まるように、すべてが止まってしまう。

私は、私を大切に扱う方法を知らない。だから、生きているという感覚を保つために、他人の欲望の中で呼吸している。

誰かに抱かれるたび、体の感覚が曖昧になっていく気がした。

「ん~じゃ連絡先だけでも交換しようよ!困ったらおじさんが助けるからさ!」

優しさを模倣した声が、街のざわめきに飲み込まれていく。私の中の何かが、静かに凍って音もなく消えていった。