少女は廻る星を憶う

街は赤く脈打っていた。

空を覆う巨大な影。

魔獣が膨れ上がり、周囲のビルが軋み、瓦礫が崩れ落ちる。

悲鳴がいくつも重なって、夜の街がひび割れていく。

愛美の優しい面影がまだ少し残っている気がした。

落下の勢いのまま、魔獣の頭部めがけて蹴りを放つ。

「あいつ……!」
遠くで、澪の驚いた声が弾けた。

殴られ、蹴り飛ばされ、何度も地面に叩きつけられる。

痛みで息が詰まるたびに、なぜか別のことを考えていた。

今日もたぶん、特に予定はなかった。

でも、愛美がまたどこかに誘ってくれるのだろうと思っていた。

互いにうまく生きられない者同士で、二人でなら少しはましにやっていけるのかもしれない、と、ぼんやり考えていた。

──そっか。

私は、孤独じゃなかった。

あの子は私なら誰でもよかったわけじゃない。

私も同じだった。

それに気づいたのは、失ってからだった。

遅すぎた。

熱しやすく冷めやすい私でも、愛美への気持ちだけは消えなかった。

何をしても続かなかった私でも、彼女との時間だけは本物だったんだ。

意識が遠のくと、そばから優しくて、懐かしい声がした。
「よく頑張ったね」

優しい声に、私は小さく応えた。
「……言葉、話せたの?」

痛みに霞む視界の中で問い返すと、ニュンニュンはふわりと私の前に浮かんだ。

「最後の力を使ってるからね。これまで私の力でゲートが開かないよう抑えていたの。だから、こんな姿で、言葉も奪われてたの。」

ニュンニュンの身体が、淡い光に包まれていく。

目の前に、あの頃憧れた姿があった。
「これからハルちゃんに、その力を全部渡す。その代わり、抑えていたゲートは開いて愛美ちゃんももっと強くなる。」

あの日、私を助けてくれた魔法少女。まぶしさそのものみたいな、あの人。
「でも、ハルちゃんなら大丈夫だって信じてるよ!」

「あなたは……」
声は涙に溶けた。

「言ったでしょ。いつでも見守ってるって」
光と影が衝突する。

私の身体が裂けるように熱くなり、力があふれた。

杖が輝き、最後の一撃を放つ。


私は、流れ込んできた彼女の記憶をたどって詠唱を始めた。

言葉を発することがずっと怖かった。

喉の奥で石みたいに固まって、どうしても外へ出せなかった。

そんな私が、いま、ためらいなく声を放っている。

──光が、終わりを裂いた。

闇と入れ替わるように、朝日が昇った。