放課後、いつもの場所で〜クラスの人気者と、なぜか放課後だけ一緒にいます

「宮宇地、ノート」
「あ、篠崎くん。お疲れ様」

 三学期になって一週間が経った。僕と陸の関係は、教室の中だけ今までと変わらない。
 お互い苗字で呼び合って、会話も必要最低限。でも陸の声音が優しくなった。僕にしかわからないだろうけど。

 三学期の教室はどこか消化試合のような、ゆるい雰囲気が漂っている。
 厳しいのは廊下の寒さと一ヶ月以上先に控えている学年末テストくらいで、学校生活は何もない日々の連続だ。

「篠崎ー、帰りゲーセン寄ろ!」
「あー、そうだな。今日は……」

 陸がさりげなく僕に視線を送る。僕は軽く頷いて、彼の様子を見守る。

「行く」
「りっくん行くの? 私も行く! プリ撮ろ!」
「一回だけな」

 りっくん、か。何回も聞いた彼のあだ名が耳に残る。
 考え込んでいたらいつのまにか参加人数が増えていて、最終的に七人でゲームセンターに行くことになっていた。

 今日は歯医者の予約があるから別々に帰る予定だった。だから不満はない。
 そのはずなのに、どうして胸にもやもやが残るのだろう。
 僕は正体不明の感情を抱えながら、楽しそうに騒ぐ集団を横目に教室を出た。



 一月の終わり。僕と陸はいつものファミレスにいた。

「次のデートどこ行く?」

 話を切り出したのは陸だった。直球すぎる質問に、返事をするのが遅れた。

「……あ、ごめん。僕は陸が行きたいところならどこでもいいよ」
「俺も同じなんだよなぁ」

 デートという響きだけで頬が熱くなる。早く土曜日がきたらいいのに。場所も決まってないのにそんなことを思ってしまう。

 映画館はデートとしては最高だったけど、ある意味失敗だった。
 帰った後テレビ通話で映画の感想を語った時、あまりにも話が噛み合ってなかったからだ。
 僕は主人公が絶体絶命のピンチを乗り越えて敵陣に乗り込むところが熱かったと力説したのに、陸は覚えていなかった。それより中盤で相棒が誘拐されたところにハラハラしたらしい。僕はそこで初めて、相棒が終盤まで登場しなかった理由を知った。

「陸は身体動かすの好きだよね」
「まあな」
「最近興味あることって?」
「ボルダリング」
「ハードル高すぎるよ」

 悲しいことに、僕たちは共通の趣味がない。僕がもう少し運動神経がよかったらなぁ。ちょうどいいところがあればいいんだけど。

「また相談して決めようぜ。時間はまだあるし」

 陸と一緒ならどこでも楽しいよ。それを言うのはなんだか気恥ずかしくて、僕は「そうだね」と答えた。


 本当に、何気なく思いついただけだった。僕は抹茶オレを一口飲んで陸に聞いてみた。

「陸って甘いものそんなに食べないよね?」
「そうだな。好きでも嫌いでもない」

 陸が甘いものを注文するのは僕とシェアする時くらいで、積極的に頼むところを見たことがない。嫌いでもないけど、肉や揚げ物がもっと好きという感じなのだろう。

「じゃあバレンタインはチョコ以外がいいかな」
「……え」

 陸が固まった。まるでアニメの動きみたいに、ピタッと動きを止めている。

「陸? 大丈夫?」
「今のなし」
「ん?」
「嘘。今の全部嘘。甘いの普通に好き。ていうかチョコが好き。かなり今きてる」

 近い。テーブルに身を乗り出した陸は、僕の目を覗き込むように凝視してる。

「あ、そうなんだ。じゃあチョコにするね」
「……危なかった」

 陸が脱力した様子でソファに座り、メロンソーダを一気に飲み干した。そして「おかわりしてくる」と言って席を立った。

 僕はその後ろ姿を見ながら、想像してしまった。
 バレンタイン当日に、女子に囲まれてチョコを受け取る陸を。義理チョコも本命も等しく人当たりのいい笑顔で受け取る恋人を。
 僕はそれを遠目で眺めることしかできない。自分から言い出したことで、陸は僕を守ってくれているだけなのに、その優しさに僕は勝手に傷ついている。

 こんなの、よくない。悩むだけ無駄だ。脳内の不安を振り払うように、幸せなことを考える。
 僕は二回目のデートの候補を探すため、かばんからスマホを取り出した。