最近、変だ。
クラスメイトと話していても上の空だったり、勉強中ちょっとしたことで手が止まったり。
原因はわかっている。わかっているのに対策できないから困ってる。
とりあえず深呼吸して落ち着きたいのにそれもできない。異変の原因である彼が真正面に座っているからだ。
「宮宇地、何頼む?」
「ドリア」
「それだけ?」
「うん」
今日は篠崎くんのご両親の帰りが遅くなるということで、いつものファミレスで夕ご飯も食べる流れになった。
「宮宇地は昼飯菓子パン一個だったよな?」
「よく見てるね」
「なんで足りるの?」
「なんでって言われても……足りるからとしか」
「そうだよな。わるい、忘れてくれ」
篠崎くんが苦笑いしてる。今の会話よくなかったかも。もうちょっと話を広げるべきだったかな。
「篠崎くんは何頼んだの?」
「ミックスグリルライス大盛り」
「昼もたくさん食べてたのによく食べるね」
「普通じゃね? てか宮宇地も俺のこと見てるのな」
「そっ、それはたまたま目に入ったからで、ずっと見ていたわけでは」
「焦りすぎ。いいよ。ずっと見てて」
優しい笑みを浮かべる彼が直視できないくらい眩しい。
そんなに見られて気持ち悪くないのかな。彼くらい社交性があったら、人から見られることに慣れてるのかもしれない。
大勢から注目を浴びている篠崎くんを想像して、なぜか試したくなった。
凝視するのは恥ずかしいから、ちらちらと何度か視線を移す。
「ごめん。そんな見られたら緊張するかも」
「ごめんなさい! あの、たっ他意はなくて」
「違う。その……照れるってこと」
目を逸らした篠崎くんはわずかに頬が赤くなっている気がした。僕も彼と似たような顔色のはずで、見られてなくてよかったと思った。
頼んでいた料理が運ばれてきた。同じタイミングで助かった。どちらかが遅れてたら目の置き場に困ってたはずだ。
「宮宇地ちょっと待って」
「どうしたの?」
篠崎くんがミックスグリルのハンバーグを一口分切り分け、フォークに刺した。
「宮宇地はもっと食べたほうがいいと思う。無理はしない範囲で」
「そうかな?」
「一口やる」
差し出されたハンバーグは、間近で見ると一口分にしては大きめだった。
真正面に座る彼が期待に満ちた目でこちらを見つめている。見守られながら大きく口を開けることに抵抗がある。けど、拒否したいわけではない。
時間稼ぎでハンバーグに息を吹きかけていたら、篠崎くんから「猫舌だっけ?」と指摘された。もちろん僕は猫舌じゃない。
「い、いただきます」
やっぱり彼の顔をまともに見られない。視線を下に下げながらハンバーグを口に入れる。
口いっぱいに広がるミンチ肉と濃厚なソースの香り。
「口小っちゃ」
彼が微笑んだ。僕の気のせいだと思うけど、今まで見たなかで一番柔らかい顔だった。
心拍数が一気に上がって、呼吸の仕方を忘れた。味はよくわからなかった。
やっとの思いで咀嚼してハンバーグを飲み込む。お礼だ。一口くれたお礼を言わないと。
「なんかもう、今日はいいかも」
「ハンバーグ一口で!?」
そこから篠崎くんに体調不良を心配されたり、励まされたりしながらドリアを半分食べた。
残った分は篠崎くんが食べてくれて、すごい胃袋だなと思った。
心臓の音だけが、さっきからずっと速いまま戻らない。
篠崎くんはいつも通りなのに。
——やっぱり、変だ。
