いつも通りのメッセージに一言添えるだけ。それなのに、どうしても送信ボタンを押す勇気が出なかった。
今日は話聞いてくれてありがとう! 明日もいつものところで!
自分の部屋のベッドで、スマホの画面を見つめ続ける。
公園で励ましてくれた礼を言うだけ、それだけなのに。
何やってんだろ、俺。こんなことを考えてる暇があったら、さっさと送ればいい。いつもそうだ。宮宇地のことになると、こうなってしまう。
「宮宇地、遥」
登録名を読み上げたら思考が昔に飛んだ。四月、初めて宮宇地を認識した瞬間。
暗いやつなのに、やけに姿勢がいいなと思った。
そんな些細なきっかけで、いつのまにか目が離せなくなっていた。
入学式から一週間経った日。宮宇地はいつのまにか教室にいた。
グループが固まってきた教室内で、気配を消して机に座っていて、最初幽霊かと思った。
その正体が入学式からずっと休んでいた宮宇地だとわかっても、姿勢の良さ以外特に何も感じなかった。
宮宇地不良説を唱えていた一部のやつらは露骨にがっかりして、それ以降話題に上がることはなかった。宮宇地は一年四組の中で、それくらいの存在感だった。
宮宇地を観察するようになったきっかけは、購買で売り切れてたメロンパンを宮宇地が持ってたからだ。
別にメロンパンが食べたいわけじゃなかった。売り切れてたから気になっただけ。
宮宇地は両手でメロンパンを持って小さく齧り付いていた。無駄に丁寧な食べ方に、思わず「女子か」と口に出してしまって、松下に変な顔をされた。
面白くなさそうな無表情が、少しだけ緩んだ。あまりにもイメージと合わないものだから、そういう顔をするんだと思った。
その日、部活終わりにコンビニでメロンパンを買った。望月から「珍しいな。菓子パン好きだっけ?」と聞かれても、何も答えられなかった。
次の日はチョココロネ、その次の日はたぶんクリームパン、そのまた次の日はあんぱん、金曜日は揚げパン。
なぜ俺は、宮宇地が食べたものを逐一覚えているのだろう。
理由はわからないが、わかったこともある。宮宇地は甘党だ。あと少食だ。
パン一個で足りるってどういう胃袋だ。小さすぎだろ。普通惣菜パンとかも買うだろ。なんで毎日菓子パンなんだ。
直接聞きたい気持ちになったが、さすがにやめた。
ただのクラスメイトから観察されてたら怖いだろうし、それで宮宇地が教室以外で食べるようになったらあの顔が見れなくなるからだ。
土曜日になってもパンを食べた瞬間の宮宇地の顔が頭から離れなかった。
宮宇地がなぜそれで足りるのか気になって、昼飯に菓子パンを一個だけ食べてみたら普通に持たなくて、自分でも意味わかんねえなと思った。
宮宇地の昼飯観察はゴールデンウィークが終わっても続いていた。
今日はチョココロネ。そして飲み物はブラックコーヒーだった。珍しい。いつもペットボトルのお茶かジュースを飲んでいたのに。
宮宇地は浮かない顔でコーヒー缶を持っていた。それからため息をついたような動きをして、缶を開けた。宮宇地が缶に口を付け、喉がわずかに動く。それからすぐに缶を口から離し、顔をしかめていた。
苦いの、苦手なんだろうな。
間違えて買ってしまったのだろうか。不味そうにブラックコーヒーを飲む宮宇地を見ていると、笑いが込み上げそうになった。
「ちょっとトイレ。長くなる」
「報告いらんわ。いってらっしゃーい」
グループのやつらに見送られ、教室を出る。人気のないトイレで俺は声を押しころして笑った。
宮宇地のあの顔、本気で苦そうだった。あんなわかりやすく素直な反応するやつ、高校に入ってから初めて見た。
それから俺の中で宮宇地の観察が日課になった。
一学期の終わり、俺はダンス部を辞めるか続けるか迷っていた。望月のことを考えると身体の芯が冷えたような感覚になって、何も考えられなかった。
終業式まで無難にやり過ごした。誰も俺が悩んでいるとは思いもしなかっただろう。
表情を作るなんて簡単だ。みんな当たり前にやってることで、辛いとかいちいち言う気になれなかった。
俺は松下や森川の誘いを断って教室にいた。クーラーが切れた時間になっても動く気になれなくて、窓を開けた。
「あの」
か細い声だった。振り返ると宮宇地がいた。
「いたのか」
「ずっといたけど」
宮宇地に気づかなかったなんて不覚だ。いや、何言ってんだ俺は。
さらさらした黒髪、骨が浮いてるくらい細い手首、わずかに開いたままほとんど動かない唇。日焼けをしたことがなさそうな青白い肌。
間近で見た宮宇地は、思っていたよりずっと存在感があった。
「ごめん、気づかなくて。何か用か?」
「大丈夫? 元気がなかったから気になって」
その時、窓から強い風が吹き込んだ。宮宇地の重い前髪が、風でばさっと上がって、はっきりと目が見えた。
深く澄んだ目が綺麗だった。
「何でそう思ったの?」
自分でも面倒くさい返しだと思った。でも聞かずにはいられなかった。
宮宇地は口元に手を当てて考え込んでから話し出した。
「いつもより表情が固かったから。あと声も上擦ってた。それとたまに視線が定まってなかった」
「……は?」
「あ、今のちょっと気持ち悪かったかな。ごめんね、忘れて」
宮宇地が逃げるように去っていった。止める間もなかった。
しばらく呆然と立ち尽くしていた。あの宮宇地が、俺を見てた。何事にも関心がなさそうな顔で、誰よりも俺の変化を察知していた。
「……見てたの、俺だけじゃなかった」
宙に浮いたような気持ちだった。それから顔が熱くなって、太陽の光が眩しかった。
誰もいない教室で、俺は大声で笑った。息が苦しくなっても止まらなかった。
頭がぼーっとしてきて、そこでやっと息を整えた。
一度深呼吸をしたら驚くほどあっさり答えが決まった。他のことなんてどうでもよくなった。
俺は退部届を提出するため職員室に向かった。足取りは軽く、走りたいくらいだった。
退部後、宮宇地に礼を言おうと思ってスマホを取り出して、そこでやっと宮宇地の連絡先を知らないことに気づいた。
一応クラスのやつらに聞いたが、誰も知らなかった。そのことに安堵して、そして焦った。
あまりにも宮宇地と接触がないから、どこかに写ってないかと思ってカメラロールを一年の四月から遡った。時々写真の隅に宮宇地がいて、そこだけ切り取って保存して、自分でもどうかしてると思った。人生で一番長い夏休みだった。
夏休み明けの放課後。俺は行動に移すことにした。教室に誰もいなくなったタイミングで、宮宇地の席の前に立つ。
「俺と付き合ってよ。前から宮宇地のことずっと気になってた」
友達になろうと言うつもりだった。それなのに、出てきた言葉は奥底にしまっていた本音で。
「前からって、僕たちあんまり話したことないような……」
「宮宇地にとってはそうかもしれないけど、俺は一学期のこと忘れてない。で、返事は?」
失敗した。対して話したことがないやつから告白なんて、こんなのドン引きされて終わりだ。
それでも出てきた言葉は取り消せない。なら徹底的に粘ってみようと思った。
「どこに?」
宮宇地はそもそも告白とも思ってなかった。振られるよりきついかもしれない。
俺のことは同じクラスのやつとしか思ってないのだろう。宮宇地にとって俺は、ちょっと目立つ背景くらいの立ち位置なんだ。胃の辺りが重くなり、ふらつきそうになる。
まだ振られていないのなら可能性は残ってる。宮宇地と仲良くなる方法を必死で探す。
「どこでも……っていうか、場所じゃなくてさ。宮宇地と一緒がいいって話。放課後だけでもいいから」
宮宇地が「とりあえず隣に座る?」と聞いてきて、俺はそれに従った。それから話をして、即興で作った本題に入った。
「放課後の過ごし方教えて。今まで部活してたから暇すぎて死にそう」
宮宇地は最初微妙な反応だった。他にも相手がいるだろと言われたが、宮宇地じゃないと意味がない。
「僕でよければ、その」
宮宇地と繋がるための糸を手に入れた。絶対に、他の誰にも譲らない。
学校という空間はどんなに隠れていても人の目がある。今も何人か廊下を通っていった。
学校のやつらの目が届かないところに今すぐ連れ出したい。それからじっくりと俺のことを知ってもらいたい。
どこに行くか聞いたら、宮宇地は暑いのが嫌だから下校時間まで校舎にいると答えた。
居ても立っても居られなくなった俺は、宮宇地の手を引いて教室を飛び出した。
「えっ! 行くってどこに?」
「どこでも!」
場所なんて、後から決めればいい。宮宇地とならどこでも楽しいから。
冷たかった宮宇地の手が、俺の体温で温くなる。まだまだ熱くなれる予感がして、それだけでどうしようもなく嬉しかった。
手の中のスマホが震え、意識がそっちに戻る。通知には今まさに思い浮かべていた名前があった。慌てて内容を確認する。
明日もいつものファミレスでいい? 今日は僕から送ってみたよ。こういうの、緊張するね。
機械的な文字から温度を感じる。宮宇地はなぜ、俺が欲しい言葉を衒いもなく送ってくれるのだろう。
今日は話聞いてくれてありがとう! 明日もいつものところで!
三十分前に打った文章を送る。送信ボタンをタップする指は微かに震えていた。
宮宇地と仲良くなりたい。誰よりも宮宇地の近くにいたい。それだけだったのに、欲が出そうになる。
もし宮宇地が終業式の日のことを覚えていたら、俺は——
勇気が出ないだけのくせに、そんな想像をしてしまう。
了解。明日もよろしくね。おやすみなさい。
心拍数が一気に上がる。淡々とした返しに甘さを覚えるなんて、どうかしてる。
俺は何とか「おやすみ」とだけ返し、ホーム画面に戻った。画面を見つめていたら、いつのまにか日付が変わりそうな時間になっていた。
喉が渇いた。しばらく眠れそうにない。俺は冷蔵庫に移動するため、スマホを手に持ったまま立ち上がった。
今日は話聞いてくれてありがとう! 明日もいつものところで!
自分の部屋のベッドで、スマホの画面を見つめ続ける。
公園で励ましてくれた礼を言うだけ、それだけなのに。
何やってんだろ、俺。こんなことを考えてる暇があったら、さっさと送ればいい。いつもそうだ。宮宇地のことになると、こうなってしまう。
「宮宇地、遥」
登録名を読み上げたら思考が昔に飛んだ。四月、初めて宮宇地を認識した瞬間。
暗いやつなのに、やけに姿勢がいいなと思った。
そんな些細なきっかけで、いつのまにか目が離せなくなっていた。
入学式から一週間経った日。宮宇地はいつのまにか教室にいた。
グループが固まってきた教室内で、気配を消して机に座っていて、最初幽霊かと思った。
その正体が入学式からずっと休んでいた宮宇地だとわかっても、姿勢の良さ以外特に何も感じなかった。
宮宇地不良説を唱えていた一部のやつらは露骨にがっかりして、それ以降話題に上がることはなかった。宮宇地は一年四組の中で、それくらいの存在感だった。
宮宇地を観察するようになったきっかけは、購買で売り切れてたメロンパンを宮宇地が持ってたからだ。
別にメロンパンが食べたいわけじゃなかった。売り切れてたから気になっただけ。
宮宇地は両手でメロンパンを持って小さく齧り付いていた。無駄に丁寧な食べ方に、思わず「女子か」と口に出してしまって、松下に変な顔をされた。
面白くなさそうな無表情が、少しだけ緩んだ。あまりにもイメージと合わないものだから、そういう顔をするんだと思った。
その日、部活終わりにコンビニでメロンパンを買った。望月から「珍しいな。菓子パン好きだっけ?」と聞かれても、何も答えられなかった。
次の日はチョココロネ、その次の日はたぶんクリームパン、そのまた次の日はあんぱん、金曜日は揚げパン。
なぜ俺は、宮宇地が食べたものを逐一覚えているのだろう。
理由はわからないが、わかったこともある。宮宇地は甘党だ。あと少食だ。
パン一個で足りるってどういう胃袋だ。小さすぎだろ。普通惣菜パンとかも買うだろ。なんで毎日菓子パンなんだ。
直接聞きたい気持ちになったが、さすがにやめた。
ただのクラスメイトから観察されてたら怖いだろうし、それで宮宇地が教室以外で食べるようになったらあの顔が見れなくなるからだ。
土曜日になってもパンを食べた瞬間の宮宇地の顔が頭から離れなかった。
宮宇地がなぜそれで足りるのか気になって、昼飯に菓子パンを一個だけ食べてみたら普通に持たなくて、自分でも意味わかんねえなと思った。
宮宇地の昼飯観察はゴールデンウィークが終わっても続いていた。
今日はチョココロネ。そして飲み物はブラックコーヒーだった。珍しい。いつもペットボトルのお茶かジュースを飲んでいたのに。
宮宇地は浮かない顔でコーヒー缶を持っていた。それからため息をついたような動きをして、缶を開けた。宮宇地が缶に口を付け、喉がわずかに動く。それからすぐに缶を口から離し、顔をしかめていた。
苦いの、苦手なんだろうな。
間違えて買ってしまったのだろうか。不味そうにブラックコーヒーを飲む宮宇地を見ていると、笑いが込み上げそうになった。
「ちょっとトイレ。長くなる」
「報告いらんわ。いってらっしゃーい」
グループのやつらに見送られ、教室を出る。人気のないトイレで俺は声を押しころして笑った。
宮宇地のあの顔、本気で苦そうだった。あんなわかりやすく素直な反応するやつ、高校に入ってから初めて見た。
それから俺の中で宮宇地の観察が日課になった。
一学期の終わり、俺はダンス部を辞めるか続けるか迷っていた。望月のことを考えると身体の芯が冷えたような感覚になって、何も考えられなかった。
終業式まで無難にやり過ごした。誰も俺が悩んでいるとは思いもしなかっただろう。
表情を作るなんて簡単だ。みんな当たり前にやってることで、辛いとかいちいち言う気になれなかった。
俺は松下や森川の誘いを断って教室にいた。クーラーが切れた時間になっても動く気になれなくて、窓を開けた。
「あの」
か細い声だった。振り返ると宮宇地がいた。
「いたのか」
「ずっといたけど」
宮宇地に気づかなかったなんて不覚だ。いや、何言ってんだ俺は。
さらさらした黒髪、骨が浮いてるくらい細い手首、わずかに開いたままほとんど動かない唇。日焼けをしたことがなさそうな青白い肌。
間近で見た宮宇地は、思っていたよりずっと存在感があった。
「ごめん、気づかなくて。何か用か?」
「大丈夫? 元気がなかったから気になって」
その時、窓から強い風が吹き込んだ。宮宇地の重い前髪が、風でばさっと上がって、はっきりと目が見えた。
深く澄んだ目が綺麗だった。
「何でそう思ったの?」
自分でも面倒くさい返しだと思った。でも聞かずにはいられなかった。
宮宇地は口元に手を当てて考え込んでから話し出した。
「いつもより表情が固かったから。あと声も上擦ってた。それとたまに視線が定まってなかった」
「……は?」
「あ、今のちょっと気持ち悪かったかな。ごめんね、忘れて」
宮宇地が逃げるように去っていった。止める間もなかった。
しばらく呆然と立ち尽くしていた。あの宮宇地が、俺を見てた。何事にも関心がなさそうな顔で、誰よりも俺の変化を察知していた。
「……見てたの、俺だけじゃなかった」
宙に浮いたような気持ちだった。それから顔が熱くなって、太陽の光が眩しかった。
誰もいない教室で、俺は大声で笑った。息が苦しくなっても止まらなかった。
頭がぼーっとしてきて、そこでやっと息を整えた。
一度深呼吸をしたら驚くほどあっさり答えが決まった。他のことなんてどうでもよくなった。
俺は退部届を提出するため職員室に向かった。足取りは軽く、走りたいくらいだった。
退部後、宮宇地に礼を言おうと思ってスマホを取り出して、そこでやっと宮宇地の連絡先を知らないことに気づいた。
一応クラスのやつらに聞いたが、誰も知らなかった。そのことに安堵して、そして焦った。
あまりにも宮宇地と接触がないから、どこかに写ってないかと思ってカメラロールを一年の四月から遡った。時々写真の隅に宮宇地がいて、そこだけ切り取って保存して、自分でもどうかしてると思った。人生で一番長い夏休みだった。
夏休み明けの放課後。俺は行動に移すことにした。教室に誰もいなくなったタイミングで、宮宇地の席の前に立つ。
「俺と付き合ってよ。前から宮宇地のことずっと気になってた」
友達になろうと言うつもりだった。それなのに、出てきた言葉は奥底にしまっていた本音で。
「前からって、僕たちあんまり話したことないような……」
「宮宇地にとってはそうかもしれないけど、俺は一学期のこと忘れてない。で、返事は?」
失敗した。対して話したことがないやつから告白なんて、こんなのドン引きされて終わりだ。
それでも出てきた言葉は取り消せない。なら徹底的に粘ってみようと思った。
「どこに?」
宮宇地はそもそも告白とも思ってなかった。振られるよりきついかもしれない。
俺のことは同じクラスのやつとしか思ってないのだろう。宮宇地にとって俺は、ちょっと目立つ背景くらいの立ち位置なんだ。胃の辺りが重くなり、ふらつきそうになる。
まだ振られていないのなら可能性は残ってる。宮宇地と仲良くなる方法を必死で探す。
「どこでも……っていうか、場所じゃなくてさ。宮宇地と一緒がいいって話。放課後だけでもいいから」
宮宇地が「とりあえず隣に座る?」と聞いてきて、俺はそれに従った。それから話をして、即興で作った本題に入った。
「放課後の過ごし方教えて。今まで部活してたから暇すぎて死にそう」
宮宇地は最初微妙な反応だった。他にも相手がいるだろと言われたが、宮宇地じゃないと意味がない。
「僕でよければ、その」
宮宇地と繋がるための糸を手に入れた。絶対に、他の誰にも譲らない。
学校という空間はどんなに隠れていても人の目がある。今も何人か廊下を通っていった。
学校のやつらの目が届かないところに今すぐ連れ出したい。それからじっくりと俺のことを知ってもらいたい。
どこに行くか聞いたら、宮宇地は暑いのが嫌だから下校時間まで校舎にいると答えた。
居ても立っても居られなくなった俺は、宮宇地の手を引いて教室を飛び出した。
「えっ! 行くってどこに?」
「どこでも!」
場所なんて、後から決めればいい。宮宇地とならどこでも楽しいから。
冷たかった宮宇地の手が、俺の体温で温くなる。まだまだ熱くなれる予感がして、それだけでどうしようもなく嬉しかった。
手の中のスマホが震え、意識がそっちに戻る。通知には今まさに思い浮かべていた名前があった。慌てて内容を確認する。
明日もいつものファミレスでいい? 今日は僕から送ってみたよ。こういうの、緊張するね。
機械的な文字から温度を感じる。宮宇地はなぜ、俺が欲しい言葉を衒いもなく送ってくれるのだろう。
今日は話聞いてくれてありがとう! 明日もいつものところで!
三十分前に打った文章を送る。送信ボタンをタップする指は微かに震えていた。
宮宇地と仲良くなりたい。誰よりも宮宇地の近くにいたい。それだけだったのに、欲が出そうになる。
もし宮宇地が終業式の日のことを覚えていたら、俺は——
勇気が出ないだけのくせに、そんな想像をしてしまう。
了解。明日もよろしくね。おやすみなさい。
心拍数が一気に上がる。淡々とした返しに甘さを覚えるなんて、どうかしてる。
俺は何とか「おやすみ」とだけ返し、ホーム画面に戻った。画面を見つめていたら、いつのまにか日付が変わりそうな時間になっていた。
喉が渇いた。しばらく眠れそうにない。俺は冷蔵庫に移動するため、スマホを手に持ったまま立ち上がった。
