「打ち上げだー!」
「焼くぞー!」
「お前らうるさい。邪魔になるからもっと端寄っとけ」
文化祭も終わり、僕たちのクラスは打ち上げで焼肉に行くことになった。松下くんと梅原くんがはしゃぎ、篠崎くんが注意する。それを見て女子たちが笑う、定番の流れだ。
五人一組でテーブルにつくことになり、僕は佐藤くんのグループにお邪魔することになった。
「宮宇地くん、何がいい?」
「エリンギ」
「……え? あ、ごめん。肉がくると思ってたから。エリンギ好きなの?」
「うん、好き」
「へー。じゃあ肉はこっちで適当に頼んどくね」
佐藤くんがタブレットにエリンギを打ち込んで注文してくれた。注文が一人前なのを見て、選択を間違えたことを察した。
特に席替えもないまま、焼肉は終わった。意外とかぼちゃを焼くのが難しかった。同じテーブルの人達がやたらと肉を勧めてくるのが楽しかった。
「お疲れー」
「明日遅れるなよー」
焼肉で帰る組と二次会に行く組に分かれる。僕は前に篠崎くんと約束したので、二次会に参加する組だ。
「宮宇地くんもカラオケ来るんだ」
「うん」
「楽しもうね」
田山さんが話しかけてくれた。彼女は僕に笑顔を見せると、自分のグループに戻っていった。
一人で集団の後ろをついていく。なるほど。二次会に参加するのはクラスの中でも明るいポジションの人たちばかりのようだ。
また失敗したみたいだ。でもなぁ、約束は約束だし。
「宮宇地」
篠崎くんがなぜか話しかけてきた。予想外の展開に返事が遅れる。
「あ、ごめん。どうしたの?」
「一人で歩いてたから」
「僕はありがたいけど、いいの?」
「別にいいだろ。それに今は学校の中じゃないし」
「……ありがとう」
屁理屈だなぁって笑う気になれなくて、僕は篠崎くんの隣を歩いた。
結局、僕たちの組み合わせを面白がった梅原くんが割って入って、並びがうやむやになったままカラオケに到着した。
カラオケ店の一番広い部屋に二十人近いクラスメイトが詰め込まれた。
ミラーボールの回る落ち着かない空間で、僕は部屋の隅、スピーカーの真下に滑り込んだ。
「これ、誰か歌うー?」
「あ、それ私入れる! りっくん、一緒に歌おう!」
「いいけど。原キーエグいな」
次々に予約が入り、部屋の温度が上がっていく。
「一曲目誰歌うー?」
「俺!」
松下くんが率先して立ち上がった。こういう時トップバッターになれる人はすごいと思う。
初めて聞く曲だけどわかる。松下くん、絶妙に上手くない。僕寄りの人間だ。
「ごめん! キー下げるわ!」
「松下頑張れー」
「そこうるさい!」
再び松下くんが歌い出す。たしかにさっきより歌いやすそうだ。
「松下いるといいよな」
「わかる。いい感じにハードル下がるし」
なるほど。そういう見方もあるのか。ますます松下くんがすごい人に思えてきた。
トップバッターのおかげか、その後も続々と予約が入って盛り上がっている。
篠崎くんは森川さんと女性ボーカルの曲を歌っていた。原曲キーが難しいどころの話じゃないと思う。やっぱり音楽選択の人は強い。
「宮宇地、楽しんでるかー?」
「あ、松下くん。楽しいよ」
「ならいいけど。宮宇地ってこういうの参加しないタイプだと思ってた」
「僕もそう思ってる」
「何だそれ? 宮宇地ってけっこう面白いやつだよな!」
肩をバシバシ叩かれる。地味に痛い。
「松下くんはすごいね。ちゃんと盛り上げてて」
「もしかして褒められてる?」
「褒めてるよ」
「なんかストレートに言われると調子くるうな……なあ、一個聞いていい?」
「なに?」
「宮宇地はさ、篠崎と仲良いの?」
一瞬、言葉に詰まってしまった。放課後のことを話すわけにもいかず、無難な返しをする。
「わからないけど、気にかけてくれてるのかな。今日も話しかけてくれたし」
「ああー、篠崎いいやつだからなぁ。ごめん、変なこと聞いて。俺とも友達になってよ。宮宇地面白いし」
「もちろん。よろしくね」
あっさりと友達ができた。これもある意味文化祭マジックなのかもしれない。
「何話してんの?」
「お、篠崎。宮宇地と友達になったって話」
「ふーん。へー。友達、ねえ」
「え? なんか顔怖くね?」
「気のせいだろ」
篠崎くんはそう言うと、僕と松下くんの間に座った。
「篠崎狭いんだけど」
「お前が寄ればいいだろ」
「いやいやいや! おかしいだろ! それにな、お前でかいんだから宮宇地が狭くなるだろ!」
「宮宇地、狭いの?」
篠崎くんが松下くんに背を向け、僕を真正面に捉える。ミラーボールの光が反射して、その目がギラギラと光っている気がした。
「……狭くないよ」
「そうか。よかった」
「よくはないだろ!」
「松下うるさい。歌が聞こえない」
騒いでいる松下くんを篠崎くんがいなす。
篠崎くんは僕の横にぴったりとくっついている状態で、僕には人の歌を聞く余裕なんてなかった。
カラオケの時間がそろそろ終わりそうだ。篠崎くんは終始僕の隣にいて、まるで他の人をブロックしているみたいだった。実際、松下くん以外の人が来ても、彼が場所を変わることはなかった。
現在、篠崎くんは親から電話がきたという理由で席を立っている。空いたスペースに誰も寄ってこないのは、僕の人望がないからか、篠崎くんの存在感が大きいのか。
「てか宮宇地歌ってなくね?」
梅原くんの発言に、クラスの目が僕に向かう。
「えっと、あの」
「気づかなくてごめん。ほら、何か入れなよ」
機械を手渡され、受け取ってしまった。こんな時、篠崎くんならスマートに断れたのかな。どんなに焦っても頼りになる彼はいない。
終盤に空気を悪くするのは申し訳ない。ここは僕が知っている曲を入れて、松下くんあたりに音痴を笑ってもらって終わりにしよう。
さりげなく松下くんに視線を送る。気づいてもらえなかったけど、たぶんなんとかなるだろう。
「あれっ? これ何の曲?」
「知ってる! 親が歌ってた!」
「渋っ」
渋くはないよ爽やかだよ。まあ、選曲は少し古いかもしれないけど。
イントロが流れた始めた瞬間に篠崎くんが戻ってきた。彼はマイクを持つ僕を見て驚いた顔をして、それからすぐ僕の隣に座った。
「森川、マイク貸して」
「はい。りっくん歌えるの?」
よく通る声。たぶん、マイク越しの僕の声より響いている。
「あ、あの」
「デュエット。この曲知ってるから」
たまたまだろうか。この曲を篠崎くんの前で歌ったことはないのに。
歌い出しから、彼の言ったことが本当なのだと実感した。
みんな篠崎くんの歌声に注目していて、僕の存在が薄れていく。心なしか、いつもより上手く歌えた気がした。
「最後何入れるー?」
「これにしない?」
拍手もそこそこに、二次会は締めの空気に入っている。僕は声を落として隣の篠崎くんに話しかけた。
「ありがとう。助かったよ」
「別に。多少はましになったんじゃね?」
「変わらないよ。篠崎くんのガイドがよかっただけ」
「次からも一緒に歌ったら、宮宇地の音痴は独占できるな」
「……それって嬉しいの?」
「すごく」
篠崎くんはくしゃっと笑って、僕の手からマイクを回収して梅原くんに渡した。
最後に流れたのは有名な曲で、僕はそれを聞きながら、篠崎くんが歌っている時だけ小声で口ずさんだ。
「あー、喉痛い!」
「次、コンビニ寄る人ー?」
カラオケも終わり、帰り道は同じ路線のグループで自然にバラけた。
みんないつも以上に笑っていて、文化祭の余韻を楽しんでいるように見えた。
前方で騒いでいるグループを他所に、僕と篠崎くんは後方を歩いていた。
「前の方に行かなくていいの?」
「いいだろ。何かあったら話しかけるだろうし」
「あの、一つ聞いていい?」
「どうした?」
「篠崎くんは何であの曲知ってたの? お母さんが聞いてたとか?」
ちょっとした話題の一つにするつもりだった。
「この前宮宇地が好きなアーティストだって言ってたから、覚えた」
「え?」
「いい曲だよな。俺も好きになった」
「でも、カラオケ行ったのついこの前だよ。そんなすぐ覚えられたの?」
「知りたいだろ。その……宮宇地のことは」
何それ。僕のこと知りたいからって、わざわざ覚えたの?
なんで、篠崎くんは、そんな——
「篠崎ー! コンビニ寄るよなー!」
「寄る。宮宇地も」
「なんか仲良くなってない?」
「文化祭あったし、そんなもんだろ」
「そうかー?」
松下くんと話してる間も篠崎くんは僕の隣を歩いている。いつもより彼の歩くスピードが速い気がする。僕は置いていかれないように、歩幅を五センチだけ大きくした。
「焼くぞー!」
「お前らうるさい。邪魔になるからもっと端寄っとけ」
文化祭も終わり、僕たちのクラスは打ち上げで焼肉に行くことになった。松下くんと梅原くんがはしゃぎ、篠崎くんが注意する。それを見て女子たちが笑う、定番の流れだ。
五人一組でテーブルにつくことになり、僕は佐藤くんのグループにお邪魔することになった。
「宮宇地くん、何がいい?」
「エリンギ」
「……え? あ、ごめん。肉がくると思ってたから。エリンギ好きなの?」
「うん、好き」
「へー。じゃあ肉はこっちで適当に頼んどくね」
佐藤くんがタブレットにエリンギを打ち込んで注文してくれた。注文が一人前なのを見て、選択を間違えたことを察した。
特に席替えもないまま、焼肉は終わった。意外とかぼちゃを焼くのが難しかった。同じテーブルの人達がやたらと肉を勧めてくるのが楽しかった。
「お疲れー」
「明日遅れるなよー」
焼肉で帰る組と二次会に行く組に分かれる。僕は前に篠崎くんと約束したので、二次会に参加する組だ。
「宮宇地くんもカラオケ来るんだ」
「うん」
「楽しもうね」
田山さんが話しかけてくれた。彼女は僕に笑顔を見せると、自分のグループに戻っていった。
一人で集団の後ろをついていく。なるほど。二次会に参加するのはクラスの中でも明るいポジションの人たちばかりのようだ。
また失敗したみたいだ。でもなぁ、約束は約束だし。
「宮宇地」
篠崎くんがなぜか話しかけてきた。予想外の展開に返事が遅れる。
「あ、ごめん。どうしたの?」
「一人で歩いてたから」
「僕はありがたいけど、いいの?」
「別にいいだろ。それに今は学校の中じゃないし」
「……ありがとう」
屁理屈だなぁって笑う気になれなくて、僕は篠崎くんの隣を歩いた。
結局、僕たちの組み合わせを面白がった梅原くんが割って入って、並びがうやむやになったままカラオケに到着した。
カラオケ店の一番広い部屋に二十人近いクラスメイトが詰め込まれた。
ミラーボールの回る落ち着かない空間で、僕は部屋の隅、スピーカーの真下に滑り込んだ。
「これ、誰か歌うー?」
「あ、それ私入れる! りっくん、一緒に歌おう!」
「いいけど。原キーエグいな」
次々に予約が入り、部屋の温度が上がっていく。
「一曲目誰歌うー?」
「俺!」
松下くんが率先して立ち上がった。こういう時トップバッターになれる人はすごいと思う。
初めて聞く曲だけどわかる。松下くん、絶妙に上手くない。僕寄りの人間だ。
「ごめん! キー下げるわ!」
「松下頑張れー」
「そこうるさい!」
再び松下くんが歌い出す。たしかにさっきより歌いやすそうだ。
「松下いるといいよな」
「わかる。いい感じにハードル下がるし」
なるほど。そういう見方もあるのか。ますます松下くんがすごい人に思えてきた。
トップバッターのおかげか、その後も続々と予約が入って盛り上がっている。
篠崎くんは森川さんと女性ボーカルの曲を歌っていた。原曲キーが難しいどころの話じゃないと思う。やっぱり音楽選択の人は強い。
「宮宇地、楽しんでるかー?」
「あ、松下くん。楽しいよ」
「ならいいけど。宮宇地ってこういうの参加しないタイプだと思ってた」
「僕もそう思ってる」
「何だそれ? 宮宇地ってけっこう面白いやつだよな!」
肩をバシバシ叩かれる。地味に痛い。
「松下くんはすごいね。ちゃんと盛り上げてて」
「もしかして褒められてる?」
「褒めてるよ」
「なんかストレートに言われると調子くるうな……なあ、一個聞いていい?」
「なに?」
「宮宇地はさ、篠崎と仲良いの?」
一瞬、言葉に詰まってしまった。放課後のことを話すわけにもいかず、無難な返しをする。
「わからないけど、気にかけてくれてるのかな。今日も話しかけてくれたし」
「ああー、篠崎いいやつだからなぁ。ごめん、変なこと聞いて。俺とも友達になってよ。宮宇地面白いし」
「もちろん。よろしくね」
あっさりと友達ができた。これもある意味文化祭マジックなのかもしれない。
「何話してんの?」
「お、篠崎。宮宇地と友達になったって話」
「ふーん。へー。友達、ねえ」
「え? なんか顔怖くね?」
「気のせいだろ」
篠崎くんはそう言うと、僕と松下くんの間に座った。
「篠崎狭いんだけど」
「お前が寄ればいいだろ」
「いやいやいや! おかしいだろ! それにな、お前でかいんだから宮宇地が狭くなるだろ!」
「宮宇地、狭いの?」
篠崎くんが松下くんに背を向け、僕を真正面に捉える。ミラーボールの光が反射して、その目がギラギラと光っている気がした。
「……狭くないよ」
「そうか。よかった」
「よくはないだろ!」
「松下うるさい。歌が聞こえない」
騒いでいる松下くんを篠崎くんがいなす。
篠崎くんは僕の横にぴったりとくっついている状態で、僕には人の歌を聞く余裕なんてなかった。
カラオケの時間がそろそろ終わりそうだ。篠崎くんは終始僕の隣にいて、まるで他の人をブロックしているみたいだった。実際、松下くん以外の人が来ても、彼が場所を変わることはなかった。
現在、篠崎くんは親から電話がきたという理由で席を立っている。空いたスペースに誰も寄ってこないのは、僕の人望がないからか、篠崎くんの存在感が大きいのか。
「てか宮宇地歌ってなくね?」
梅原くんの発言に、クラスの目が僕に向かう。
「えっと、あの」
「気づかなくてごめん。ほら、何か入れなよ」
機械を手渡され、受け取ってしまった。こんな時、篠崎くんならスマートに断れたのかな。どんなに焦っても頼りになる彼はいない。
終盤に空気を悪くするのは申し訳ない。ここは僕が知っている曲を入れて、松下くんあたりに音痴を笑ってもらって終わりにしよう。
さりげなく松下くんに視線を送る。気づいてもらえなかったけど、たぶんなんとかなるだろう。
「あれっ? これ何の曲?」
「知ってる! 親が歌ってた!」
「渋っ」
渋くはないよ爽やかだよ。まあ、選曲は少し古いかもしれないけど。
イントロが流れた始めた瞬間に篠崎くんが戻ってきた。彼はマイクを持つ僕を見て驚いた顔をして、それからすぐ僕の隣に座った。
「森川、マイク貸して」
「はい。りっくん歌えるの?」
よく通る声。たぶん、マイク越しの僕の声より響いている。
「あ、あの」
「デュエット。この曲知ってるから」
たまたまだろうか。この曲を篠崎くんの前で歌ったことはないのに。
歌い出しから、彼の言ったことが本当なのだと実感した。
みんな篠崎くんの歌声に注目していて、僕の存在が薄れていく。心なしか、いつもより上手く歌えた気がした。
「最後何入れるー?」
「これにしない?」
拍手もそこそこに、二次会は締めの空気に入っている。僕は声を落として隣の篠崎くんに話しかけた。
「ありがとう。助かったよ」
「別に。多少はましになったんじゃね?」
「変わらないよ。篠崎くんのガイドがよかっただけ」
「次からも一緒に歌ったら、宮宇地の音痴は独占できるな」
「……それって嬉しいの?」
「すごく」
篠崎くんはくしゃっと笑って、僕の手からマイクを回収して梅原くんに渡した。
最後に流れたのは有名な曲で、僕はそれを聞きながら、篠崎くんが歌っている時だけ小声で口ずさんだ。
「あー、喉痛い!」
「次、コンビニ寄る人ー?」
カラオケも終わり、帰り道は同じ路線のグループで自然にバラけた。
みんないつも以上に笑っていて、文化祭の余韻を楽しんでいるように見えた。
前方で騒いでいるグループを他所に、僕と篠崎くんは後方を歩いていた。
「前の方に行かなくていいの?」
「いいだろ。何かあったら話しかけるだろうし」
「あの、一つ聞いていい?」
「どうした?」
「篠崎くんは何であの曲知ってたの? お母さんが聞いてたとか?」
ちょっとした話題の一つにするつもりだった。
「この前宮宇地が好きなアーティストだって言ってたから、覚えた」
「え?」
「いい曲だよな。俺も好きになった」
「でも、カラオケ行ったのついこの前だよ。そんなすぐ覚えられたの?」
「知りたいだろ。その……宮宇地のことは」
何それ。僕のこと知りたいからって、わざわざ覚えたの?
なんで、篠崎くんは、そんな——
「篠崎ー! コンビニ寄るよなー!」
「寄る。宮宇地も」
「なんか仲良くなってない?」
「文化祭あったし、そんなもんだろ」
「そうかー?」
松下くんと話してる間も篠崎くんは僕の隣を歩いている。いつもより彼の歩くスピードが速い気がする。僕は置いていかれないように、歩幅を五センチだけ大きくした。
