その日もいつもと同じ。授業が終わって、ノートを閉じる。この時には、私のノートは彼の書き込みで溢れていた。帰り支度をしながら彼を見る。目が合う。
「帰る?」
「うん。」
短いやり取り。でも、それだけで彼と一緒に帰れることが分かる。外に出ると、少しだけ風が強かった。
「今日、めっちゃ寒くね?」
「うん、寒いよね。」
肩をすくめると、彼は「だよな」と言い、ポケットに手を突っ込んだ。しばらく歩く。特に会話もない時間。でも、心地の良い時間。
「なあ」
不意に呼ばれて顔を上げる。
「ん?」
少しだけ間があった。言いかけてやめるみたいな、そんな間。
「…やっぱりいい。」
「何それ。」
思わず笑うと、彼は少しだけ眉を寄せた。
「別に。」
また、それ。でも、いつもとは違って感じた。
「言いなよ。」
「いや、いいって。」
「気になるじゃん。」
「気にするなよ。」
そう言いながら彼は視線を逸らす。
「そう言うのってさ、なんか隠し事して、言わなかった人が狙われるよね。死亡フラグ立てないでよ。」
「お前、それは、ミステリーにハマりすぎだ。」
少しだけ笑う。そのまま、数歩分の沈黙。風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
「……お前さ、」
彼が口を開く。今度は途中で止まらなかった。
「俺といるの、嫌じゃないの?」
思わず、足が止まりそうになった。
「え、何で?」
「いや、何となく。」
曖昧な言い方。でも、その声は真剣で。
「…嫌なわけないじゃん。」
そう答えると、彼は少しだけ息を吐いた。
「ならいい。」
それだけ。それだけなのに、この言葉が、ひどく大事なものみたいにこびりついている。
「じゃあさ、」
今度は私が言う。
「私は君のこと、嫌いじゃないし、これからも一緒に帰っていいよね?」
少しだけ勇気を出す。
「別に、いいけど。」
即答だった。
「てか、ダメだと思っていたの?」
「いや、何となく聞いてみただけ。」
「何だよ、それ。」
また、少しだけ笑う。
「ふふ、変なの。」
「お前もな。」
そんなやりとりをしながら、また歩き出す。いつもの距離、いつもの速度。そう思っていた、その時だった。ふと、彼の手が少しだけ近づいた気がした。触れるか、触れないか…、そんな距離。結局何も起きなかった。それでも、これまでとは少しだけ違う何かがそこにはあった。言葉にできないまま、名前すらつけられないまま。でも、きっと。あの時なのだろう。私が引き返せなくなった瞬間は。
「帰る?」
「うん。」
短いやり取り。でも、それだけで彼と一緒に帰れることが分かる。外に出ると、少しだけ風が強かった。
「今日、めっちゃ寒くね?」
「うん、寒いよね。」
肩をすくめると、彼は「だよな」と言い、ポケットに手を突っ込んだ。しばらく歩く。特に会話もない時間。でも、心地の良い時間。
「なあ」
不意に呼ばれて顔を上げる。
「ん?」
少しだけ間があった。言いかけてやめるみたいな、そんな間。
「…やっぱりいい。」
「何それ。」
思わず笑うと、彼は少しだけ眉を寄せた。
「別に。」
また、それ。でも、いつもとは違って感じた。
「言いなよ。」
「いや、いいって。」
「気になるじゃん。」
「気にするなよ。」
そう言いながら彼は視線を逸らす。
「そう言うのってさ、なんか隠し事して、言わなかった人が狙われるよね。死亡フラグ立てないでよ。」
「お前、それは、ミステリーにハマりすぎだ。」
少しだけ笑う。そのまま、数歩分の沈黙。風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
「……お前さ、」
彼が口を開く。今度は途中で止まらなかった。
「俺といるの、嫌じゃないの?」
思わず、足が止まりそうになった。
「え、何で?」
「いや、何となく。」
曖昧な言い方。でも、その声は真剣で。
「…嫌なわけないじゃん。」
そう答えると、彼は少しだけ息を吐いた。
「ならいい。」
それだけ。それだけなのに、この言葉が、ひどく大事なものみたいにこびりついている。
「じゃあさ、」
今度は私が言う。
「私は君のこと、嫌いじゃないし、これからも一緒に帰っていいよね?」
少しだけ勇気を出す。
「別に、いいけど。」
即答だった。
「てか、ダメだと思っていたの?」
「いや、何となく聞いてみただけ。」
「何だよ、それ。」
また、少しだけ笑う。
「ふふ、変なの。」
「お前もな。」
そんなやりとりをしながら、また歩き出す。いつもの距離、いつもの速度。そう思っていた、その時だった。ふと、彼の手が少しだけ近づいた気がした。触れるか、触れないか…、そんな距離。結局何も起きなかった。それでも、これまでとは少しだけ違う何かがそこにはあった。言葉にできないまま、名前すらつけられないまま。でも、きっと。あの時なのだろう。私が引き返せなくなった瞬間は。



