手を繋いで海を行く。足元に寄せては返す波は、まるでくるぶしを洗うかのようでくすぐったかった。最初はひんやりしていたのに、すぐに慣れて、むしろ心地よく感じる。
仁科が一歩踏み出すたび、僕の裸足も水の中へ沈んでいく。波立ちがふくらはぎを撫で、腰のあたりまで水が満ちてくると、海の匂いがふっと濃くなった気がした。
「冷たくない?」
「いや。むしろ気持ちいい」
仁科は笑っていた。その笑顔につられて、僕も自然と笑ってしまう。
少し強い波が打ち寄せ、足元の砂がさらさらと崩れる。ぬかるみに足を取られそうになっても、隣に仁科がいるだけでちっとも怖くなかった。たった二人だけの世界で、僕らを邪魔できるものは何もなかったから。
「……なあ、吾妻」
ふと、仁科が取り留めなく呟く。「ここはとっくにありえない世界なんだろ」、と。そして続ける。「じゃあ、死んだらどうなんの」、と。……たしかに、と思う。
「天国には行けねえだろうなぁ」
「僕なんて一回死んでるのに、このままもう一回死ぬのかな?」
「そうだったな。つかお前、行く先あんの?」
「え? 行く先?」
至極まっとうな懸念に、僕は思わず言葉を詰まらせる。これからの行く宛てなんて、そんなもの考えたことすらなかった。天国か地獄か、あるいは神の国か。僕はいったいどこに行くのだろう。
「大丈夫なのかよ」
「うーん……」
しばらく唸ってから、僕は肩を竦めてみせた。「なるようになるさ」というのは、決して楽観視したわけでも、諦めたわけでもない。そもそも僕はずっと、死ぬことは生きることの反対だと思っていた。だから今、死んだはずの僕がいるこの世界こそ、彼の言う「行く先」なのかもしれなくて。
(それなら、ここは天国かもね)
それとも、これからもう一度死ぬというのなら、僕はやはり、この世界に生き返っていたのだろうか。
死んだら僕たちはどこへ向かうのだろう。行き先なんて誰にもわからない。道のりすら知らない──それだというのに、人間はいつか死ぬのだ。知らない場所にむかって死んでいくのだ。そしてそれを、人は「生きる」と呼ぶらしい。
「俺はお前が連れてってくれるらしいから、別にいいけど」
「……うん。任せておいて!」
今度こそ二人で一緒に、遠くへ──どこまでも。
仁科の手を引く。彼はその手を離さない。二人で笑いながら、ゆっくりと、海の中へ進んでいった。
仁科が一歩踏み出すたび、僕の裸足も水の中へ沈んでいく。波立ちがふくらはぎを撫で、腰のあたりまで水が満ちてくると、海の匂いがふっと濃くなった気がした。
「冷たくない?」
「いや。むしろ気持ちいい」
仁科は笑っていた。その笑顔につられて、僕も自然と笑ってしまう。
少し強い波が打ち寄せ、足元の砂がさらさらと崩れる。ぬかるみに足を取られそうになっても、隣に仁科がいるだけでちっとも怖くなかった。たった二人だけの世界で、僕らを邪魔できるものは何もなかったから。
「……なあ、吾妻」
ふと、仁科が取り留めなく呟く。「ここはとっくにありえない世界なんだろ」、と。そして続ける。「じゃあ、死んだらどうなんの」、と。……たしかに、と思う。
「天国には行けねえだろうなぁ」
「僕なんて一回死んでるのに、このままもう一回死ぬのかな?」
「そうだったな。つかお前、行く先あんの?」
「え? 行く先?」
至極まっとうな懸念に、僕は思わず言葉を詰まらせる。これからの行く宛てなんて、そんなもの考えたことすらなかった。天国か地獄か、あるいは神の国か。僕はいったいどこに行くのだろう。
「大丈夫なのかよ」
「うーん……」
しばらく唸ってから、僕は肩を竦めてみせた。「なるようになるさ」というのは、決して楽観視したわけでも、諦めたわけでもない。そもそも僕はずっと、死ぬことは生きることの反対だと思っていた。だから今、死んだはずの僕がいるこの世界こそ、彼の言う「行く先」なのかもしれなくて。
(それなら、ここは天国かもね)
それとも、これからもう一度死ぬというのなら、僕はやはり、この世界に生き返っていたのだろうか。
死んだら僕たちはどこへ向かうのだろう。行き先なんて誰にもわからない。道のりすら知らない──それだというのに、人間はいつか死ぬのだ。知らない場所にむかって死んでいくのだ。そしてそれを、人は「生きる」と呼ぶらしい。
「俺はお前が連れてってくれるらしいから、別にいいけど」
「……うん。任せておいて!」
今度こそ二人で一緒に、遠くへ──どこまでも。
仁科の手を引く。彼はその手を離さない。二人で笑いながら、ゆっくりと、海の中へ進んでいった。
