月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 月江戸を訪れてから、もう一年以上過ぎたような気がする。
 三か月後に祝言を挙げるといわれたあの日、まともな恋愛をしないまま結婚するなんてと、男運どころじゃない運の悪さを恨んだ。
 恋愛結婚が夢だった。愛し合った人と式場を選んで、結婚指輪を買いに行って、ウエディングドレスにお色直し──全部、叶わなかったけど、私は幸せだ。

 満月の夜に照らされた蒼司の横顔を見上げながら、つい数刻前に執り行われた静かな祝言を思い出す。
 
 東雲家の大広間、灯された明かりの中で盃を交わした。
 一口目、出会った頃から変わらない蒼司の優しさを思い出し、二口目には遠くなってしまった両親を思い浮かべながら、祝ってくれる人たちのことを思った。

 そうして、お神酒が三つ目の盃に注がれるのを見ながら、これからのことを考えた。

 ひとまず私の役目──大奥に広がる毒の出どころの追求は終わった。でもそれは、将軍家お家問題の一角を解決しただけのこと。東雲家に嫁ぐということは、これから先も、厄介ごとに巻き込まれるってことよね。

 渡された盃のお神酒がゆらめいた。

 私の幸せなウエディングプランは、こんなはずじゃなかった。そう思う気持ちも、ほんの少しある。あるけど──
 赤い盃を傾け一口飲み、蒼司へと渡した。彼が全て飲み干す姿をそっと見守り、深く息を吸う。
 きっと、彼となら大丈夫。

 三々九度を交わした私たちは微笑み合った。
 義父が目に涙を浮かべていたのを見て、日本の両親を思った。私の白無垢姿を見たら、きっと同じような顔をしたんだろうな。

 静かな祝言の後、梅御殿に戻って夜着に着替えた私たちは、自然と縁側に腰を下ろして寄り添った。

 夜風が火照った体に心地よく吹き込んでくる。
 こうして蒼司と縁側で時間をすごすのが、すっかり私の癒しになっているの、彼は知っているのかな。
 雲一つない夜空を眺めていると、蒼司が優しく私を呼んだ。

「凛……月江戸にそなたを呼んだこと、今でも恨めしく思うているか?」

 少し申し訳なさそうな声を振り返ると、真摯な眼差しが向けられていた。

「私は、そなたに好いてもらえているだろうか?」

 大きな手が火照った頬をそっと撫でる。
 壊れやすいガラス細工を触るような優しい指先は、しばらくすると離れようとした。それを咄嗟に掴んで引き止めると、蒼司の切れ長の瞳が見開かれた。

「私、恨んでるなんていった?」
「……一人ぼっちになった気持ちがわかるかと問われた夜、泣いた顔が忘れられぬ。この者には私しかいないのだと、あの時から思ってきた」

 ああ、そういえばそうだった。
 巫女になれって突然いわれて戸惑っていたし、寂しい思いでいっぱいだった。月江戸には、私が月宮凛であることを知る人どころか、慣れ親しんだものさえ何一つない。そんなところに放り出されたんだもの、まだ我慢していた方だと思うのよ。

 だけどそれも、ずいぶん前のことのような気がしてくるな。 なんだかおかしくなって、自然と口角が上がった。

「あの時は……うん、凄く寂しかったし、不安だったの」

 いきなり右も左もわからないところに放り出されたら、誰だってそうなるだろう。ここが異世界だろうが、過去の江戸時代だろうが。
 寂しさを埋める人が、私には必要だった。
 蒼司の大きな手を握りしめて、ぬくもりを確かめる。