「えっと、そんな崇高な話じゃなくて……蓮の花は栄養豊富な泥がないと咲かないって話でね」
曖昧に笑って話し始めると、蒼司はうむと頷いて耳を傾けてくれた。
「泥水って汚いけど、たくさんの植物や虫の命が積み重なったものだよね。それがあって、初めて美しい花を咲かせる……清らかな水だけじゃ、この花は咲かないんだよ」
世の中も一緒なのかもしれない。
どう頑張っても考えの異なる人はいる。その人たちがぶつかれば争いが起きる。それが大きくなればなるほど、巻き込まれて犠牲になる人も現れる。
「私たちも一緒で、世の中は色々な思惑が混ざり合って混沌としているんだと思うの。今回は、たまたま東雲家が善に近いところにいただけ……もしも、将軍様により近いのが雲井藩と戸張家だったら、私たちは悪になったかもしれないでしょ?」
「……それは、否めんな」
少し唸るようにして頷く蒼司の横顔をちらりと見た。真剣な眼差しは、蓮池へと向いている。
私も蓮池にもう一度、視線を向けた。
「もしもって考えるのはよくないけど、でも、もしも野々宮姉妹の父親が死ななかったらどうなってた? もしも、野々宮一家を助けたのが東雲家だったら、二人はどうだった?」
「……少なくとも、今回の毒騒動は起こさなかっただろう」
「そう思うよね。環境で人は変わるんだと思うよ……だから、私は二人が変われるって信じたいの」
野々宮姉弟にとっては、泥にまみれた十五年だったかもしれない。辛いこともたくさんあったんだと思う。嘘に縋らないと生きられないことも。
「二人の信念は間違ってないもの」
「信念?」
「家族を愛することだよ。本当に、守りたいと思っていたんだよ。それを、戸張がいいように使っただけ。十五年前、二人はまだ幼かったんだもの……親が恋しくて当たり前でしょ?」
尋ねてしばらく返事はなかった。
風が通り抜け、夏虫の鳴き声が空気を震わせる。
蒼司ならきっとわかってくれる。だって、彼も幼くして母親を亡くし、お姉さんと二人寄り添ってきたんだもの。
昇ってきた朝日に照らされた蓮の花がキラキラと輝いた。
それを眺めていると「そうだな」と、穏やかなつぶやきが聞こえてきた。
曖昧に笑って話し始めると、蒼司はうむと頷いて耳を傾けてくれた。
「泥水って汚いけど、たくさんの植物や虫の命が積み重なったものだよね。それがあって、初めて美しい花を咲かせる……清らかな水だけじゃ、この花は咲かないんだよ」
世の中も一緒なのかもしれない。
どう頑張っても考えの異なる人はいる。その人たちがぶつかれば争いが起きる。それが大きくなればなるほど、巻き込まれて犠牲になる人も現れる。
「私たちも一緒で、世の中は色々な思惑が混ざり合って混沌としているんだと思うの。今回は、たまたま東雲家が善に近いところにいただけ……もしも、将軍様により近いのが雲井藩と戸張家だったら、私たちは悪になったかもしれないでしょ?」
「……それは、否めんな」
少し唸るようにして頷く蒼司の横顔をちらりと見た。真剣な眼差しは、蓮池へと向いている。
私も蓮池にもう一度、視線を向けた。
「もしもって考えるのはよくないけど、でも、もしも野々宮姉妹の父親が死ななかったらどうなってた? もしも、野々宮一家を助けたのが東雲家だったら、二人はどうだった?」
「……少なくとも、今回の毒騒動は起こさなかっただろう」
「そう思うよね。環境で人は変わるんだと思うよ……だから、私は二人が変われるって信じたいの」
野々宮姉弟にとっては、泥にまみれた十五年だったかもしれない。辛いこともたくさんあったんだと思う。嘘に縋らないと生きられないことも。
「二人の信念は間違ってないもの」
「信念?」
「家族を愛することだよ。本当に、守りたいと思っていたんだよ。それを、戸張がいいように使っただけ。十五年前、二人はまだ幼かったんだもの……親が恋しくて当たり前でしょ?」
尋ねてしばらく返事はなかった。
風が通り抜け、夏虫の鳴き声が空気を震わせる。
蒼司ならきっとわかってくれる。だって、彼も幼くして母親を亡くし、お姉さんと二人寄り添ってきたんだもの。
昇ってきた朝日に照らされた蓮の花がキラキラと輝いた。
それを眺めていると「そうだな」と、穏やかなつぶやきが聞こえてきた。

