月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 池から立ち上がる光はまるで天女の羽衣のように、薄い帯となって男の手や足に巻き付き、その身体を覆うように集まる。昏い靄もろとも、飲み込まれていく。

「なんだ、これは……!?」

 光を振り払おうと暴れる男は、言葉にならない叫びを発した。
 
「月に刻まれし縁を、水鏡に映したまえ」
 
 蒼司の言葉が響き渡ったその時、丸い池がまるで満月のように輝き、光の柱が立ち上がった。
 浮き島が光に飲み込まれる。
 光の中から、苦悶に満ちた叫びが聞こえてきた。

 届いてくる声に不安を抱き、ついと蒼司を見上げた。そこには、左目から血の涙を滴らせる姿がった。とっさに「蒼司さん!」と声をかけて彼の袖を掴もうとしたが、彼は私の方を振り返らず、真っすぐに光を見ていた。

 長い指が組まれ、淫が結ばれる。アニメや映画でしか見たことがなかった情景が、今、私の前で起こっている。
 蒼司の袖に触れるのを躊躇い、手を握りしめる。

「──オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン」

 言葉の意味は分からない。でも、それは光に飲み込まれた野々宮春真を攻撃するものじゃなく、彼を助けようとするものだって、なんとなく感じた。
 だって、蒼司の声はどことなく優しくて、静かに胸の奥に響き渡ったから。

 胸の前で手を組んだ。
 お願い。どうか、事実を受け入れて。──願うことなら、私にもできた。

 光に包まれた野々宮晴真の無事を祈り、どれくらいの時が過ぎただろう。
 低い声で呪文を繰り返し唱えていた蒼司が、ぴたりと口を閉ざした。

 組まれていた指が解かれる。すると、浮き島を包んでいた光が次第に弱まっていった。小さくなっていく光が消えると、そこには倒れる野々宮晴真の姿があった。
 ぴくりとも動かない様子に不安が募る。

「蒼司さん……野々宮晴真は──」

 大丈夫なのかと問う前に、後ろで「晴真!」と女性の声がした。振り返ると、義父に支えられた野々宮あめがいた。
 バッサリと切られた髪が乱れ、夜風に弄ばれて揺れた。

「晴真、晴真は……」

 私の傍までくると、あめさんは涙を浮かべて手を伸ばした。それを掴みながら、なにもいえない私は蒼司を振り返った。

「混乱して気を失っただけだろう」
「傍にいっても、大丈夫なの?」

 尋ねると、蒼司が静かに頷いた。
 あめさんに手を差し出して「行きましょう」といえば、震える指先が私の手に触れた。
 震える足が一歩前に出る。

 私と義父に支えられながら、あめさんは浮き島を目指した。そうして、横たわる弟を前にすると、声を上げて崩れ落ちた。涙を流しながら、何度も弟の名を繰り返し呼んだ。