月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

「……ご安心ください。お姉さんは生きています」

 声の震えを堪えて告げれば、肩を掴んでいた手から力が抜けた。

「ですが、お姉さんは罪の意識に耐え兼ね、命を絶とうとしました」
「……罪?」
「あめさんは私に、あなたにかかる雲を晴らしてと欲しいといいました」

 男の手首を掴み、月に照らされた赤茶色の瞳を真っ向から見つめる。まるで血に濡れたような瞳が揺れている。

「十五年前、湊川藩で流行り病が蔓延していました。その特効薬に、附子がかかせなかった。だけど、買い集めた附子は何者かに盗み出された」
「金に目のくらんだ葦原藩の者であろう! それを使って東雲が毒薬を作り、雲井藩を呪った!」
「それが、あなたの吹き込まれた真実だとしても、事実ではありません。……当時、盗人の疑いをかけられた男が水死体となって発見されました」

 私の言葉に、男の手が反応した。その表情も険しさを増していく。
 きっと、この話はあめさんだって何度も彼に話しているはずだ。それを、繰り返し否定してきた。私が今更伝えたって、納得してくれないだろう。
 わかりつつも、淡々と事実を告げた。

「男の手に奇妙な火傷の痕があったそうです。まるで、なにか、そう入れ墨でも消そうとしたような痕だったと、当時の東雲家前当主が気付きました。それから男の身元が判明した……野々宮晴久、あなたの父親です」
「……そうだ。俺の父は東雲に殺され、盗みの罪を着せられた!」
「それがあなたの知る真実なんですね。でも、それっておかしな話なんですよ。東雲の者が犯人なら、その入れ墨を消す必要なんてないんです。だってそれは、戸張家の陰陽師たちが結束を現す印なのですから。隠さない方が好都合じゃないですか」

 男の手首を引き、その手の甲を見る。そこには、月を隠す雲を模した印が赤黒く刻まれていた。

「消された入れ墨を、雲井藩は認めなかった。男は雲井に戻ることなく、東雲で弔ったそうです。事件も未解決となった」
「……俺を雲井藩の陰陽師と知っての愚弄か?」

 男の声が震えた。

「私は事実をお話しているだけです」
「東雲家が雲井藩に罪を擦り付けているだけだ! 己の失態を我らが殿に擦り付けるなど、武家の風上にも置けぬ!」

 怒りに周りが見えない様子の男は声を張り上げ、私の体を赤い橋の欄干に押し付けた。

 欄干に押し付けられた背中が痛い。だけど、負けてなるものかと精一杯、冷静を装って男を見つめた。
 暗闇の中浮かぶ顔が怒りに満ちている。

「──お言葉を返しますが、罪を認めず東雲に被せようとされた雲井のお殿様こそ、武家の風上にも置けないのではありませんか?」
「まだ愚弄するか! 雲井藩では毒に侵された変死体が多く出た。附子を盗んだ東雲が、陥れたのであろう!」
「その発言こそ、東雲家に対する愚弄、濡れ衣です。そもそも、毒を使う必要があったのは、そちらの陰陽師だったのですから」
「……なに?」

 男の声が上ずる。