手を寄せた蒼司の胸から鼓動が伝わってくる。ぬくもりや息遣いがとても近く、やり場のない怒りまで感じられた。
私のことを本当に思ってくれているんだな……
「己を殺そうとした者が憎くはないのか?」
「……だって、あめさんは私を殺したかったわけじゃないし」
「どうしてそう優しくあれるのだ」
「優しいとかじゃないよ……憎むなら、こんなバカげたことを指示した人でしょ? 騙した人が悪いんだよ。騙された二人が悪いなんて、私は思えない」
蒼司の胸を押し、少し距離を取るようにして見上げた顔は、苦しそうに歪んでいた。
「憎む相手を間違えちゃダメだよ。あめさんの弟も、蒼司さんも」
本当は、憎まないでといいたかった。でも、その憎しみは私への愛情の現れなんだと思ったら、蒼司の辛い表情を否定することなんてできなかった。
少し熱を持った蒼司の頬を撫でると、大きな手が指先に重なった。
静かな東屋の下で私を見つめていた蒼司は、しばらくすると「すまぬ」と呟いた。
「わかっておるつもりだ。あの者が使われた哀れさも、凛が救いたいと思うのも」
私の手を握りしめ、向き合う蒼司は深く息を吸い込む。まだ、心の整理がついていないんだろうな。
そんな様子を見ていたら、もしも私が死んでいたらどうなっていたか、ふと考えてしまった。もっと荒れて大変なことになっていたかもしれない。
あるいは、あめさんの弟と同じように、事実に向き合えなかったかも──蒼司の思いを感じながら、不思議とまだ見ぬ男の影が彼に重なった。
数回息を整えた蒼司は肩の力を抜くと、少し強引に私をまた腕の中へと引っ張り込んだ。そうして、私の髪を愛おしそうに撫でる。その仕草はまるで、大切なぬいぐるみを抱える子どものようだ。
「……凛は私よりも強い女子《おなご》だ」
「そんなことないよ」
「小さい身体で毒に耐え、弱きものを助けようとする」
「小さいって、子ども扱いしないでよ。私、もう二十一歳だよ」
おかしくなって笑いながらいうと、蒼司の指が動きを止めた。
「二十一、だと?」
「あ、でも数え年だと二十二か。月江戸って、歳の数え方どっち?」
「歳の数え方……?」
「えっと、私の国は生まれた日をゼロ歳として、次の誕生日が来たら一歳って数えるの。月江戸では生まれた日が一歳で、正月で歳を重ねる形かな?」
「ああ……どこでもそういうものだと思っておったが」
うろたえる様子と言葉から、やっぱりそうだったかと納得した。
急に歳の数え方どっちと訊かれたら混乱するよね。それにしても、ちょっと驚きすぎだよ。私、そんなに子どもっぽく見えるのかな。

