「それに、あめさんの弟を改心させたら二人とも味方になってくれると思うの」
「味方……?」
「だって、あめさんの話が本当なら、悪いのは雲井藩と戸張家の陰陽師でしょ。東雲家としたら、その内情を知る二人がこっち側についてくれたら都合がいいじゃない」
「……あの者たちに寝返ろというのか」
難しい顔をしながら低い石段を上がっていく蒼司は、庭の端にある小高い丘の中、木に覆われた東屋へと足を踏み入れた。
四本の柱の上にある茅葺屋根には、青々とした桜の枝がしだれかかっている。
質素な木のベンチ──長床几《ながしょうぎ》というらしいそれに下ろされた。木々の隙間から見る庭は日に照らされている。その眩しい緑を前にして、薄暗かった土蔵の中を思い出した。
想像していた牢屋と違って座敷になっていたし、思っていたほど不衛生さを感じなかった。だけど、陽射しがほとんど入り込まないあの場所で、弟の無事をただ祈っているのかと考えたら胸がつまる。
「容易ではなかろう。弟は姉の言葉を信じないのだぞ」
「私は、あめさんが嘘をついてるとは思えないんだよね。どうして信じないのかな……」
「幼かった時の大人の言葉とは、重いものだ」
「……そっか」
少し表情を陰らせた蒼司を見て、はたと思い出した。そういえば、蒼司のお母さんが亡くなったのも五つの頃だったよね。
ずっとお母さんの言葉を胸に生きてきた蒼司だから感じるなにかがあるのかな。
五歳か……満五歳なのか数え年で五歳なのかわからないけど、どちらにしても幼い。それから十五年もの間、育ての親に敵は葦原藩だ、東雲だと吹き込まれ続けたら洗脳もされても仕方ないのか。
だけど、それで本当の仇に使われるって悲しすぎる。
「東雲家や葦原藩にとってメリットしかないのに、上手くいかないね」
「めりっと?」
「あーえっと、利点のことね。利害が一致すれば、敵だって味方になるよね」
横に腰を下ろした蒼司は、なるほどと呟くと、私の顔をじっと見つめた。これは、話しを続けろってことかな。
「あめさん姉妹は本当の仇を討ちたいだろうし、葦原藩と東雲家だって雲井藩をどうにかしたいでしょ?」
「それはそうだが……」
「信じさせるのに、なにか証拠を突きつけるのはどうかな?」
「姉の言葉を信じないくらいだ。捏造だと言い出すだろう。あの者は死んで弟に気付かせようとしたのだろう。やりつくしたのだろう」
「そんな……」
死んでだなんて間違ってる。諦めるのはおかしい。
「死んじゃったら、あめさんの声は届かなくなっちゃうんだよ!」
思わず蒼司に向かって声を荒げると、その瞳が見開かれた。
方法は思いつかないけど、このまま、あめさんの弟と対立しているのは間違ってる。
どうにかしたいって思いだけで、蒼司を見つめていると、その薄い唇からため息が零れ落ちた。
「……附子の騒動が絡んでいるとなれば、父上も動くであろう」
「本当? それなら早く──」
話しに行こうという前に、手首を掴まれた私は蒼司の胸へと引き寄せられた。
「蒼司さん?」
「……そなたを殺そうとした者を私に救えとは、なかなか酷なことをいうのだな」
耳に触れた低い声に、一瞬、言葉を失った。
「味方……?」
「だって、あめさんの話が本当なら、悪いのは雲井藩と戸張家の陰陽師でしょ。東雲家としたら、その内情を知る二人がこっち側についてくれたら都合がいいじゃない」
「……あの者たちに寝返ろというのか」
難しい顔をしながら低い石段を上がっていく蒼司は、庭の端にある小高い丘の中、木に覆われた東屋へと足を踏み入れた。
四本の柱の上にある茅葺屋根には、青々とした桜の枝がしだれかかっている。
質素な木のベンチ──長床几《ながしょうぎ》というらしいそれに下ろされた。木々の隙間から見る庭は日に照らされている。その眩しい緑を前にして、薄暗かった土蔵の中を思い出した。
想像していた牢屋と違って座敷になっていたし、思っていたほど不衛生さを感じなかった。だけど、陽射しがほとんど入り込まないあの場所で、弟の無事をただ祈っているのかと考えたら胸がつまる。
「容易ではなかろう。弟は姉の言葉を信じないのだぞ」
「私は、あめさんが嘘をついてるとは思えないんだよね。どうして信じないのかな……」
「幼かった時の大人の言葉とは、重いものだ」
「……そっか」
少し表情を陰らせた蒼司を見て、はたと思い出した。そういえば、蒼司のお母さんが亡くなったのも五つの頃だったよね。
ずっとお母さんの言葉を胸に生きてきた蒼司だから感じるなにかがあるのかな。
五歳か……満五歳なのか数え年で五歳なのかわからないけど、どちらにしても幼い。それから十五年もの間、育ての親に敵は葦原藩だ、東雲だと吹き込まれ続けたら洗脳もされても仕方ないのか。
だけど、それで本当の仇に使われるって悲しすぎる。
「東雲家や葦原藩にとってメリットしかないのに、上手くいかないね」
「めりっと?」
「あーえっと、利点のことね。利害が一致すれば、敵だって味方になるよね」
横に腰を下ろした蒼司は、なるほどと呟くと、私の顔をじっと見つめた。これは、話しを続けろってことかな。
「あめさん姉妹は本当の仇を討ちたいだろうし、葦原藩と東雲家だって雲井藩をどうにかしたいでしょ?」
「それはそうだが……」
「信じさせるのに、なにか証拠を突きつけるのはどうかな?」
「姉の言葉を信じないくらいだ。捏造だと言い出すだろう。あの者は死んで弟に気付かせようとしたのだろう。やりつくしたのだろう」
「そんな……」
死んでだなんて間違ってる。諦めるのはおかしい。
「死んじゃったら、あめさんの声は届かなくなっちゃうんだよ!」
思わず蒼司に向かって声を荒げると、その瞳が見開かれた。
方法は思いつかないけど、このまま、あめさんの弟と対立しているのは間違ってる。
どうにかしたいって思いだけで、蒼司を見つめていると、その薄い唇からため息が零れ落ちた。
「……附子の騒動が絡んでいるとなれば、父上も動くであろう」
「本当? それなら早く──」
話しに行こうという前に、手首を掴まれた私は蒼司の胸へと引き寄せられた。
「蒼司さん?」
「……そなたを殺そうとした者を私に救えとは、なかなか酷なことをいうのだな」
耳に触れた低い声に、一瞬、言葉を失った。

