満月が映り込む大きな池は、散る桜の花びらで薄ピンクに染まっていた。
月明かりに照らされた花筏を見るのは初めて。どこか幻想的な風景に、ここが夢の中じゃないなんて。ひやりとする板の間を進みながらも、なんだか実感がわかない。
長い縁側を進んだ先にあった屋敷の離れは、どう見たって私の実家よりも大きい。
懐かしい草の香りがする畳が敷き詰められた座敷に上がり、勧められるままに腰を下ろした。
「こちら梅御殿は巫女様の新居となります」
「梅御殿?」
「そこから古い梅の木を望むことができることから、こちらをそう呼んでおります。足りないものがありましたら、なんなりとお申し付けください」
にこりと笑う父親は、奥に寝間や私の部屋になる座敷もあることを教えてくれた。
「女中が控える間や台所もございます。明日、ご案内いたしますので、今夜はお休みください。今、湯殿の用意もさせておりますゆえ、まずはお疲れを癒して頂ければと──」
「あ、あの、さっきの話ですけど、結婚ってなにかの間違いですよね?」
穏やかに続いていた説明を断ち切るように、申し訳なく思いながら問いかけてみると、あっさり「間違いではございません」と返ってきた。眉一つ動かさずな笑顔がかえって怖いくらいだ。
助けを求めるように蒼司へと視線を向けるも、彼も微笑むばかりだ。
「でも、会ったばかりの人と結婚だなんて……」
「ご心配には及びません。この結婚は、巫女様に滞りなくお勤めをしていただくための契約にございます」
「……お勤め? あ、あの、そもそも月の巫女って、なにをすればいいのですか?」
ことと次第によっては、結婚なんてしなくていいんじゃないのかな。
そもそも、私の知識の中では「巫女」は未婚女性って認識だ。まあ、契約結婚っていうなら、そういう男女の関係にならなくていいってことかもしれないけど。
すがるように蒼司を見ると、切れ長の瞳と視線が合った。その静かな微笑みに、思わずドキッとしてしまう。
恋……してるわけじゃないけど、こんなイケメンがすぐ横にいるのは心臓に悪いわ。
「夜も遅いですが、少しご説明しましょう」
私と蒼司を交互に見た父親は、静かに語り始めた。
「月の巫女とは、将軍家に危機が迫った時に異世界より招かれる乙女にございます。古くは、巫女様の力で田畑を潤し、病や災いを鎮めた記録がございます」
話を聞くに、お祈りを捧げたとかそういう感じかな。巫女っぽいといったらそうね。
でも、私は神社の娘でもなければ、安倍晴明の血縁でもない。ガッカリさせる未来しか見えないんだけど。
月明かりに照らされた花筏を見るのは初めて。どこか幻想的な風景に、ここが夢の中じゃないなんて。ひやりとする板の間を進みながらも、なんだか実感がわかない。
長い縁側を進んだ先にあった屋敷の離れは、どう見たって私の実家よりも大きい。
懐かしい草の香りがする畳が敷き詰められた座敷に上がり、勧められるままに腰を下ろした。
「こちら梅御殿は巫女様の新居となります」
「梅御殿?」
「そこから古い梅の木を望むことができることから、こちらをそう呼んでおります。足りないものがありましたら、なんなりとお申し付けください」
にこりと笑う父親は、奥に寝間や私の部屋になる座敷もあることを教えてくれた。
「女中が控える間や台所もございます。明日、ご案内いたしますので、今夜はお休みください。今、湯殿の用意もさせておりますゆえ、まずはお疲れを癒して頂ければと──」
「あ、あの、さっきの話ですけど、結婚ってなにかの間違いですよね?」
穏やかに続いていた説明を断ち切るように、申し訳なく思いながら問いかけてみると、あっさり「間違いではございません」と返ってきた。眉一つ動かさずな笑顔がかえって怖いくらいだ。
助けを求めるように蒼司へと視線を向けるも、彼も微笑むばかりだ。
「でも、会ったばかりの人と結婚だなんて……」
「ご心配には及びません。この結婚は、巫女様に滞りなくお勤めをしていただくための契約にございます」
「……お勤め? あ、あの、そもそも月の巫女って、なにをすればいいのですか?」
ことと次第によっては、結婚なんてしなくていいんじゃないのかな。
そもそも、私の知識の中では「巫女」は未婚女性って認識だ。まあ、契約結婚っていうなら、そういう男女の関係にならなくていいってことかもしれないけど。
すがるように蒼司を見ると、切れ長の瞳と視線が合った。その静かな微笑みに、思わずドキッとしてしまう。
恋……してるわけじゃないけど、こんなイケメンがすぐ横にいるのは心臓に悪いわ。
「夜も遅いですが、少しご説明しましょう」
私と蒼司を交互に見た父親は、静かに語り始めた。
「月の巫女とは、将軍家に危機が迫った時に異世界より招かれる乙女にございます。古くは、巫女様の力で田畑を潤し、病や災いを鎮めた記録がございます」
話を聞くに、お祈りを捧げたとかそういう感じかな。巫女っぽいといったらそうね。
でも、私は神社の娘でもなければ、安倍晴明の血縁でもない。ガッカリさせる未来しか見えないんだけど。

