薄暗い土蔵を出ると、眩しい陽射しがに眩暈を感じて足元がふらついた。
とんっと肩が蒼司の胸に当たると、大きな手が肩を支えてくれた。
「大事ないか」
「うん。長いこと座ってたから、足が痺れちゃって」
「……そうではない」
曖昧に笑って頷いた私に、蒼司はため息をついた。すると、私の肩を抱いたかと思うと、ひょいっと体を抱え上げた。
急な浮遊感に驚いて、その肩に掴まると「少し散歩でもしよう」と穏やかな声が降ってきた。
「蒼司さん、私、歩けるよ!?」
「ふらついた足でなにをいうか」
「だ、だって、その……」
土蔵の前には見張りの武士もいるわけで、彼らはとても驚いた顔をしている。微笑ましく見守ってくれているようだけど、見られる方は恥ずかしいわけで。
穴があったら入りたい。
蒼司の薄い羽織の端を握りしめると、肩を抱く手に少しだけ力が込められた。
「梅御殿の庭に東屋がある。そこまでは黙って抱えられておればよい」
「でも……恥ずかしいし」
「屋敷の中で気にすることもないだろう」
すぐ側で優しく笑う蒼司に反抗できるわけもなく、頷くようにして少し俯いた。
土蔵から離れ、梅御殿からも望める庭を歩いていた。
降り注ぐ陽射しは数日前の梅雨空と違って、夏の訪れを感じさせるけど、現代日本のようなじりじりとした焦げるような暑さはない。さすがに着物姿で、お姫様抱っこされていると、緊張も相まってじんわり汗をかくけど。
植え込みの間から小鳥のさえずりが聞こえた。
さっきまで、薄暗い土蔵にいたのが嘘のように、ここは穏やかな空気をしている。
小鳥の鳴き声に、思わず反応して首を巡らせると、しばらく黙っていた蒼司が私を呼んだ。
「凛、あの者から聞きたかった話は、全て聞けたか?」
「聞けたけど、まさか、あんな風に脅されているとは思ってなかった……蒼司さんは?」
曖昧に笑って答えると、飛び石を進む蒼司から、小さなため息がこぼれ落ちた。
「雲井藩がからんでいるとは思っていたが、十五年前の騒動は想定外だ。父上にも報告せねばならんな」
「そうだよね。……ねぇ。雨宮さん、あめさんを助けられないかな?」
植え込みの間にある飛び石を歩いていた蒼司は、私の言葉に小さく唸ると黙り込んだ。
やっぱり無理な相談なのかな。
私としては、あめさんの弟を助けたいし、彼女のことも許したいんだよな。だって、このままじゃ二人はきっと蜥蜴の尻尾切りにあうだけで、本当に悪い人たちは高笑いをしながら、また別の人を使うに決まってる。
それじゃ、なにも解決しないし誰一人幸せになれない。
「私は死んでないし、大奥でも死人が出てるわけじゃないでしょ?」
「そうではあるが……」
「桜さんだって、毒を盛られたわけじゃなかったんだし」
「……しかし、大奥内で堕胎が相次いだのが、あの者の仕業であれば、将軍様のお世継ぎを亡き者にしたともいえる」
「それはそうだけど……そもそも、それだって悪いのは雲井藩でしょ?」
声を潜めて問うと、蒼司はまた唸った。
とんっと肩が蒼司の胸に当たると、大きな手が肩を支えてくれた。
「大事ないか」
「うん。長いこと座ってたから、足が痺れちゃって」
「……そうではない」
曖昧に笑って頷いた私に、蒼司はため息をついた。すると、私の肩を抱いたかと思うと、ひょいっと体を抱え上げた。
急な浮遊感に驚いて、その肩に掴まると「少し散歩でもしよう」と穏やかな声が降ってきた。
「蒼司さん、私、歩けるよ!?」
「ふらついた足でなにをいうか」
「だ、だって、その……」
土蔵の前には見張りの武士もいるわけで、彼らはとても驚いた顔をしている。微笑ましく見守ってくれているようだけど、見られる方は恥ずかしいわけで。
穴があったら入りたい。
蒼司の薄い羽織の端を握りしめると、肩を抱く手に少しだけ力が込められた。
「梅御殿の庭に東屋がある。そこまでは黙って抱えられておればよい」
「でも……恥ずかしいし」
「屋敷の中で気にすることもないだろう」
すぐ側で優しく笑う蒼司に反抗できるわけもなく、頷くようにして少し俯いた。
土蔵から離れ、梅御殿からも望める庭を歩いていた。
降り注ぐ陽射しは数日前の梅雨空と違って、夏の訪れを感じさせるけど、現代日本のようなじりじりとした焦げるような暑さはない。さすがに着物姿で、お姫様抱っこされていると、緊張も相まってじんわり汗をかくけど。
植え込みの間から小鳥のさえずりが聞こえた。
さっきまで、薄暗い土蔵にいたのが嘘のように、ここは穏やかな空気をしている。
小鳥の鳴き声に、思わず反応して首を巡らせると、しばらく黙っていた蒼司が私を呼んだ。
「凛、あの者から聞きたかった話は、全て聞けたか?」
「聞けたけど、まさか、あんな風に脅されているとは思ってなかった……蒼司さんは?」
曖昧に笑って答えると、飛び石を進む蒼司から、小さなため息がこぼれ落ちた。
「雲井藩がからんでいるとは思っていたが、十五年前の騒動は想定外だ。父上にも報告せねばならんな」
「そうだよね。……ねぇ。雨宮さん、あめさんを助けられないかな?」
植え込みの間にある飛び石を歩いていた蒼司は、私の言葉に小さく唸ると黙り込んだ。
やっぱり無理な相談なのかな。
私としては、あめさんの弟を助けたいし、彼女のことも許したいんだよな。だって、このままじゃ二人はきっと蜥蜴の尻尾切りにあうだけで、本当に悪い人たちは高笑いをしながら、また別の人を使うに決まってる。
それじゃ、なにも解決しないし誰一人幸せになれない。
「私は死んでないし、大奥でも死人が出てるわけじゃないでしょ?」
「そうではあるが……」
「桜さんだって、毒を盛られたわけじゃなかったんだし」
「……しかし、大奥内で堕胎が相次いだのが、あの者の仕業であれば、将軍様のお世継ぎを亡き者にしたともいえる」
「それはそうだけど……そもそも、それだって悪いのは雲井藩でしょ?」
声を潜めて問うと、蒼司はまた唸った。

