あの日、座敷で私を見ていた雨宮の冷静な姿と静かな瞳からは、戸惑いなんて感じなかった。あの時、彼女はなにを考えていたんだろう。
私が毒を盛られた方が手っ取り早いとは思ってたけど、もしもあの場で私を殺したら、疑われるのは間違いなく雨宮なわけだし。良策とは思えないんだよね。
眉間にしわを寄せながら唸っていると、蒼司から小さなため息が聞こえてきた。
「あとは私たちに任せ、ゆっくり休めばよい」
「でも……ねえ、蒼司さん。雨宮さんと話しをしたいんだけど」
「あの女中とか?」
「無理かな?」
「……無理ではないが、なにも話さないかもしれないぞ」
眉間にしわを寄せた蒼司は、少し唸るように深い息をついた。
「どういうこと?」
「尋問しても、指図をする者の名どころか、毒の隠し場所や目的さえ明かさない」
「えっ、それって大丈夫なの?」
月江戸での司法や刑罰はわからないけど、現代日本みたいに黙秘権があるとは思えない。
蒼司は尋問っていったけど、もしかしたら拷問だって受けているんじゃないか。
想像したら背筋が震え、無意識のうちに蒼司の手を握りしめた。
「……あまりよくはないな。今は、藤堂重貞公の口添えもあり、東雲家預かりとなっているが」
「重貞公って……葦原藩の? でも、雨宮さんって雲井藩の人よね。それなのに、東雲家で預かっているの?」
「いろいろと清方様も手を回してくれたらしい。葦原藩としてみれば、雲井藩の企みを暴く好機だ。女中から首謀者を聞き出そうとお考えなのだろう」
「……雨宮さんに雲井藩を裏切らせるってこと? それって、難しいんじゃないかな」
私の問いに、蒼司はぐうっと喉を鳴らして黙り込んだ。
「裏切るんだったら、もっと早くから桜さんや清方様に打ち明けたんじゃないかな? きっと、そのタイミングはあったはずだし……」
いいながら、再びもやもやと違和感を覚えた。
そもそも、雨宮が大奥で毒を盛ることのメリットはなんなのか。たぶん、大きな目的は懐妊した女中の堕胎よね。現に、女中の堕胎が続いていたわけだし。
だけど、仲が悪い藩の側室である桜の方は毒を盛られなかった。その代わりに、義妹である私が致死量を盛られた。──それってもしかして、自分は雲井藩に敵対していませんってアピールしたかったんじゃないのかな。だとしたら、なんのために?
「……凛?」
黙り込んだ私の顔を、蒼司が心配そうに見つめていた。
「ね、蒼司さん……雨宮さんと話せないかな?」
私のお願いに、蒼司の瞳が見開かれた。また唐突なことをいいだしてと、思っているのかもしれない。
蒼司は目を閉じて左の眼帯を触ると、小さく唸って考える素振りを見せた。それを横で見つめていると、ずっと繋がれている手を握りしめる指に少しだけ力が込められた。
私が「お願い」といえば、深いため息の後に「巫女様の願いとあらば断われまい」と、わざとらしい言葉が返ってきた。
私が毒を盛られた方が手っ取り早いとは思ってたけど、もしもあの場で私を殺したら、疑われるのは間違いなく雨宮なわけだし。良策とは思えないんだよね。
眉間にしわを寄せながら唸っていると、蒼司から小さなため息が聞こえてきた。
「あとは私たちに任せ、ゆっくり休めばよい」
「でも……ねえ、蒼司さん。雨宮さんと話しをしたいんだけど」
「あの女中とか?」
「無理かな?」
「……無理ではないが、なにも話さないかもしれないぞ」
眉間にしわを寄せた蒼司は、少し唸るように深い息をついた。
「どういうこと?」
「尋問しても、指図をする者の名どころか、毒の隠し場所や目的さえ明かさない」
「えっ、それって大丈夫なの?」
月江戸での司法や刑罰はわからないけど、現代日本みたいに黙秘権があるとは思えない。
蒼司は尋問っていったけど、もしかしたら拷問だって受けているんじゃないか。
想像したら背筋が震え、無意識のうちに蒼司の手を握りしめた。
「……あまりよくはないな。今は、藤堂重貞公の口添えもあり、東雲家預かりとなっているが」
「重貞公って……葦原藩の? でも、雨宮さんって雲井藩の人よね。それなのに、東雲家で預かっているの?」
「いろいろと清方様も手を回してくれたらしい。葦原藩としてみれば、雲井藩の企みを暴く好機だ。女中から首謀者を聞き出そうとお考えなのだろう」
「……雨宮さんに雲井藩を裏切らせるってこと? それって、難しいんじゃないかな」
私の問いに、蒼司はぐうっと喉を鳴らして黙り込んだ。
「裏切るんだったら、もっと早くから桜さんや清方様に打ち明けたんじゃないかな? きっと、そのタイミングはあったはずだし……」
いいながら、再びもやもやと違和感を覚えた。
そもそも、雨宮が大奥で毒を盛ることのメリットはなんなのか。たぶん、大きな目的は懐妊した女中の堕胎よね。現に、女中の堕胎が続いていたわけだし。
だけど、仲が悪い藩の側室である桜の方は毒を盛られなかった。その代わりに、義妹である私が致死量を盛られた。──それってもしかして、自分は雲井藩に敵対していませんってアピールしたかったんじゃないのかな。だとしたら、なんのために?
「……凛?」
黙り込んだ私の顔を、蒼司が心配そうに見つめていた。
「ね、蒼司さん……雨宮さんと話せないかな?」
私のお願いに、蒼司の瞳が見開かれた。また唐突なことをいいだしてと、思っているのかもしれない。
蒼司は目を閉じて左の眼帯を触ると、小さく唸って考える素振りを見せた。それを横で見つめていると、ずっと繋がれている手を握りしめる指に少しだけ力が込められた。
私が「お願い」といえば、深いため息の後に「巫女様の願いとあらば断われまい」と、わざとらしい言葉が返ってきた。

