月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 私を引き寄せた腕に抱きすくめられ、頬を寄せた胸から早い鼓動が伝わってくる。

「凛、そなたが目を覚まさない間、この手が冷えていったらどうしようかと、そればかり考えていた」
「蒼司さん……ご心配をおかけしました。でもほら、月の加護のおかげで──」
「それがなければ即死であったぞ」

 少し怒ったような声が耳元で囁いた。驚いて顔を上げると、厳しい眼差しが私を見つめている。

「そなたが袖に隠した湯呑から、蠱毒の反応があった」
「……蠱毒って、あの、呪いに使う?」
「ああ。それと一緒に別の反応もあったが……とにかく、クマ一頭殺せるほどの猛毒だ。よく飲めたものだし、それをよく持ち帰ったものだ」

 ため息をついた蒼司は少し微笑むと「よう耐えたな」と呟いた。
 肩に羽織がかけられ、もう一度抱き締められる。

「もう二度と、大奥になど行かせはしない」
「……え?」
「毒を盛った女中も捕らえた」
「捕らえたって、雨宮さんを?」
「ああ。その者に繋がる術者に辿り着くのも、時間の問題だろう」

 だから大奥に潜入する必要がなくなったと、蒼司は私の髪を撫でながらいうけど、それって問題が解決したわけじゃないよね。
 これでハッピーエンドとは全く思えない。

「……ねえ、雨宮さんはどうして、あんなに堂々と毒を盛ったのかな?」
「それは、凛を邪魔に思ってだろう」
「でも私が倒れたら、あの場所を調べられるでしょ?」
「人が来る前に、毒を入れた器を処分するつもりだったのだろう」
「器を処分……」

 大奥でのことを思い返し、なるほどと頷いた。
 多分、最初のお茶にも毒は含まれていたのよね。騒ぎに乗じて毒の入った器を捨てるか、あるいは、おふくさんに罪を擦り付けるつもりだったのかもしれない。

 お持たせの包みを持って戻ってきた時、驚いた顔をしていたのは、私が苦しんでいると思っていたからか。
 二杯、三杯って飲ませたのは、私が意識のある状態でいたら捨てるに捨てられないってことね。
 
 いっそうのこと私が毒を盛られたら楽なのに。そう考えていた通りになり、ほっとしながらも少しだけ怖くなった。
 これで彼女の裏にいる術者や糸を引いている者が見つかるといいんだけど。もしも見つからなかったら、次はどうしたらいいんだろう。もしも、他の人が桜の方に近づいたら……

「……そうだ、桜さん! 桜さんは大丈夫だったの? 体調が悪いといってたけど、まさか、毒を飲まされていたんじゃ」
「それは心配ない」

 私の慌てた様子に、蒼司は穏やかに微笑んだ。
 どうして言い切れるのか問い詰めようとして、蒼司の表情が凄く穏やかなことに気付いた。
 切れ長の瞳が細められ、口角も優しく上がっている。慈しむような微笑みは、毒の話をするのに不釣り合いすぎる。あんなに桜の方を心配していたのに、どうしてあっさり心配ないなんていえるのか。

「再び命を授かったそうだ」
「……え?」
「清方様が教えてくださった。だいぶ悪阻が酷いらしい」
「悪阻……悪阻って……赤ちゃんができたの!?」

 驚く私を見て、蒼司は静かに頷く。
 数秒後、彼の表情が穏やかなことに合点がいった。体調が悪いってそういうことだったのか。
 見つめ合って一呼吸おけば、自分のことのように喜びが込み上げ、頬が緩み始めた。

 今度は女の子かな、それとも待望の男の子かな。そう考えたら、ますます嬉しくなって胸が熱くなった。