──夢を見ていた。
過去に付き合ったモラハラ男子に束縛男と浮気男、暗闇に浮かんでは消える最低な男たち。一秒たりとも思い出したくないのに、どうして何度も姿を現すのか。
繰り返される黒歴史に、頭が沸騰しそうになる。体が酷く熱かった。
奥歯を噛み締めていると、目の前に優しそうな彼が現れた。飲み会の席で気を遣ってくれた彼は、メガネの向こうにある切れ長の瞳を細めて笑った。
やっと新しい恋を見つけたと思ったのに。今度こそ、最低男運から脱却できると思ったのに。優しそうな彼が、私の親友とイチャイチャする姿が暗闇に浮かんだ。
どこまでいっても、私の男運は最低だ。
膝を抱えて丸まっていると、眩しいヘッドライトと悲鳴、喧噪が蘇った。路線バスが迫りくる──まともな恋ができないまま死ぬだなんて、嫌だ!
瞬間、脳裏に浮かんだのは、眼帯で片目を覆った斎服姿の美しい人だった。
「……蒼司、さん……蒼司さん!」
手を伸ばせば届く位置にいる。
蒼司は私に気付いたのか、その大きな両手を広げる。
「──……凛、こっちだ……凛」
消えそうな声が聞こえてきた。なんども私を呼ぶ声が耳に触れ、その奥へと染みわたっていく。
感覚のなかった指先に、温もりが広がった。
温かな指が髪を撫で、頬を撫で、私がいることを確かめているとわかる。
「頼む。目を覚ましてくれ」
搾るような声が耳に響き、胸の奥が苦しくなった。
指を握る感覚に応えるよう、指先へ力を込めて「うん」と精一杯頷いた。重たい瞼を押し上げれば、眩い光が広がっていく。
「──……凛、私がわかるか?」
少し低い声が耳に触れ、霞む世界が次第にはっきりしていく。
そこに、泣きそうな顔をした蒼司がいた。私の頬を撫でていた指に、そっと手を重ねて頷くと、細められた瞳からはらはらと涙が零れ落ち、私たちの指を濡らした。
すぐに医者を、その前にお館様へご報告を──女中たちが騒ぐ声を聞きながら、私はぼんやりと、いつの間に梅御殿へと戻ってきたのか考えていた。
大奥で和菓子の紫陽花を食べてお茶を飲んで、雨宮と話していたのを覚えている。
やけに体が熱くなって、毒を盛られたのかもって思って……そこまで思い出し、ハッとした。
「蒼司さん……あの、私、大奥で」
「急に動かない方がよい」
体を起こそうとすれば、蒼司は少し慌てたように私の身体を支えた。
見つめる瞳はまだ潤んでいる。本当に心配してくれて側にいてくれたのだろう。
後から聞かされたんだけど、蒼司は時間の限り私の傍を離れなかったらしい。いくら女中が診ているからといっても「凛が目を覚ました時、真っ先に見るのは私でなくてはならない」と言い張ったとか。
そんなこととがあったなんて想像もしてなくて、この時、私は大奥のことを確認することしか思いつかなかったんだけどね。
「……私、毒を飲んだの?」
蒼司の袖を掴んで訊けば、表情を引き締めた彼は深く息を吸い込んだ。
大きな手が指を撫で、包み込む。
「ああ……だからいったではないか。気をつけよと」
過去に付き合ったモラハラ男子に束縛男と浮気男、暗闇に浮かんでは消える最低な男たち。一秒たりとも思い出したくないのに、どうして何度も姿を現すのか。
繰り返される黒歴史に、頭が沸騰しそうになる。体が酷く熱かった。
奥歯を噛み締めていると、目の前に優しそうな彼が現れた。飲み会の席で気を遣ってくれた彼は、メガネの向こうにある切れ長の瞳を細めて笑った。
やっと新しい恋を見つけたと思ったのに。今度こそ、最低男運から脱却できると思ったのに。優しそうな彼が、私の親友とイチャイチャする姿が暗闇に浮かんだ。
どこまでいっても、私の男運は最低だ。
膝を抱えて丸まっていると、眩しいヘッドライトと悲鳴、喧噪が蘇った。路線バスが迫りくる──まともな恋ができないまま死ぬだなんて、嫌だ!
瞬間、脳裏に浮かんだのは、眼帯で片目を覆った斎服姿の美しい人だった。
「……蒼司、さん……蒼司さん!」
手を伸ばせば届く位置にいる。
蒼司は私に気付いたのか、その大きな両手を広げる。
「──……凛、こっちだ……凛」
消えそうな声が聞こえてきた。なんども私を呼ぶ声が耳に触れ、その奥へと染みわたっていく。
感覚のなかった指先に、温もりが広がった。
温かな指が髪を撫で、頬を撫で、私がいることを確かめているとわかる。
「頼む。目を覚ましてくれ」
搾るような声が耳に響き、胸の奥が苦しくなった。
指を握る感覚に応えるよう、指先へ力を込めて「うん」と精一杯頷いた。重たい瞼を押し上げれば、眩い光が広がっていく。
「──……凛、私がわかるか?」
少し低い声が耳に触れ、霞む世界が次第にはっきりしていく。
そこに、泣きそうな顔をした蒼司がいた。私の頬を撫でていた指に、そっと手を重ねて頷くと、細められた瞳からはらはらと涙が零れ落ち、私たちの指を濡らした。
すぐに医者を、その前にお館様へご報告を──女中たちが騒ぐ声を聞きながら、私はぼんやりと、いつの間に梅御殿へと戻ってきたのか考えていた。
大奥で和菓子の紫陽花を食べてお茶を飲んで、雨宮と話していたのを覚えている。
やけに体が熱くなって、毒を盛られたのかもって思って……そこまで思い出し、ハッとした。
「蒼司さん……あの、私、大奥で」
「急に動かない方がよい」
体を起こそうとすれば、蒼司は少し慌てたように私の身体を支えた。
見つめる瞳はまだ潤んでいる。本当に心配してくれて側にいてくれたのだろう。
後から聞かされたんだけど、蒼司は時間の限り私の傍を離れなかったらしい。いくら女中が診ているからといっても「凛が目を覚ました時、真っ先に見るのは私でなくてはならない」と言い張ったとか。
そんなこととがあったなんて想像もしてなくて、この時、私は大奥のことを確認することしか思いつかなかったんだけどね。
「……私、毒を飲んだの?」
蒼司の袖を掴んで訊けば、表情を引き締めた彼は深く息を吸い込んだ。
大きな手が指を撫で、包み込む。
「ああ……だからいったではないか。気をつけよと」

