月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 身体の奥が熱い。それに、さっきから脈がやけに速く感じる。
 じわりと汗が浮き上がって喉を伝い落ちるのがわかった。

「今日は少し気温が高いのでしょうか?」

 空になった湯呑を受け皿に戻しながら、おふくさんに尋ねると、不思議そうな顔をされた。

「どうでしょう。むしろ涼しいくらいかと思いますが。──ふふっ、お屋敷で待たれる若様のことを思い出しましたか?」
「えっ、そ、そんなことは……」
「本当に夫婦仲がよろしく、羨ましいですわ」

 どうやら、暑くて火照っているのを照れていると思われたようだ。確かに、おふくさんに希望だなんていわれたり、蒼司と夫婦になろうとしていたことに気付かされて、驚きと恥ずかしさを覚えはした。だけど、この熱はそれだけじゃないような気もする。
 ちらりと湯呑の中を見て、背筋が震えた。──まさか、毒が入っていた?

 脳裏に雨宮の顔を思い浮かべた時だった。

「お待たせしました」

 静かな声を振り返ると、お持たせの和菓子が入った包みをもった雨宮が座敷に入ってきた。そうして私を見ると、少し驚いた顔をする。

「雨宮様、凛様が少し暑いといわれまして」
「……凛様も体調がすぐれないのでしょうか?」

 傍に腰を下ろした雨宮は、失礼しますといって私の首筋に触れてきた。
 ひやりとした指先に鼓動が早まり、無意識に息を呑んだ。

「少々、熱が高いようですね」
「まあ……では、今すぐ迎えを呼びましょう」

 おふくさんは慌てた様子でいそいそと立ち上がり、清方様にお声掛けをしてまいりますといって座敷を出ていった。
 雨宮と二人きりになり、緊張が走った。

「今、お茶のお代わりを入れましょう。迎えが来るまで、楽になさってください」

 雨宮はひじ掛けを私の脇によせ、空になった湯呑に手を伸ばした。

「紫陽花はお召し上がりにならなかったのですね。寒天が爽やかですから、気分がようなるかもしれませんよ」

 新しいお茶の用意をしながら、雨宮は淡々という。
 和菓子を食べていけということなのか。
 脳裏から毒の文字が消えず、鼓動がさらに激しくなる。

「……では、少しいただきます」

 私に毒は効かない。
 女神様の言葉を信じ、黒文字に手を伸ばした。キラキラとした寒天に覆われた紫陽花を、ひと口大に切り、おもむろに口へと運んだ。

 ほろほろと口の中で解ける寒天と、白餡のほのかな甘みが広がる。舌でじっくりと味わうが、特に変な味はしなかった。一口、二口と回を重ねるも、特に違和感は……毒は入っていない?
 
「お茶をどうぞ」