月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

「これも違うな。とても線の細い字だ。わざとそうしたのかもしれんが、やはり、我の文字が異なる」
「うん、私もそう思う。じゃあ、次はこれね」

 指し示したのは、一番若いおふくさんの書いたものだ。
 半紙の文字を目で追いながら、蒼司は穏やかな声で読み上げる。

(いめ)にだに見えむと我はほどけども、(あい)し思はねばうべ見えざらん」

 会えないなら夢で会いたいけど、あなたが思ってくれなければ夢でも会えない。──今も昔も変わらない恋い焦がれる思いを綴った和歌で、強い思いが伝わると目を輝かせながら、おふくさんが教えてくれた。こんな風に思われてみたいと頷き合ってしまった。

 あんなに乙女で可愛い子が人を呪ったりしていたら、世も末だと思うのよね。
 じっと蒼司を見ていると、彼は再び首を横に振った。

「ずいぶん子どもっぽい字だ。郭公の文とは全くの別人」
「おふくさんは私よりももっと若かったし、文字や和歌の手習いを桜さんにお願いしているっていってたよ」
「なるほど、商家の娘か。……それが最後か?」
「雨宮さんのよ」

 半紙に指を伸ばした蒼司の手がピクリと反応した。

百千度(ももちたび)恋ふと言ふとも諸弟(もろと)らが、練りの言葉はわれは頼まじ」

 和歌を読む蒼司の眉が少しひそめられ、私も息を呑んだ。
 この和歌にある我の文字だけ、かなで書かれている。それに、私も違和感を覚えたのよね。

「何千回とあなたが恋しがっているといわれても、使いの言葉にはもう騙されないよ。──疑り深い様子が書かれ、家持は意外と小心者なのではと思うと愛しくなります。そう雨宮さんは寂しそうな顔で話してくれたの」
「……寂しそうな、か」

 恋の歌なのに、どうしてあんなに寂しい顔をしていたのか。他の女中が楽しげに話していたのもあって、すごく気になった。なにか別のことを重ねて考えていたんじゃないか。
 
 小さくため息をつくと、蒼司は「ふが似ているな」と呟いた。
 ちょうど「ふ」に当たる場所を並べ、改めて文字を目で追った。しなやかな文字は、確かにとてもよく似ていた。
 義父も怪しいと睨んでいるのよね。それで、筆跡まで似ているとなったら……

 ごくりと息を呑むと、蒼司は持っていた半紙を畳に伏せた。

「……確定はできないが、凛、雨宮という女には気をつけるんだ」

 その言葉に、だけどということはできず頷しかない。

「桜さんには伝えた方がいいの?」
「父上から清方様に伝えていただこう。証拠となる毒が出てきたわけではないが、警戒してもらうに越したことはない」
「……そうね」

 頷きながら、少しだけ不安を抱いた。
 寂しげな顔を思いだし、しなやかな文字が書かれた半紙を手に取る。そんな悪い人に見えないんだよね。