話を一通り聞き終えると、蒼司は遠慮がちに「姉上の様子はどうであった」と、大奥でのことを尋ねた。
和歌のことを話さないといけないけど、やっぱり青司は桜の方の様子を知りたいよね。
「少し顔色が優れない様子だったけど、寝込むようなことはないみたい」
「梅雨空で身体を冷やしたのだろうか」
「そうかも。ここ最近、雨続きで冷えたものね」
いいながら立ち上がり、文机に置いてある文箱の前へと移動すれば、蒼司もそろりとついてきた。
静かに蓋を開け、中から和歌を書いてもらった半紙を取り出す。
「でも、和歌の話を始めたら、とても楽しそうだったよ」
「そうであったか……これは姉上の字だな」
一枚を手にしていう蒼司の声は、少し嬉しそうだ。本当に姉弟仲がいいんだと感じると、ほんの少し羨ましくさえ思う。
残りの半紙を並べていくと、小さく「ふむ」と頷く声がした。
「あの場に顔を出してくれた女中さんだけだから、全員ではないけど」
「……姉上に近づけるのが、この四人ということか」
蒼司はいいながら懐に手を差し込み、あの焦げた手紙を引っ張り出した。それを開いて、半紙の横に並べる。
まず一つ目を手に取ると、静かな声で読み上げた。
「人眼多み逢はなくのみそ情さへ、妹をわすれて我が思はなくに」
これを薦めてくれたのは、小柄でぽっちゃりとした千代さんだった。
会えないけど忘れてなどいないと伝える和歌らしい。人目が多いから会いに行けないと慌てて訳を伝えるあたりが人のよさを滲ませてると、目を輝かせながら力説していた。
あんなに恋い焦がれる様子の千代さんが人を呪うなんて。ただただ疑問に思う。
「我という文字に癖が見られる」
「どこ?」
「ほら、この撥ねるところが繋がっている。この者は違うな」
蒼司の言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。その手が、次の半紙を手に取った。
「それは確か、背の高いお菊さんが書いたものね。──偽りも似つきてそするうつくしもまこと我妹子我に恋ひめや」
私が読み上げると、青司はうむと頷く。
嘘だって本当らしくつくものだと、相手の気持ちを確かめようと書かれたものらしい。
使いにいくらいわれても、思い合っていると信じることができない弱さが愛おしいと、お菊さんはしみじみ説明していた。人の弱い部分を愛おしく思う人が、誰かを呪うなんて信じられないのだけど。
和歌のことを話さないといけないけど、やっぱり青司は桜の方の様子を知りたいよね。
「少し顔色が優れない様子だったけど、寝込むようなことはないみたい」
「梅雨空で身体を冷やしたのだろうか」
「そうかも。ここ最近、雨続きで冷えたものね」
いいながら立ち上がり、文机に置いてある文箱の前へと移動すれば、蒼司もそろりとついてきた。
静かに蓋を開け、中から和歌を書いてもらった半紙を取り出す。
「でも、和歌の話を始めたら、とても楽しそうだったよ」
「そうであったか……これは姉上の字だな」
一枚を手にしていう蒼司の声は、少し嬉しそうだ。本当に姉弟仲がいいんだと感じると、ほんの少し羨ましくさえ思う。
残りの半紙を並べていくと、小さく「ふむ」と頷く声がした。
「あの場に顔を出してくれた女中さんだけだから、全員ではないけど」
「……姉上に近づけるのが、この四人ということか」
蒼司はいいながら懐に手を差し込み、あの焦げた手紙を引っ張り出した。それを開いて、半紙の横に並べる。
まず一つ目を手に取ると、静かな声で読み上げた。
「人眼多み逢はなくのみそ情さへ、妹をわすれて我が思はなくに」
これを薦めてくれたのは、小柄でぽっちゃりとした千代さんだった。
会えないけど忘れてなどいないと伝える和歌らしい。人目が多いから会いに行けないと慌てて訳を伝えるあたりが人のよさを滲ませてると、目を輝かせながら力説していた。
あんなに恋い焦がれる様子の千代さんが人を呪うなんて。ただただ疑問に思う。
「我という文字に癖が見られる」
「どこ?」
「ほら、この撥ねるところが繋がっている。この者は違うな」
蒼司の言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。その手が、次の半紙を手に取った。
「それは確か、背の高いお菊さんが書いたものね。──偽りも似つきてそするうつくしもまこと我妹子我に恋ひめや」
私が読み上げると、青司はうむと頷く。
嘘だって本当らしくつくものだと、相手の気持ちを確かめようと書かれたものらしい。
使いにいくらいわれても、思い合っていると信じることができない弱さが愛おしいと、お菊さんはしみじみ説明していた。人の弱い部分を愛おしく思う人が、誰かを呪うなんて信じられないのだけど。

