月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

「雨宮さんが雲井藩の人だとして、そんな厳重なところにどうやって紛れ込めたの?」
「雨宮という女は元々、姉上と仲のよかった御右筆、雪の方様に仕えていたようだ」
「雪の方様?」
「雲井藩の出だ。姉上に仕えていた女中が減らされた折り、姫が小さくて大変だろうと清方様に頼み、雨宮を移させたらしい」

 なるほど、自然な流れのように聞こえるわ。
 当時から清方様が大奥内の不穏な動きに警戒していたとしても、桜の方が産んだのは政権争いに繋がる姫。今すぐ命を狙われることはないと考えたのかもしれない。お仕事で仲がよかったなら、なおさらよね。

「その雪の方様は、今、どうしているの?」
「……雨宮という女が姉上の元に来る前、身籠られてな」

 蒼司は、まるで外に聞かれたら困るといわんばかりに、声をひそめた。

 大奥としたら一人でも多く妊娠するのは喜ばしいことだろけど……雪の方が雲井藩の人だから、東雲としては複雑ってことかしら。
 不思議に思いながら話の続きを待っていると、ふっと息をついて「体調を崩されたのだ」と低く告げた。

「つわりが酷かったの?」
「私は詳しく知らぬが……産後、亡くなられている」

 告げられた事実に緊張が走った。
 声をひそめて「生まれた御子は?」と恐る恐る訊ねると、蒼司は重い表情で静かに首を振った。死産だったってことか。

 江戸時代の出産は壮絶だったと、本で読んだことがある。身体への負担が原因で高血圧症を発症したし、臓器不全を起こすこともあった。現代日本では考えられないくらい、命がけだったのよね。
 考えるだけで、胸が痛くなった。

「姉上が雨宮という女と仲を深めたのも、雪の方様のことを嘆いてのことだろう」
「……そうだったのね」

 優しい桜の方だからこそ頷ける話だ。きっと、雪の方への恩義とか、思い出とかを雨宮に話して泣いたんだろう。そう考えたら、なんだか美談に思えるんだけど。

 ちらりと蒼司の顔色を窺うと、眉間にしわを寄せて困った顔をしている。

「父上は、雨宮という女をさらに調べるといっていた」
「そっか……でも、そんなに悪い人には思えないけど」

 確かに、あまり笑わないし会話にも入ってこない人だ。でも、桜の方に仕えるようになった経緯を聞いたら、笑えない気持ちもわかる。それに、周りもそこに触れたがらないのだろう。
 雨宮が気になった妙な空気感は、それが原因に思えてきた。