月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 羊羹を食べ終えて一息つくと、縁側に湯呑を下ろした蒼司は「父上の話だが」と重たい口を開いた。

 まだ温かさの残る湯呑を両手で持ったまま、静かな横顔を見つめた。その瞳は真っ直ぐ庭を見ているけど、どこか遠くを見ているようでもあった。

「雨宮という女中を調べたところ、雲井藩の者が関わっている可能性が出てきたそうだ」
「……雲井藩?」

 初めて聞く藩の名に首を傾げると、蒼司は頷いて私を振り返った。

「藤堂御三家の一つだ」
「御三家……」

 江戸時代でいう、尾張、紀伊、水戸を預かる徳川御三家と同じ認識でよさそうね。
 頷きながら耳を傾けると、蒼司は話を続けてくれた。

「雲井の現藩主は藤堂景宗(とうどうかげむね)公だ。野心的なお方でな……それと対立しているのが葦原(あしはら)藩主、藤堂重貞(とうどうしげさだ)公。東雲家はその縁戚に当たることもあり、父上は雲井藩をよく思っていない」

 徳川御三家と同じであれば、藤堂御三家も将軍を絶やさないために存在しているのよね。強い権限も持っていて、大奥内でも骨肉の争いが繰り広げられているのだろう。
 東雲家が葦原藤堂の縁としたら、姫を授かった桜の方を妬ましく思うのも想像がつく。

 清方様と会った時「御子を授かれないのは将軍家の一大事」っていわれたけど、それってもしかして、御三家の間で争いが起きかねないってことなのかも。──深く考えだすと、背筋が寒くなって震えた。

「御三家ってことは、残りの藩は……?」
湊川(みなとがわ)藩主藤堂頼忠(とうどうよりただ)公は少し変わり者で、将軍職に興味がないそうだ。商売で藩が潤うことを第一に考えて、葦原藩との関係も良好だ」
「てことは、雲井藩と湊川藩の仲もよくないのね」

 ますます、きな臭さを感じて息を飲む。

「ああ、そうなる。大奥内での女中たちの力関係にも影響をしている」
「やっぱり、そうなんだ……」

 いよいよドラマにもある大奥の争いが見えてくるような気がして、うすら寒いものを感じた。
 桜の方は、そんな中で彩葉姫を出産したのか。もしも男児だったら、さらなる権力争いに巻き込まれたんだろうな。

「でも、待って……桜さんは無事に出産したよね。どうして、妊娠がわかった時に毒を盛られなかったの?」
「姉上の身体の弱さが功を成したのだろう。当時、東雲の女中を見習奉公として入れることが出来た」
「見習奉公?」
「期間限定で奉公させるということだ。毒見役も東雲から上がらせてもらった。待望の御子だったこともあり、清方様も色々と融通してくださったのだ」

 そんなことがあったのかと頷きながら、ならそこに、どうやって雲井藩の女中が入り込んだのだろう。
 桜の方が出産した後、仕える女中は減らされたのだろうけど。